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邂逅5
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ピクリと彼女の左手の指先が動いた。中指が痙攣したように、何度もピクピクと反応を見せる。
死んでいると思っていた少女は、生きているかもしれない。
私はそのことに気がつくwとすぐに行動に移した。グロテスクな光景にゲンナリとしていたことなど忘れて、私は彼女の元へと駆け寄った。瞬間、彼女の翼が痙攣を始めた。ビクビクと震え上がり、やがて飛翔をしようと羽ばたき始めたのである。ぎこちない動きで、大きく羽を広げ、一気に翼を振り上げ落とす。だが、翼はブロック塀に妨げられ、直撃。少女の体がふわりと持ち上がるが、ばたりと血溜まりにおっこちた。血溜まりの血が跳ね返り私に飛んでくる。そして美しい翼ビクビクと痙攣をし続けて、バサバサと何度も翼をはためかせている。だが、それはただ翼で地面を叩く行為でしかなく、何度も何度も翼を地面に叩きつけていた。美しい白い翼が血で赤く染まっていく。
私は突然のことに驚き、悲鳴を上げながら腕で顔を覆い隠した。血の粒が私の腕に降り注ぐ。バシャバシャと翼を水溜りに叩きつけているのを私は腕と腕の隙間から覗き見た。
その光景を見て、私は物悲しく思った。せっかくの美しいものが汚されていくやるせなさ、そしてその動きがひっくり返ってジタバタともがく昆虫のようで、背中がゾワゾワとした。
少し立つと翼はばったりと動きを穏やかに緩めた。激しい動きをしなくなり、ビクビクと痙攣を続けるだけだった。私はしばらく唖然として、まじまじとその光景を眺めていた。
そして私の意識がパッと引き戻される。彼女の安否を確かめなければならない。今ならまだ助かるかも。
私は駆け寄って、少女の目の前で跪いて肩を持った。そして彼女の体を労りながらゆっくりと持ち上げる。その時、右肩に違和感を感じた[#「右肩に違和感を感じた」に丸傍点]。酷く血で濡れていて私の掌を赤い血で染めた。体を持ち上げて、背後にあった壁にもたれかけさせると、私は彼女の肩を揺さぶって、応答を求めた。
「生きてる……?」答えは無い。肩を何度も揺さぶった後、私は彼女の右肩を何度も叩いた。その度に違和感を手に感じる「意識があるんだったら何か反応をしてくれ」私は何度も声を荒げていった。しかしそれでも彼女は何も言わなかった。
今までのアレは絶命したという反応だと言うのか。私は酷くそれを否定したかった。彼女の肩を揺さぶっても無駄なのは分かっている。だがそれでもやり続けた。そして反応を示さないことをようやく理解すると、彼女の肩から手を離した。
彼女の肩をゆっくりと壁にもたれかけさせると、肩をゆさぶった反動で彼女の顔にかかった髪が、パラパラとはだけていった。前髪の一本一本が束になって、彼女の顔から離れていく。彼女の白い肌が露わになった。美しい顔立ちの少女が、安らかに眠っている。何の苦しみの片鱗もなく、昏々と少女は眠っているだけだった。
こんなにも痛々しい姿をしていると言うのに、彼女の眠る姿は呑気に思える。まるでただうたた寝をしているだけで、とてもじゃないが死んでいるように思えなかった。だから彼女は翼を広げたのだ。そうじゃなかったら納得がいかない。私はどこか呆れたような感覚に陥った。だけど遠いところで、彼女が死んでいるという考えが忍び寄ってくる。
こんなことがあってたまるか。そう思った。
さっきから私の右手に絶え間なく流れる血がふりかかっている。どくどくと蛇口を捻ったみたいに流れ落ちている。地面が血溜まりになるのも納得がいく。そしてそれでもなお、彼女は生命反応を示した。人間には備え付けられていない、異様な翼によって。
彼女の右肩が青白く光る。人体が発行するなんて私は聞いたことがない。ゆっくりと明滅を繰り返す肩に、私は吸い込まれるように惹かれていった。ぼーっとめまいのような、眩む感覚がして、私は彼女の右肩を探った。彼女には左手はある。さっきまで露出して動いていたのを私は確認している。一方で右手は見えていなかった。左肩に手を触れた時、しっかりとした肩のかくばった膨らみを手に感じた。一方で、右肩にはそれがなくて、感じたのは血の生温かさ、そして抉れたように沈没した感覚だった。血がどろりと音を立てて滴り落ち落ちる。
——腕がちぎれてる
私の心臓がドクンと跳ね上がった。私は彼女を酷く可哀想だと思ったのだ。腕がちぎれたあと少女はいったいどう思うのだろうか。これだけははっきりとわかる。絶望がやってきて、苦しむということ。
