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第五章 記 憶 《Memory-3》
84 ポチ
しおりを挟む――ああ、なんだろう、これ?
すごーく、ふわふわして、もふもふで。
とっても気持ちがいい。
まるで、干したてのお布団みたいに、お日様のにおいがする。
「むふふふ……」
優花は、思わず、顔をそのもふもふに摺り寄せた。次の瞬間、頬が、というか顔全体が下から上へ、べろんと生温かい湿ったものでこすり上げられた。
その感覚に、まどろんでいた意識は、一気に現実に引き上げられる。
ぱちり、と開けた視線のまん前に、白い大きな鼻面があった。形や毛並は犬に近いがサイズがケタ違いに大きい。
「ふぇ……? なんら、これ?」
ぼぉっと視線を上げると、澄んだ青い瞳と、視線がかち合った。
――あれ?
もしかして、まだ、夢の続き?
『チガう、ユメじゃない』
頭の中へダイレクトに響いてきた低い声に、優花はぎょっと身を引く。見えてきた獣の全体像に目を丸めた。全長三メートルはありそうな巨大な白い狼に似た犬が優花が寝ているベッドの横に寝そべり、頭だけをベッドに乗せている。
それだけなら、『パラレル仕様の大きなワンコ』で説明はつくが、目の前の獣の背中には大きな翼が生えていた。
どうやら、自分はベッドの上で寝ていたらしい。目の前に居る、実に、ファンタジーな姿を持った獣と一緒に。
「――マジですか、これ?」
「マジだろうな、見たとおりに」
背後で上がった声に、ぎょっとして、振り返る。今まで気がつかなかったのがどうかしているくらいの、近距離に、晃一郎の顔があった。
「え……? ああっ!?」
クイーンサイズとおぼしき大きなベッドに、巨大サイズの羽根突きワンコと、自分と晃一郎が仲良く並んで川の字状態。しかも、晃一郎は、なぜか上半身裸の半裸だ。
――な、な、な、なにコレーーーっ!?
「俺は、もう少し寝る。ポチは、いい加減に元のサイズに戻れ、狭くてかなわん」
なんでこんな状況に陥っているのか理解できないで慌てふためく優花とは対照的に、晃一郎は至極落ち着いた表情で、というより、まだまだ眠たそうなトロンとした表情でボソボソとつぶやきを落として、言葉通りに目を閉じてしまった。
「え? ポチ? 元のサイズって……?」
晃一郎の言っていることが、微塵も理解できない。
――ポチってだれ?
この、大きな羽根付きワンちゃん?
ってか、この状況の説明はなしですか?
顔に疑問符を大量に貼り付けていた優花は、背後から、絡みつくように伸びてきた腕に抱え込まれて、瞬間冷凍された秋刀魚のごとく、全身ピキリと固まった。
「ふえっ?」
――ちょっ、ちょっと、晃ちゃん!
「まだ早い。……から、お前も寝ろ……」
抑揚のないつぶやきは、そのままスヤスヤと安らかな寝息に変わる。その寝息が首筋にかかって、ものすごく、こそばゆい。
――寝ろって言われても。
この状態で、どう寝ろと?
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