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川西美和子の場合
川西美和子、選択を迫られます
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ケイとセントさん、白衣の人が帰って行くと、渉さんが声をかけてきた。
「ケイくん達も帰ったことですし、家に入りましょうか」
紬さんが寄ってきて肩を支えてくれる。
「美和子さん、目冷やしましょ!保冷剤持って来ますから」
いつもお邪魔している部屋に通され、渉さんと紬さんは席を外した。
すぐに紬さんは戻ってきて、手ぬぐいの巻かれた保冷剤と温かい紅茶を持ってきてくれた。
「美和子さん! 保冷剤使ってください。目、腫れちゃいますから。お兄ちゃんには席を外してもらいましたからゆっくり休んでくださいね」
「紬さん、ありがとうございます。はぁ。やたちゃん先輩もありがとうございます。さっきの羽、大丈夫でした?」
「おう! 2、3本抜けたが大したことねぇからお嬢ちゃんは気にすんな! ただ、ケイの奴は今度会ったら髪の毛毟ってやるけどな!」
「もう、やたちゃんは年なんだからそれぐらい自然に抜けるでしょ!」
「なんだと!? 自然に抜けるのと故意に抜けるのじゃ重みが違うんだよ!!」
紬さんとやたちゃん先輩の話を聞きながら、泣きすぎて熱を持った瞼を冷やす。ひんやりして気持ちいい。
ほっと息を吐いた。紅茶も頂く。
「やっぱり瞼が腫れたときの保冷剤って気持ちいいですよね!」
「あ~。もうホント気持ちいいです。ありがとうございます」
「お嬢ちゃん、声がオッサンみたいだぞ。落ち着いたならさっきの話、紬にしてやりな」
「そうですね。冷やしながらでいいので、話を進めましょうか。何があったんですか?」
「実は、アキラにブロックされてしまったみたいです。ここ最近アキラとの距離が縮まることが多くて、人柄に触れて、好きかもしれないと思った矢先だったので、ショックが大きくて」
私はここ最近あったことを紬さんに話した。
アキラに真剣に考えて欲しいと言われていたこと。金属の国に行った日のこと。
話しているうちに思い出して、また辛くなってきたが心を落ち着ける。
「アキラと身内の話をする事が増えたので、将来に対して考えていて。ケイとのメッセージを終わらせて、本格的にアキラと付き合っていこうかと悩んでいた矢先でした。行方不明だった『彼女が帰ってきた』という連絡の後からアカウントが消えて、ショックでやたちゃん先輩に泣きついたんです」
「なるほど。そんなことがあったんですね。この間金属の国に行った時は、すごく仲が良さそうに見えましたけど。それで、婚活を辞めようと思いました?」
「少し思いました。でもよく考えたら、ケイのことが浮かんで続けようと思いました。なんで、私が婚活を辞めようとしたって、分かったんですか?」
「その話はお兄ちゃんからしてもらうので、ちょっと呼びますね」
紬さんが渉さんを呼んできて、3人と1羽で話し合うことになった。
「美和子さん、最初に『あえ~る』の使用説明をした時の事を覚えていますか。『結婚の意思がなくなった時に生涯未婚が決定する』って話したと思います」
「はい。覚えています。インパクトが強かったので忘れられませんよ。でもなんで…………あ」
「美和子さんが考えていらっしゃる通りです。ショックで婚活を辞めようと考えたことに対して、生涯未婚の決定に近付いてしまったんです。今回は『あえ~る』の非常装置が働いて、多分ネックレスが光ったりしたんじゃないですか?」
そう言われると確かに婚活を辞めようかと言った時にでネックレスが光った気がする。渉さんの言葉に頷くと、渉さんは頷いて話を進めた。
「今回、一時的に婚活を辞めようと思ったことに対して反応してしまったようです。普通は今回のような一時的なショックには生涯未婚の決定は起きないです。でも今回は何故か生涯未婚になりかけ、『あえ~る』の非常装置である、強制的に一番好感度の高い相手が転移する仕組みが作動したんです」
