49 / 132
第四章 記 憶 《Memory-2》
49 毒を食らわば皿まで
しおりを挟む赤の他人は問題ないが、万が一にも優花の存在とその死を知っている人間に会ってしまえば、すぐにイレギュラー体だと知れてしまう。
そもそもが、イレギュラー体を発見した場合、国民には国への通報義務があり、それを怠れば厳然たる刑罰の対象となる。
彼らは、法律的に分類するならば、『不法入国滞在者』なのだから、国が課すこの義務と刑罰が不当とは言えないだろう。
イレギュラー体は、その多くが本体と同等か、それ以上の超能力を有することが今までの事例から確認されていて、力が強大であれば、犯罪組織に目をつけられその手中に落ちる可能性が高い。
実際、イレギュラーに限らず、ハイレベルな超能力者、主に十代の少年少女をターゲットにした誘拐事件、所謂『エスパー狩り』が横行し、社会問題になってもいた。
過去、最悪のテロ事件が、そうした犯罪組織の手に落ちた超能力者によって行われたこともあり、イレギュラーを取り締まる法律がここ最近、厳しくなっているのが実情だ。
優花は、限りなく、幸運だったのだ。
もしも、優花を救ったのが晃一郎ではなく他の人間だったなら、遺伝子登録情報から『如月優花』が一年前に死亡していることが知れ、すぐにイレギュラー体であると露見し、保護という名の元、国の専用施設に収監されてしまっていたはずだ。
そこで、肉体的にも、精神的にも、徹底的に調べつくされていただろう。そして、いつの間にか、その存在は闇に葬られていく――
ことは、さすがにないだろうが、自由や自尊とは程遠い、あまり楽しくない不自由な生活が待ち受けているのは確かだろう。
政府の、超能力者を集めた裏組織が存在し、その組織に強制収監されるのだという、まことしやかな噂が流れているが、これは都市伝説に類される、かなりマユツバものの話だ。
もちろん、ハナから晃一郎に通報する気はさらさらなく、職員である晃一郎が、緊急避難の色合いが濃いとは言え、有無を言わせず瀕死の優花を一般人立ち入り禁止区域の研究施設内に連れてきてしまった。
そればかりか、開発中の試験薬品をイレギュラーとは言え人間に投与するという、人権支援団体に知れれば格好の餌食になるだろう暴挙が行われた。
たとえ、それが人命救助という人道的なものに基づくものであっても、公務員という立場上露見すれば、さすがに国の期待を背負ったホープでも、何がしかの罪に問われるだろう。
晃一郎の直属の上司で、この研究所の所長でもある鈴木博士の計らいで、優花は、至れり尽くせりの手厚い看護を受けていたが、この『計らい』には、こういう込み入った事情があったのだ。
鈴木博士とて、許可を出し今もこうして優花をかくまっている。
一蓮托生、死なば諸共、毒を食らわば皿まで、だ。
ひらたく言えば、一度情けをかけたら最後、茶壷ならぬ『ドツボにはまってどっぴんしゃん』状態。
当事者たちの思惑がどうあれ、現実問題、今更、ほっぽり出すことなどできなかった。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜
k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」
そう婚約者のグレイに言われたエミリア。
はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。
「恋より友情よね!」
そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。
本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる