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第二章 記 憶 《Memory-1》
16 再びの悪夢
しおりを挟む二時間目の体育。
通常は男女別に行われる授業だったが、ニューフェイスの留学生、リュウとの親睦を兼ねての、男女混合バレー大会となった。
バスケットと言う案も出たが、多数決で男女の体力差が出にくいバレーに決定。適当に分けたチーム編成で、ただの偶然かなんの策略か、優花はリュウと同じチームになった。おまけに、晃一郎も一緒だったりする。
「この、寝坊助ー」
と、晃一郎には、頭をグリグリ掻き回されるし、リュウはといえば、なんとなくよそよそしい。優花を挟んで、晃一郎とリュウ。教室の悪夢再びだ。
「さっきは、ゴメンね、リュウくん」
ゲーム開始直後。たまたま隣り合った時に、心から詫びる優花に向けられるリュウの表情は柔らかい。
「気にしないで。授業って、眠くなりますよね」
でも、最初は感じなかった微妙な距離感が、否が応にも、自分がしでかしたことを優花に実感させる。
今度は、もうぜったい居眠りしないぞ!
そうすれば、あの夢の続きを、見ることもないんだから。
よし!
と、ゲームに集中しようとしたその時。
バシュッ! っと斜め前方で、敵方前衛の男子がスパイクを決めた重い打撃音が上がった次の瞬間。ゴイーン!と、顔面にものすごい衝撃を感じる間もなく、世界は暗転。
そして、優花の意識は再び、深い眠りの中へ引き込まれていった――。
――イヤ。
見タクナイノニ――。
夢は、再び現実となって、動き出す――。
「優花、何を食べるか決まったかい?」
運転席から笑いを含んだ父の声が飛んできて、優花は眉根を寄せた。流れに乗って走っていたバイパスがもうすぐ終わり、車は直に市街地へと入る。さすがに行く先を決めないと、運転手の父が困ってしまう。
「う~~ん。どうしようかなぁ」
「なんでも良いのよ。食べたい料理を言ってみなさいよ。何もこれが最後ってわけじゃないんだから」
クスクスと、楽しげに笑いをもらしながら言う母に向かい、「だって、迷うんだもん」と、口を尖らせてみる。
食後のケーキが食べられるのは、洋食よね。
「イタリアンか、フレンチ……う~~ん」
どうにか二つに絞れた。
最後は……、やっぱりフレンチが良いかな?
フルコースって言うのを一度食べてみたかったんだ。
よし、決まった!
『お父さん、フレンチのフルコース!』
そう、勢い込んで言おうとした正にその時。
えっ――?
視界に、信じられないようなものが入ってきた。
道は緩い左カーブ。すぐ前を走っていた大きなトレーラーが、ぐらりとバランスを崩し右側の車輪がフワッと浮かび上がった。
瞬きすらできなかった。
スリップし、横ざまになったトレーラーの最後部に付けられたプレートの『危険』の赤い文字が、スローモーションで大きくなっていく。
夜気を裂いて響き渡る、甲高いブレーキ音。
父の母のそして自分の、声にならない悲鳴が上がり、耳をつんざく轟音とともに世界がグルリと回転した。
永遠とも思える、一瞬の恐怖の静寂。その静寂を蹴破って、鉄と鉄がぶつかり合う重い衝突音が空気を震わせる。
まるで作りたての飴細工のように、あまりにも簡単に、ひしゃげ潰れていく車体。鼻をつく、ガソリン臭。口腔に広がるむせ返るような、鉄の味。
何が起こっているのか理解する暇もなく、襲いかかるどうしようもなく圧倒的な力に、振られ揺さぶられ叩きつけられ、やがて、視界が赤く染まった。
なぜか、痛みは感じない。
あまりに深すぎる傷は痛みを感じないのだと、そう教えてくれたのは、晃一郎だったか。
優しい幼なじみの面影が脳裏に浮かんだとたんに、背筋を這い上がってきた恐怖心に全身が震えた。
――やだ。いやだっ。死にたくない。
私、まだ死にたくないっ!
晃ちゃん。
晃ちゃんっ!
晃ちゃんっっ!
何故、その名を叫んでいるのか、優花自身にも分からない。それは、生物としての死への恐怖。純粋な、生への渇望。
『優花!? お前、優花なのか!?』
――晃、ちゃん?
『大丈夫だ、必ず助かる。だから頑張れっ!』
朦朧とした意識の下で優花が最後に聞いたのは、なぜかその場には居ないはずの幼なじみ、御堂晃一郎の驚きに満ちた声だった。
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