「それでケイが転移してきたってことですか?」
「そういうことです。その後、付き人たちが追いかけてきたのでさっきの状況になったというわけです」
あんなに恐怖していた生涯未婚に片足を突っ込んだという衝撃が凄まじい。
思わず冷や汗が流れる。
まぁ聞いている限り基準が低かったようだから、今回みたいなことはなくなるだろう。
でも、もしもまた生涯未婚に片足を突っ込んだとしても、非常装置があることが分かってちょっと安心した。
「今日の夜は様子見のためにここでケイ君と会って行って下さい。不具合がなければ、次からは何処でも問題ないですから」
「分かりました」
渉さんはそれだけ言って、仕事があるとかで退室していった。
残った私たちは、恋バナでもしようということになり、お菓子とジュースを運び込んで、準備はばっちりだ。
開始早々、紬さんが私の一番痛いところをついてきた。
「ケイさんって美和子さんの事絶対に好きですよね。なんか今日見てて思いました」
「おじさんも思ったぞ」
「……私も感じてはいます」
「美和子さんってケイさんはタイプじゃないんですか? 気付いてたなら、ケイさんにしちゃうって選択肢もあったのに、なんでですか?」
「紬! お前は今度から粉薬を飲むときは、ゼリー禁止だぞ。オブラートについて粉薬の包み方から勉強し直せ! ゼリーは百年早い」
やたちゃん先輩が羽をバサバサしながら、ぷんすか怒っている。
「あはは、やたちゃん先輩大丈夫ですよ。気にしてないですし」
「やたちゃんのアホ―。すいません。直球で聞いちゃって。オブラート苦手なんですよね」
紬さんがカラス風にアホ―と言ったので、やたちゃん先輩に火がついた。
「お前、それは日本のカラス全部敵に回す発言だからな!」
「で、どうなんですか?」
突きに来るやたちゃん先輩と手で戦いながら、器用にこっちを向いて紬さんが聞いてくる。
「ケイは正直、謎な部分が多くて、個人的な深い話をしないんです。好意は分かるのに、距離を置かれているような感じでした。前提が異世界人だし、婚活でしょう? 隠し事がありそうだと思うと、どうしても信じきれなくて。だから分かりやすく自分の事や周囲の事を話してくれるアキラに真剣度を感じたというか、好感を持ったんです」
「確かに、それは大きいところですよね。同じ日本人同士だとしても、自分の事を話す人の方が信用できると感じますもんね」
性格や雰囲気、話しているときの感じでは、ケイのことを好ましいと感じていた。
だが、どうしても隠し事に対する不安は拭い去れない。
「今日の夜、ホントに会っていいのか悩みます」
「どういうことですか?」
嘴をスプーンでいなしていた紬さんがついに、やたちゃん先輩の嘴をとらえ、可愛いフリフリのリボンが付いたシュシュを嘴に巻いたことで戦いが終わったようだ。
「ケイは『悩んでいることは何でも話して』と言うんですが、ホントにアキラの事を話していいのか悩むんです。そもそも、ムシが良すぎるなとも思っていて、アキラに連絡切られたから、ターゲットをケイに変更したみたいで嫌なんです。けれど、ケイを見ていると、むしろ会うことを断る事の方が悲しいって言われているみたいに感じてしまうんです」
さっきまでとは打って変わって真剣な表情で紬が口を開いた。
「あんまり深く考えなくてもいいと思います。『あえ~る』で他の人を探してもいいし、沢山の選択肢があるんですよ。ケイさんの気持ちを利用しているようで嫌だと感じるなら、全く別人を探しますか? お手伝いしますよ!」
全く別の人。2人と会ってからその選択肢は考えてこなかった。
改めてどうだろう。他の人を探すのは。
ケイのはにかんだ顔が悲しくゆがむのが思い起こされて胸が痛んだ。
「それは……遠慮しておきます」
