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生前
しおりを挟む俺の名前は亜由多楽郎。
特にこれと言った特徴とかはない、普通の高校生。
…と言いたかったけど、まぁ俺を取り巻く環境は
普通じゃない。
いやある意味普通か、ネグレクトやらいじめやらなんて。
朝起きて、身体に巻き付けていた古びた薄い布を畳む。
古びたアパートの一室で、俺は酒浸りのクソ親父と
一緒に暮らしている。
母親は愛想が尽きたんだろう、まだ六歳の俺を残して
よその男を引っ捕まえて出ていったらしい。
じゃあ産むなよと昔は憎んだりもしたが、
生きるのに必死でもう何の感情も湧かない。
部屋の中はいつも濃い酒臭さ、タバコの臭さが充満し
更に見たくなかった…ゲロまみれの畳が目に入る。
また外か何処かで呑んでいるんだろうな、と辟易しながら
身支度をする。
冷蔵庫には俺が鍋で炊いた白米、親父の酒とツマミしか
入っていない。
だから大体の飯は茶碗半分の白米に塩をかけただけの
刑務所の方がまだマシそうな程に質素なやつ。
当然思春期の男子高校生の腹がその程度で
満たされる訳がないのでいつも空腹だが、万が一
親父のツマミに手を出そうなら絶対死ぬ未来しかない。
もうタバコの火を押し付けられるのには慣れたが
酒瓶は確実に死ぬから、嫌だ。
ただ、この日は、食欲がないどころか
酷い気持ち悪ささえ覚えていた。
それに眠くて、寒くて。
ほんとはゲロの処理もしたかったけど、できなくて。
食べなきゃ死ぬのに、食べなくても今にも死にそうな
身体に思わず笑ってしまう。
とにかく無理やり胃にかきこんで、水を飲んで
吐き気を誤魔化した。
意味なんてないのにな、当時はただ生きなきゃとか言う
脅迫じみた考え一つが俺の身体を突き動かしていた。
時間を見ると、まだ登校時刻まで余裕がある。
ふらふらしながら、数少ない私服(と言うかシャツと
ズボンだけ)からボロっボロの制服に着替える。
同じく酷くボロボロの状態のリュックサックを背負い、
家を出た。
高校は、比較的家から近い場所にある。
その道のりは、ずっと続いてほしいと思う程に
重くて気怠い。
家から出ようが、外だって家と同じくらいクソだからだ。
「よぉゴミ虫、ちょっとこっち来いよ」
玄関で、汚れた上履きに履き替えると同時に
気持ち悪い声が聞こえて、グイッと腕を引っ張られる。
見ると、いじめっ子の___が居た。
あれ、待って誰だっけか、名前が思い出せない。
「なんだ顔色悪ぃな、また虫薬でもしてやろうか?」
にたにたと笑うその姿に、抑えていた吐き気が
込み上がってくるのが分かる。
奴は入学してから数ヶ月間、飽きもせず
俺を罵り、嘲り、なんなら堂々と暴力を奮ってくる。
因みに虫薬は、コイツが作った最悪の遊びで
俺に生きた虫の塊を飲み込ませて、
吐くか吐かないかを賭ける遊びだ。
周りも周りでクソだ、止めもしない、
遠巻きにクスクスと笑っているだけ。
心底、全員苦しんでから地獄に行ってくれと思う。
教師もクラスメイトもクソ親父もコイツも。
大嫌いで大嫌いで、今にも吐きそうだった。
それから連れていかれたのは、屋上だった。
何人か名前の知らないクラスメイト共が
いじめっ子と同じ顔をして笑って見ている。
「お前、こっから飛び降りろよ」
できねぇだろうけど、と嘲笑うソイツ。
もう限界でしかなかった俺は、ふらふらと覚束無い
足取りのままフェンスをよじ登る。
予想外だったのだろうか、どよめきの声が
後ろから聞こえてくる。
フェンスを登りきり、座るといじめっ子が何故か
狼狽したかの様な顔をして言う。
「え、あ、いや…なに本気にしてんだよ。
それじゃあまるで俺達が…」
「お前らが悪いよ?今も、今までも」
そう淡々と告げた俺は
屋上のフェンスの上から、勢いよく飛び降りた。
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