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芝居小屋
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「穢れたか」
旦那様は、繰り広げられる豪華絢爛な舞台から目を離さずに言った。
明転を持つ芝居の為、小さくともしっかりした造りの芝居小屋の中は明るい。
二階席をぐるりと囲む明り取りは全て開けられ、明るい中でも、舞台へと注目が行くように光を集めている。
はと錦の旦那様の為に貸切られ、急きょ行われた芝居の一幕。
客席には、見目麗しい女達を侍らせた旦那様一行が座し、女達はきゃっきゃと色良い歓声を舞台へと送っていた。
だんっ
舞台板を響かせる為の隠し桶、その板の上で役者が視線を流す。
歓声を上げる女達の中に紛れ、旦那様の右後方に、手元を見つめる物書きがいた。
物書きの手には、絹の端切れに包まれた、割れた丸鏡があった。
鏡面を走る白銀のひびが、誰の手も触れず独りでに一線、パシリと走り入った。
「思ったより早かったな。……言うても、神殺しの基準は知らないが」
旦那様は舞台から目を離すと、鏡を両手で包んだまま、旦那様の視線を待っていた物書きを見やった。
「……」
「まぁだだよ」
旦那様が、童遊びの鬼を押さえる口調で歌う。
「……」
こくり、と物書きが頷いた。
旦那様の言う事は絶対だ。
色街の大店、はと錦の旦那様。忘八の楼主様。親に売られた物書きを、お買い上げくださった、神様のような人。
自分の指示に、愚直なまでに答え頷く物書き。旦那様はにっと笑うと、暗い目を明るい舞台へと戻した。
物書きは懐から硝子瓶を取り出し、中に入れていた清めの酒を、割れる丸鏡にそそいだ。丸鏡のひび割れが止まり、酒が鏡面に吸われていく。
だんっだんっ
腹に響く舞台板を打つ音。
物書きがはっと顔を上げれば、舞台上では獅子が蝶を追い、山の頂を二つ跳びで降りる場面だった。勇壮な赤獅子が身を翻らせ、蝶より軽く、獣の勇ましさで駆けてゆく。
「……!」
「……芝居は良いな」
旦那様が、物書きの心が躍る気配を汲み、前を見据えたまま言った。
「っ……」
物書きは何度もこくこくと頷くと、紅い目を熱心に舞台へとそそいだ。
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