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川西美和子の場合

川西美和子、異世界人に日本語を教えます

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 早速今日から、ケイに日本語を教えることにした。
 仕事帰りに本屋に寄って、ひらがなとカタカナのあいうえお表と小学校低学年向けの国語の本を買ってみたが、これで大丈夫かな?
 果たしてうまく教えてあげられるだろうか?
 ケイが来て、いつものソファではなく、ダイニングテーブルに向かい合って座った。
 さっき買ってきたばかりの、子供に人気のファンシーな絵が描かれたあいうえお表と白紙、ボールペンを取り出す。
 2人とも昨日と同じデコ見せヘアで気合十分だ。

「それでは、今から日本語の勉強をします」

「うん、よろしくお願いします」

「まずは日本語の文字の種類について。エレクタラ語は書くとき文字の種類は1種類なのかな?」

「文字の種類? 多分、1種類だと思うよ」

「言い方が下手でごめんね。日本語はね、ひらがな、カタカナ、漢字の3種類の文字の形式を使い分けて文を書くの。読み方は同じでも書き方がいろんなパターンに分かれているんだよ。漢字は難しいから置いておいて、ひらがなとカタカナが出来るようになろうか。これがひらがなとカタカナが全部載ってる表だよ」

 色違いのあいうえお表をケイに見せる。

「青がひらがな、赤がカタカナだよ」

「……同じ数だけあるんだね」

「結局は同じものだからね。一文字ずつに意味はなくて組み合わせて言葉を作るんだけど、このカタカナとひらがなは結局同じもので形が違うだけなの。カタカナは外国の言葉を日本語として使うときに使ったりすることが多いっていう使い分けがされているんだよ」

 言葉で説明しながら、これでいいのか凄く不安になってきた。

「……うん、ここまでは分かった」

「じゃあ、この表の読み方を教えていくね。……あ、ちょっと待って。今って私たちの会話はネックレスの機能で勝手に翻訳されてるんだよね? 私が日本語で読んでも、ケイにはエレクタラ語で伝わるから、もしかして意味ない?」

「……ネックレス、外せば聞こえるよ?」

「…………あ、そうでした。でもそうすると、お互いに言葉が分からなくて、何も伝わらなくなるよね?」

「そんな時のために『キューピッドくん』は、音声を自動で文字起こしして翻訳する機能があるんだ」

「あー。最初の説明で渉さんがそんな事言ってた気がする。『キューピッドくん』有能! そんなものが作れるなんて、ケイ凄いね!」

「僕だけが作ったわけじゃないよ。セントとか他にも同じように担当した人はいるから」

「それでもケイが関わっていることは変わりないでしょ? だからケイは凄い」

「ふふ、ありがと」

 その日は結局、1時間まるまる勉強に費やしてしまって、世間話が出来ずに終わったので、今度から大体30分ずつに区切ってすることに決めた。
 世間話は大体、仕事の話とか、お茶請けが美味しいとか、ケイの国の街並みや仕組みについてとか。
 エレクタラは高層ビルが立ち並んでいて、住民や旅行者は端末で管理されているようだ。
 初回の国への出入りは専用のゲートがあり、ゲートを通った時に端末を渡される。電脳世界内での自分の分身、所謂アバターを設定する。
 設定したアバターが道案内から今日の天気等、役立つ様々な情報を教えてくれるようだ。

「ねえミワコ。今度エレクタラに遊びに来て欲しいんだけど、いいかな?」

「うん! エレクタラ、行ってみたい!」

「よかった。ありがとう。それでね、2、3日かけて案内したいと思ってるんだけど、泊まりで来れないかな?」

「え? 泊まるの? 寝るとことかどうしたらいいの?」

「僕の家に来たらいいよ。研究所を兼ねてるから大きいし、部屋は余ってるから。家が嫌だったら、仲人に宿泊場所を探してもらえるはずだよ」

「そうなんだ。ケイがいいなら、泊まらせてもらおうかな。見知らぬ土地に1人で泊まるのは流石に不安だから」

「うん。大丈夫だよ。近いうちに空いてる日ある?」

 そう言われてカレンダーに目をやる。
 2週間後、申請していた1週間の夏休みが始まるはずだ。
 実家に帰るぐらいしか予定を考えていなかったので、比較的自由だ。
 両親には悪いがせっかくの長期休暇。
 異世界旅行なんてめったにできないのだから、行ってみたい。

「再来週、丁度連続で休暇があるから、その時はどうかな?」

「……いいよ。楽しみにしてるね」

 一瞬、ケイの表情が曇ったような気がした。
 すぐにいつもの優しい微笑みに戻ったので気のせいだと思う。
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