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邂逅2
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道の先へと行けば、そこには曲がり角があって、そこへ入ると六畳ほどの広々とした空間がある。そこには冷蔵庫やら棚やら、いろんな家具の廃材置き場となっている。そこに猫たちは集まり、日向ぼっこをしているのだ。
私は曲がり角へと差し掛かろうとした時、私の足元に灰色の猫が佇んでいるのが見えた。その猫はちょこんと座って私を上目遣いで見ている。そして私はあることに気がついた。その猫は酷く汚れていた。真っ黒な墨汁でもぶっかけられたように、毛皮が黒ずんでいた。猫は「にゃあ」と私を見ながら鳴く。
私はその場でしゃがみ込んで、その猫を脇から持ち上げた。
「どうかしたのか、にゃんころ。酷く汚れてるじゃないか」
私らしくもなく、甘ったるい猫撫で声で微笑みかけていた。ブロック塀の間に挟まれた隙間から、曇天とした空に掲げられる猫。大きくて、まんまるな瞳が私を見つめている。もちのように丸っこい顔。ツンと釣り上がった耳。可愛らしいぷにぷにとした肉球が愛おしい。ああ、なんて猫は可愛らしいんだろう。私はしばらくの間猫を愛た。
ポツポツと雨が屋根を打つ音が聞こえる。その音は鮮明に聞こえるのではなく、壁に遮られてこもって聞こえていた。雨音による空間のざわめきなど聞こえてこない。どこか遠くで車が水溜りを通った音が聞こえる。この路地裏に騒がしい音なんてない、穏やかな静謐な路地裏がここにはある。そんなところで男が路地裏で猫を空に捧げているだけだ。
私は一体何をしているのだろうか。もうすぐで年齢が四半世紀に迫ろうというのに、この有様だ。恥ずかしくなってきた。
私を取り囲むブロック塀には
水を叩きつけたような水飛沫のような跡があるのが見えた。雨が降っただけであんな濡れ方なんてしない。なんとも言えない違和感が続けて私を不安におとしめていく。
ふと私はあることに気がついた。
曲がり角の先、そこから白い光が漏れているのが見えたのである。その光は車のライトのように強い光を発していて、私は眩しさのあまり、私は目を細めながら眺めていた。
さっきまであんな光はなかったはずだ。いや絶対に無かった。突然パッと光が現れたわけでもない。そうだったら私は何があろうと、絶対に気がつくはずである。それなのに光が曲がり角から溢れていた。自然に私は気がつかない内にじわじわと光始めたとでもいうのか。
一体この光はなんなんだ。車のライトだとしても、この路地裏に車が入れるスペースなどない、ましてやバイクすら入れないのだ。だとしたら誰かが懐中電灯を照らしているとでもいうのか。そんなことなどあってたまるか。そんな酔狂なことをする奴なんて、明らかに猫に喋りかける二十四歳無職の男よりも危険だ。私は正体不明の光に狼狽した。
光は蛍が発光するように、一定の律動を繰り返しながら明滅を繰り返す。まるで心臓が鼓動を打つように、緩やかに光っている。私はその光を暫くの間眺めた。というよりも狼狽し、動けなかったと言う方が正しい。私は貴重な水分である唾をごくりと飲み込んだ。まともな水分を摂取したのは四日前で、私は今ようやく水分を自分の唾で摂取した。
明滅する光へと目線を保ったまま、私は猫をゆっくりと濡れた地面へと下ろして「おおよしよし」と言いながら猫の頭を撫でた。私は猫をこの手から放すと、やおら立ち上がり、曲がり角へと恐る恐る近づいた。地面に溜まった水を足で掻き分けるように進む。水を蹴る音がピチャピチャと反響して聞こえてくる。私はブロック塀の角に手をそっと触れて、支えにすると曲がり角の先を覗こうと、身を乗り出そうとした。
瞬間、身体中がゾワゾワとするような、身震いが私の体に走った。テレビの砂嵐のような雑音が聞こえる。しまいには私の視界にも砂嵐のような靄がかかって、目頭に痛みが走った。私はパチクリと瞬きを繰り返す。次第に身震いや痛み、雑音が私の中から消え去っていく。
一体何事かと思ったが、光が気になるので無視をする。私はブロック塀の曲がり角から、身を乗り出だし、覗き込んだ。
私の視界に、血に濡れた少女の死体が入った。
血に塗れた少女の死体がそこにはあった。まるでいらなくなった人形が投げ捨てられたように、少女は壁に打ち付けられ、倒れていた。私は確認するように瞬きを繰り返している。少女の着ている白いローブのようなものは、どす黒い血に染まり、そこから身体中に滾滾と紅い鮮血が流れ出している。そして流れ出た血が、路地裏の路面を赤い血溜まりへと変えた。私は恐る恐る自分の足元に視線を向ける。履いていた黒い靴が真っ赤に染まり、歩いた時に跳ね返った血が跳ね返り、ズボンの裾が血で濡れていることに私は気がつく、そして、声にもならないか細い悲鳴を私はあげた。あまりの光景に私は動揺し、震え上がり、狼狽した。