血の気が引くような、感覚がする。私はただただ彼女に同情することしかできないだろう。
彼女の眉間が、ピクリと動いた。
死んでいると思っていた少女は、生きているかもしれない。
私はそのことに気がつくwとすぐに行動に移した。グロテスクな光景にゲンナリとしていたことなど忘れて、私は彼女の元へと駆け寄った。瞬間、彼女の翼が痙攣を始めた。ビクビクと震え上がり、やがて飛翔をしようと羽ばたき始めたのである。ぎこちない動きで、大きく羽を広げ、一気に翼を振り上げ落とす。だが、翼はブロック塀に妨げられ、直撃。少女の体がふわりと持ち上がるが、ばたりと血溜まりにおっこちた。血溜まりの血が跳ね返り私に飛んでくる。そして美しい翼ビクビクと痙攣をし続けて、バサバサと何度も翼をはためかせている。だが、それはただ翼で地面を叩く行為でしかなく、何度も何度も翼を地面に叩きつけていた。美しい白い翼が血で赤く染まっていく。
私は突然のことに驚き、悲鳴を上げながら腕で顔を覆い隠した。血の粒が私の腕に降り注ぐ。バシャバシャと翼を水溜りに叩きつけているのを私は腕と腕の隙間から覗き見た。
その光景を見て、私は物悲しく思った。せっかくの美しいものが汚されていくやるせなさ、そしてその動きがひっくり返ってジタバタともがく昆虫のようで、背中がゾワゾワとした。
少し立つと翼はばったりと動きを穏やかに緩めた。激しい動きをしなくなり、ビクビクと痙攣を続けるだけだった。私はしばらく唖然として、まじまじとその光景を眺めていた。
そして私の意識がパッと引き戻される。彼女の安否を確かめなければならない。今ならまだ助かるかも。
私は駆け寄って、少女の目の前で跪いて肩を持った。そして彼女の体を労りながらゆっくりと持ち上げる。その時、右肩に違和感を感じた[#「右肩に違和感を感じた」に丸傍点]。酷く血で濡れていて私の掌を赤い血で染めた。体を持ち上げて、背後にあった壁にもたれかけさせると、私は彼女の肩を揺さぶって、応答を求めた。
「生きてる……?」答えは無い。肩を何度も揺さぶった後、私は彼女の右肩を何度も叩いた。その度に違和感を手に感じる「意識があるんだったら何か反応をしてくれ」私は何度も声を荒げていった。しかしそれでも彼女は何も言わなかった。
今までのアレは絶命したという反応だと言うのか。私は酷くそれを否定したかった。彼女の肩を揺さぶっても無駄なのは分かっている。だがそれでもやり続けた。そして反応を示さないことをようやく理解すると、彼女の肩から手を離した。
彼女の肩をゆっくりと壁にもたれかけさせると、肩をゆさぶった反動で彼女の顔にかかった髪が、パラパラとはだけていった。前髪の一本一本が束になって、彼女の顔から離れていく。彼女の白い肌が露わになった。美しい顔立ちの少女が、安らかに眠っている。何の苦しみの片鱗もなく、昏々と少女は眠っているだけだった。
こんなにも痛々しい姿をしていると言うのに、彼女の眠る姿は呑気に思える。まるでただうたた寝をしているだけで、とてもじゃないが死んでいるように思えなかった。だから彼女は翼を広げたのだ。そうじゃなかったら納得がいかない。私はどこか呆れたような感覚に陥った。だけど遠いところで、彼女が死んでいるという考えが忍び寄ってくる。
こんなことがあってたまるか。そう思った。
さっきから私の右手に絶え間なく流れる血がふりかかっている。どくどくと蛇口を捻ったみたいに流れ落ちている。地面が血溜まりになるのも納得がいく。そしてそれでもなお、彼女は生命反応を示した。人間には備え付けられていない、異様な翼によって。
彼女の右肩が青白く光る。人体が発行するなんて私は聞いたことがない。ゆっくりと明滅を繰り返す肩に、私は吸い込まれるように惹かれていった。ぼーっとめまいのような、眩む感覚がして、私は彼女の右肩を探った。彼女には左手はある。さっきまで露出して動いていたのを私は確認している。一方で右手は見えていなかった。左肩に手を触れた時、しっかりとした肩のかくばった膨らみを手に感じた。一方で、右肩にはそれがなくて、感じたのは血の生温かさ、そして抉れたように沈没した感覚だった。血がどろりと音を立てて滴り落ち落ちる。
——腕がちぎれてる
私の心臓がドクンと跳ね上がった。私は彼女を酷く可哀想だと思ったのだ。腕がちぎれたあと少女はいったいどう思うのだろうか。これだけははっきりとわかる。絶望がやってきて、苦しむということ。
血の気が引くような、感覚がする。私はただただ彼女に同情することしかできないだろう。
彼女の眉間が、ピクリと動いた。
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