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第四章 記 憶 《Memory-2》

49 毒を食らわば皿まで

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 赤の他人は問題ないが、万が一にも優花の存在とその死を知っている人間に会ってしまえば、すぐにイレギュラー体だと知れてしまう。

 そもそもが、イレギュラー体を発見した場合、国民には国への通報義務があり、それを怠れば厳然たる刑罰の対象となる。

 彼らは、法律的に分類するならば、『不法入国滞在者』なのだから、国が課すこの義務と刑罰が不当とは言えないだろう。

 イレギュラー体は、その多くが本体と同等か、それ以上の超能力を有することが今までの事例から確認されていて、力が強大であれば、犯罪組織に目をつけられその手中に落ちる可能性が高い。

 実際、イレギュラーに限らず、ハイレベルな超能力者、主に十代の少年少女をターゲットにした誘拐事件、所謂『エスパー狩り』が横行し、社会問題になってもいた。

 過去、最悪のテロ事件が、そうした犯罪組織の手に落ちた超能力者によって行われたこともあり、イレギュラーを取り締まる法律がここ最近、厳しくなっているのが実情だ。

 優花は、限りなく、幸運だったのだ。

 もしも、優花を救ったのが晃一郎ではなく他の人間だったなら、遺伝子登録情報から『如月優花』が一年前に死亡していることが知れ、すぐにイレギュラー体であると露見し、保護という名の元、国の専用施設に収監されてしまっていたはずだ。

 そこで、肉体的にも、精神的にも、徹底的に調べつくされていただろう。そして、いつの間にか、その存在は闇に葬られていく――

 ことは、さすがにないだろうが、自由や自尊とは程遠い、あまり楽しくない不自由な生活が待ち受けているのは確かだろう。

 政府の、超能力者を集めた裏組織が存在し、その組織に強制収監されるのだという、まことしやかな噂が流れているが、これは都市伝説に類される、かなりマユツバものの話だ。

 もちろん、ハナから晃一郎に通報する気はさらさらなく、職員である晃一郎が、緊急避難の色合いが濃いとは言え、有無を言わせず瀕死の優花を一般人立ち入り禁止区域の研究施設内に連れてきてしまった。

 そればかりか、開発中の試験薬品をイレギュラーとは言え人間に投与するという、人権支援団体に知れれば格好の餌食になるだろう暴挙が行われた。

 たとえ、それが人命救助という人道的なものに基づくものであっても、公務員という立場上露見すれば、さすがに国の期待を背負ったホープでも、何がしかの罪に問われるだろう。

 晃一郎の直属の上司で、この研究所の所長でもある鈴木博士の計らいで、優花は、至れり尽くせりの手厚い看護を受けていたが、この『計らい』には、こういう込み入った事情があったのだ。

 鈴木博士とて、許可を出し今もこうして優花をかくまっている。

 一蓮托生、死なば諸共、毒を食らわば皿まで、だ。

 ひらたく言えば、一度情けをかけたら最後、茶壷ならぬ『ドツボにはまってどっぴんしゃん』状態。

 当事者たちの思惑がどうあれ、現実問題、今更、ほっぽり出すことなどできなかった。


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