私はズルズルと雨に打たれながら後ずさる。
情けない声を上げる私はただ、目の前にある光景から眼を逸らせなかった。
私は曲がり角へと差し掛かろうとした時、私の足元に灰色の猫が佇んでいるのが見えた。その猫はちょこんと座って私を上目遣いで見ている。そして私はあることに気がついた。その猫は酷く汚れていた。真っ黒な墨汁でもぶっかけられたように、毛皮が黒ずんでいた。猫は「にゃあ」と私を見ながら鳴く。
私はその場でしゃがみ込んで、その猫を脇から持ち上げた。
「どうかしたのか、にゃんころ。酷く汚れてるじゃないか」
私らしくもなく、甘ったるい猫撫で声で微笑みかけていた。ブロック塀の間に挟まれた隙間から、曇天とした空に掲げられる猫。大きくて、まんまるな瞳が私を見つめている。もちのように丸っこい顔。ツンと釣り上がった耳。可愛らしいぷにぷにとした肉球が愛おしい。ああ、なんて猫は可愛らしいんだろう。私はしばらくの間猫を愛た。
ポツポツと雨が屋根を打つ音が聞こえる。その音は鮮明に聞こえるのではなく、壁に遮られてこもって聞こえていた。雨音による空間のざわめきなど聞こえてこない。どこか遠くで車が水溜りを通った音が聞こえる。この路地裏に騒がしい音なんてない、穏やかな静謐な路地裏がここにはある。そんなところで男が路地裏で猫を空に捧げているだけだ。
私は一体何をしているのだろうか。もうすぐで年齢が四半世紀に迫ろうというのに、この有様だ。恥ずかしくなってきた。
私を取り囲むブロック塀には
水を叩きつけたような水飛沫のような跡があるのが見えた。雨が降っただけであんな濡れ方なんてしない。なんとも言えない違和感が続けて私を不安におとしめていく。
ふと私はあることに気がついた。
曲がり角の先、そこから白い光が漏れているのが見えたのである。その光は車のライトのように強い光を発していて、私は眩しさのあまり、私は目を細めながら眺めていた。
さっきまであんな光はなかったはずだ。いや絶対に無かった。突然パッと光が現れたわけでもない。そうだったら私は何があろうと、絶対に気がつくはずである。それなのに光が曲がり角から溢れていた。自然に私は気がつかない内にじわじわと光始めたとでもいうのか。
一体この光はなんなんだ。車のライトだとしても、この路地裏に車が入れるスペースなどない、ましてやバイクすら入れないのだ。だとしたら誰かが懐中電灯を照らしているとでもいうのか。そんなことなどあってたまるか。そんな酔狂なことをする奴なんて、明らかに猫に喋りかける二十四歳無職の男よりも危険だ。私は正体不明の光に狼狽した。
光は蛍が発光するように、一定の律動を繰り返しながら明滅を繰り返す。まるで心臓が鼓動を打つように、緩やかに光っている。私はその光を暫くの間眺めた。というよりも狼狽し、動けなかったと言う方が正しい。私は貴重な水分である唾をごくりと飲み込んだ。まともな水分を摂取したのは四日前で、私は今ようやく水分を自分の唾で摂取した。
明滅する光へと目線を保ったまま、私は猫をゆっくりと濡れた地面へと下ろして「おおよしよし」と言いながら猫の頭を撫でた。私は猫をこの手から放すと、やおら立ち上がり、曲がり角へと恐る恐る近づいた。地面に溜まった水を足で掻き分けるように進む。水を蹴る音がピチャピチャと反響して聞こえてくる。私はブロック塀の角に手をそっと触れて、支えにすると曲がり角の先を覗こうと、身を乗り出そうとした。
瞬間、身体中がゾワゾワとするような、身震いが私の体に走った。テレビの砂嵐のような雑音が聞こえる。しまいには私の視界にも砂嵐のような靄がかかって、目頭に痛みが走った。私はパチクリと瞬きを繰り返す。次第に身震いや痛み、雑音が私の中から消え去っていく。
一体何事かと思ったが、光が気になるので無視をする。私はブロック塀の曲がり角から、身を乗り出だし、覗き込んだ。
私の視界に、血に濡れた少女の死体が入った。
血に塗れた少女の死体がそこにはあった。まるでいらなくなった人形が投げ捨てられたように、少女は壁に打ち付けられ、倒れていた。私は確認するように瞬きを繰り返している。少女の着ている白いローブのようなものは、どす黒い血に染まり、そこから身体中に滾滾と紅い鮮血が流れ出している。そして流れ出た血が、路地裏の路面を赤い血溜まりへと変えた。私は恐る恐る自分の足元に視線を向ける。履いていた黒い靴が真っ赤に染まり、歩いた時に跳ね返った血が跳ね返り、ズボンの裾が血で濡れていることに私は気がつく、そして、声にもならないか細い悲鳴を私はあげた。あまりの光景に私は動揺し、震え上がり、狼狽した。
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