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川西美和子の場合
川西美和子、ドキドキします
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金属の国に行った日の夜。
アキラから連絡が来たのは、自宅に帰って寛いでいる時だった。
【美和子
今日は本当にごめんな。無事に帰れたか? アネットとハンナはどうだった?
2人と仲良く出来て楽しんでもらえてたら嬉しい。
俺はこれからも周りの人にミワコを紹介したいと思ってるから、嫌だったら断ってくれな。
今度はいつ会える?
今日の埋め合わせに美味しいレストランとか探しておくからな! アキラ】
「はぁ~」
こらえきれず、飛び切り大きなため息が口から零れ落ちた。
『キューピッドくん』をローテーブルに置いて、ソファーの上でお気に入りのクッションを抱え体育座りする。
握る手に力が入りすぎて、顔にクッションをこれでもかという程押し付けてしまう。
物理的に呼吸が苦しいけど、そんなことを感じている場合じゃないぐらい顔が熱くて、誰かに見られているわけでもないのにどうしようもなく居た堪れない。
いろんな感情が頭の中をグルグルしている。
「ああ。もうホントに。やだなぁ……」
周りの人って家族とか友達ってことだよね。
折角アネットとハンナが意識させないように振る舞ってくれたのに、がっつり意識させてくれちゃうよね……。
アキラは、周囲のことや自分自身のことを隠すことなく教えてくれる。
それが将来を考える婚活という場では、とても誠実で真剣な対応だと感じた。
デートも楽しいし、話も合う。
女心に疎いって言っていたけれど、頑張ろうとしてくれていたことはよく伝わっていたし、自分や家族のことを教えてくれた。
自分のことを話さないケイに募る不安感が、アキラの態度を好ましくさせる。
アキラを選んだら、彼はきっと幸せにしてくれるんだろうなと思う。
だけど……紫の切なげな瞳が私の頭をよぎる。
「ケイ……」
ケイと初めて会ったときから、彼の瞳の奥にある好意だけは感じていた。
春のひだまりみたいに温かくて、とろっとろのはちみつみたいに甘くて、思わず顔が赤くなるような視線。
私はいつしか、歩み寄りたい、ケイのことを知りたい、彼の気持ちに応えたいと思うようになっていた。
だがケイはあまり自分のことを話さず、はぐらかされていると感じたことも一度や二度ではない。
彼の隠し事に対する不信感や信用されていないという寂しさを感じてしまう。
きゅっと握りしめたクッションに顔を押し付ける。ほろりと涙がこぼれた。
「ケイのバカ……」
真剣に考えてくれるアキラのことを好きになろう。
きっと、それが一番いいんだ。
翌日やたちゃん先輩に心情を報告しに行き、今の状況を洗いざらいぶちまけてみた。
やたちゃん先輩は、いつものように羽根を繕いながら聞いてくれて、最後にこう言った。
「……そうか。お嬢ちゃんが幸せだと思う方に進めばいいんだぞ。お嬢ちゃん、後悔するなよ」
思わず私は、やたちゃん先輩を抱きしめてお礼を言う。
前向きな決意のはずなのに、何故だか胸を締め付けられるような気がして、涙がぽつりとこぼれた。
****************************************
金属の国に行ってから1週間以上経った。
あれから特に何もない。
平穏ないつも通りの日常を過ごしている。
今更ながら異世界に行ったのは夢だったんじゃないかと思えてきたほどだ。
日常は相変わらず、普通に殺伐とした最悪の環境で仕事をして、精神も肉体も疲れてフラフラになりながら帰る毎日だ。
結局アキラのメッセージへの返信はありきたりな内容になってしまった。
嫌ではないことは伝えて次に会う日取りを決めた。ただ、それだけだ。
それからは一切そういった話題にならないし、今まで通りの世間話ばかりだった。
けれどわざと避けているような嫌な感じはしない。
今度会う時に確実に何かが変わるような気がしていた。
それ以後の私たちのメッセージにアネットとハンナや家族の話が出ることが多くなっている。
「はぁ……私、最近ため息ばっかりだ」
『キューピッドくん』を手にベッドで項垂れることも、もはや最近の日課である。
今でもケイとは細々とだが連絡を取っていた。
しかし、メッセージの違和感は消えず、むしろ会っていた時のような違和感のない文章が来ることはなかった。
何だかどんどん心の距離が広がってしまったみたいに感じられる。
想ってくれていることは早くに分かったけれど、嘘を吐くような人には見えないけれど、それでも……。
信じられないと思ってしまう部分が大きかった。
ケイはどうして自分のことを教えてくれないんだろう。
教えてくれていたら、私は……どうしてただろう。
ケイ自身を好ましい、放っておけないと思っていたんじゃないだろうか。
そこまで考えて、いけない、と思った。
これは、考えてはいけないと。
「私が好きなのは……アキラ、だよね?」
きっとケイは、幸せにしてくれる人じゃない。
来週末にアキラの家へお邪魔することになったので、ケイとの連絡はそろそろ限界かもしれないと思っている。
これ以上連絡を続けて、余計にケイを傷つけることも嫌だった。
だから連絡を辞めることを伝えようとメッセージを入力する。
これを送って終わりにしよう。
そう思うと部屋に飾ったクマのぬいぐるみが気になって、ケイの顔を思い出してはメッセージを消してしまう。
こんなことばかり繰り返して、結局アキラと会う日の前日になってしまった。
今日こそは、とケイの顔を思い浮かべないようにしながら、お別れを入力する。
途中で書いては消し、書いては消しながら文章を考えた。
出来るだけケイが傷つかないようにするにはどうしたらいいのか、そんなことばかり考えてしまう。
2時間もかけて書き終わり、送信ボタンを押すだけになった時、『あえ~る』がメッセージの着信を知らせた。アキラからだった。
明日の予定の事だろうか? ケイに連絡するのは後にしよう。
そう思い、画面を切り替えてアキラとのメッセージ画面を開いて後悔した。
そこにはたった一言だけ書かれていた。
【彼女が帰ってきた】
そして、その日を境に、アキラからの連絡は完全に途絶えた。
アキラから連絡が来たのは、自宅に帰って寛いでいる時だった。
【美和子
今日は本当にごめんな。無事に帰れたか? アネットとハンナはどうだった?