「そうですか。なら、今日の夜、しっかり向き合わないと! 応援してます!」
そう微笑んでくれた紬さんに笑い返した。
「ありがとうございます」
「ケイくん達も帰ったことですし、家に入りましょうか」
紬さんが寄ってきて肩を支えてくれる。
「美和子さん、目冷やしましょ!保冷剤持って来ますから」
いつもお邪魔している部屋に通され、渉さんと紬さんは席を外した。
すぐに紬さんは戻ってきて、手ぬぐいの巻かれた保冷剤と温かい紅茶を持ってきてくれた。
「美和子さん! 保冷剤使ってください。目、腫れちゃいますから。お兄ちゃんには席を外してもらいましたからゆっくり休んでくださいね」
「紬さん、ありがとうございます。はぁ。やたちゃん先輩もありがとうございます。さっきの羽、大丈夫でした?」
「おう! 2、3本抜けたが大したことねぇからお嬢ちゃんは気にすんな! ただ、ケイの奴は今度会ったら髪の毛毟ってやるけどな!」
「もう、やたちゃんは年なんだからそれぐらい自然に抜けるでしょ!」
「なんだと!? 自然に抜けるのと故意に抜けるのじゃ重みが違うんだよ!!」
紬さんとやたちゃん先輩の話を聞きながら、泣きすぎて熱を持った瞼を冷やす。ひんやりして気持ちいい。
ほっと息を吐いた。紅茶も頂く。
「やっぱり瞼が腫れたときの保冷剤って気持ちいいですよね!」
「あ~。もうホント気持ちいいです。ありがとうございます」
「お嬢ちゃん、声がオッサンみたいだぞ。落ち着いたならさっきの話、紬にしてやりな」
「そうですね。冷やしながらでいいので、話を進めましょうか。何があったんですか?」
「実は、アキラにブロックされてしまったみたいです。ここ最近アキラとの距離が縮まることが多くて、人柄に触れて、好きかもしれないと思った矢先だったので、ショックが大きくて」
私はここ最近あったことを紬さんに話した。
アキラに真剣に考えて欲しいと言われていたこと。金属の国に行った日のこと。
話しているうちに思い出して、また辛くなってきたが心を落ち着ける。
「アキラと身内の話をする事が増えたので、将来に対して考えていて。ケイとのメッセージを終わらせて、本格的にアキラと付き合っていこうかと悩んでいた矢先でした。行方不明だった『彼女が帰ってきた』という連絡の後からアカウントが消えて、ショックでやたちゃん先輩に泣きついたんです」
「なるほど。そんなことがあったんですね。この間金属の国に行った時は、すごく仲が良さそうに見えましたけど。それで、婚活を辞めようと思いました?」
「少し思いました。でもよく考えたら、ケイのことが浮かんで続けようと思いました。なんで、私が婚活を辞めようとしたって、分かったんですか?」
「その話はお兄ちゃんからしてもらうので、ちょっと呼びますね」
紬さんが渉さんを呼んできて、3人と1羽で話し合うことになった。
「美和子さん、最初に『あえ~る』の使用説明をした時の事を覚えていますか。『結婚の意思がなくなった時に生涯未婚が決定する』って話したと思います」
「はい。覚えています。インパクトが強かったので忘れられませんよ。でもなんで…………あ」
「美和子さんが考えていらっしゃる通りです。ショックで婚活を辞めようと考えたことに対して、生涯未婚の決定に近付いてしまったんです。今回は『あえ~る』の非常装置が働いて、多分ネックレスが光ったりしたんじゃないですか?」
そう言われると確かに婚活を辞めようかと言った時にでネックレスが光った気がする。渉さんの言葉に頷くと、渉さんは頷いて話を進めた。
「今回、一時的に婚活を辞めようと思ったことに対して反応してしまったようです。普通は今回のような一時的なショックには生涯未婚の決定は起きないです。でも今回は何故か生涯未婚になりかけ、『あえ~る』の非常装置である、強制的に一番好感度の高い相手が転移する仕組みが作動したんです」
「それでケイが転移してきたってことですか?」
「そういうことです。その後、付き人たちが追いかけてきたのでさっきの状況になったというわけです」
あんなに恐怖していた生涯未婚に片足を突っ込んだという衝撃が凄まじい。
思わず冷や汗が流れる。
まぁ聞いている限り基準が低かったようだから、今回みたいなことはなくなるだろう。
でも、もしもまた生涯未婚に片足を突っ込んだとしても、非常装置があることが分かってちょっと安心した。
「今日の夜は様子見のためにここでケイ君と会って行って下さい。不具合がなければ、次からは何処でも問題ないですから」
「分かりました」
渉さんはそれだけ言って、仕事があるとかで退室していった。
残った私たちは、恋バナでもしようということになり、お菓子とジュースを運び込んで、準備はばっちりだ。
開始早々、紬さんが私の一番痛いところをついてきた。
「ケイさんって美和子さんの事絶対に好きですよね。なんか今日見てて思いました」
「おじさんも思ったぞ」
「……私も感じてはいます」
「美和子さんってケイさんはタイプじゃないんですか? 気付いてたなら、ケイさんにしちゃうって選択肢もあったのに、なんでですか?」
「紬! お前は今度から粉薬を飲むときは、ゼリー禁止だぞ。オブラートについて粉薬の包み方から勉強し直せ! ゼリーは百年早い」
やたちゃん先輩が羽をバサバサしながら、ぷんすか怒っている。
「あはは、やたちゃん先輩大丈夫ですよ。気にしてないですし」
「やたちゃんのアホ―。すいません。直球で聞いちゃって。オブラート苦手なんですよね」
紬さんがカラス風にアホ―と言ったので、やたちゃん先輩に火がついた。
「お前、それは日本のカラス全部敵に回す発言だからな!」
「で、どうなんですか?」
突きに来るやたちゃん先輩と手で戦いながら、器用にこっちを向いて紬さんが聞いてくる。
「ケイは正直、謎な部分が多くて、個人的な深い話をしないんです。好意は分かるのに、距離を置かれているような感じでした。前提が異世界人だし、婚活でしょう? 隠し事がありそうだと思うと、どうしても信じきれなくて。だから分かりやすく自分の事や周囲の事を話してくれるアキラに真剣度を感じたというか、好感を持ったんです」
「確かに、それは大きいところですよね。同じ日本人同士だとしても、自分の事を話す人の方が信用できると感じますもんね」
性格や雰囲気、話しているときの感じでは、ケイのことを好ましいと感じていた。
だが、どうしても隠し事に対する不安は拭い去れない。
「今日の夜、ホントに会っていいのか悩みます」
「どういうことですか?」
嘴をスプーンでいなしていた紬さんがついに、やたちゃん先輩の嘴をとらえ、可愛いフリフリのリボンが付いたシュシュを嘴に巻いたことで戦いが終わったようだ。
「ケイは『悩んでいることは何でも話して』と言うんですが、ホントにアキラの事を話していいのか悩むんです。そもそも、ムシが良すぎるなとも思っていて、アキラに連絡切られたから、ターゲットをケイに変更したみたいで嫌なんです。けれど、ケイを見ていると、むしろ会うことを断る事の方が悲しいって言われているみたいに感じてしまうんです」
さっきまでとは打って変わって真剣な表情で紬が口を開いた。
「あんまり深く考えなくてもいいと思います。『あえ~る』で他の人を探してもいいし、沢山の選択肢があるんですよ。ケイさんの気持ちを利用しているようで嫌だと感じるなら、全く別人を探しますか? お手伝いしますよ!」
全く別の人。2人と会ってからその選択肢は考えてこなかった。
改めてどうだろう。他の人を探すのは。
ケイのはにかんだ顔が悲しくゆがむのが思い起こされて胸が痛んだ。
「それは……遠慮しておきます」
「そうですか。なら、今日の夜、しっかり向き合わないと! 応援してます!」
そう微笑んでくれた紬さんに笑い返した。
「ありがとうございます」
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