2人と仲良く出来て楽しんでもらえてたら嬉しい。
俺はこれからも周りの人にミワコを紹介したいと思ってるから、嫌だったら断ってくれな。
今度はいつ会える?
今日の埋め合わせに美味しいレストランとか探しておくからな! アキラ】
「はぁ~」
こらえきれず、飛び切り大きなため息が口から零れ落ちた。
『キューピッドくん』をローテーブルに置いて、ソファーの上でお気に入りのクッションを抱え体育座りする。
握る手に力が入りすぎて、顔にクッションをこれでもかという程押し付けてしまう。
物理的に呼吸が苦しいけど、そんなことを感じている場合じゃないぐらい顔が熱くて、誰かに見られているわけでもないのにどうしようもなく居た堪れない。
いろんな感情が頭の中をグルグルしている。
「ああ。もうホントに。やだなぁ……」
周りの人って家族とか友達ってことだよね。
折角アネットとハンナが意識させないように振る舞ってくれたのに、がっつり意識させてくれちゃうよね……。
アキラは、周囲のことや自分自身のことを隠すことなく教えてくれる。
それが将来を考える婚活という場では、とても誠実で真剣な対応だと感じた。
デートも楽しいし、話も合う。
女心に疎いって言っていたけれど、頑張ろうとしてくれていたことはよく伝わっていたし、自分や家族のことを教えてくれた。
自分のことを話さないケイに募る不安感が、アキラの態度を好ましくさせる。
アキラを選んだら、彼はきっと幸せにしてくれるんだろうなと思う。
だけど……紫の切なげな瞳が私の頭をよぎる。
「ケイ……」
ケイと初めて会ったときから、彼の瞳の奥にある好意だけは感じていた。
春のひだまりみたいに温かくて、とろっとろのはちみつみたいに甘くて、思わず顔が赤くなるような視線。
私はいつしか、歩み寄りたい、ケイのことを知りたい、彼の気持ちに応えたいと思うようになっていた。
だがケイはあまり自分のことを話さず、はぐらかされていると感じたことも一度や二度ではない。
彼の隠し事に対する不信感や信用されていないという寂しさを感じてしまう。
きゅっと握りしめたクッションに顔を押し付ける。ほろりと涙がこぼれた。
「ケイのバカ……」
真剣に考えてくれるアキラのことを好きになろう。
きっと、それが一番いいんだ。
翌日やたちゃん先輩に心情を報告しに行き、今の状況を洗いざらいぶちまけてみた。
やたちゃん先輩は、いつものように羽根を繕いながら聞いてくれて、最後にこう言った。
「……そうか。お嬢ちゃんが幸せだと思う方に進めばいいんだぞ。お嬢ちゃん、後悔するなよ」
思わず私は、やたちゃん先輩を抱きしめてお礼を言う。
前向きな決意のはずなのに、何故だか胸を締め付けられるような気がして、涙がぽつりとこぼれた。
****************************************
金属の国に行ってから1週間以上経った。
あれから特に何もない。
平穏ないつも通りの日常を過ごしている。
今更ながら異世界に行ったのは夢だったんじゃないかと思えてきたほどだ。
日常は相変わらず、普通に殺伐とした最悪の環境で仕事をして、精神も肉体も疲れてフラフラになりながら帰る毎日だ。
結局アキラのメッセージへの返信はありきたりな内容になってしまった。
嫌ではないことは伝えて次に会う日取りを決めた。ただ、それだけだ。
それからは一切そういった話題にならないし、今まで通りの世間話ばかりだった。
けれどわざと避けているような嫌な感じはしない。
今度会う時に確実に何かが変わるような気がしていた。
それ以後の私たちのメッセージにアネットとハンナや家族の話が出ることが多くなっている。
「はぁ……私、最近ため息ばっかりだ」
『キューピッドくん』を手にベッドで項垂れることも、もはや最近の日課である。
今でもケイとは細々とだが連絡を取っていた。
しかし、メッセージの違和感は消えず、むしろ会っていた時のような違和感のない文章が来ることはなかった。
何だかどんどん心の距離が広がってしまったみたいに感じられる。
想ってくれていることは早くに分かったけれど、嘘を吐くような人には見えないけれど、それでも……。
信じられないと思ってしまう部分が大きかった。
ケイはどうして自分のことを教えてくれないんだろう。
教えてくれていたら、私は……どうしてただろう。
ケイ自身を好ましい、放っておけないと思っていたんじゃないだろうか。
そこまで考えて、いけない、と思った。
これは、考えてはいけないと。
「私が好きなのは……アキラ、だよね?」
きっとケイは、幸せにしてくれる人じゃない。
来週末にアキラの家へお邪魔することになったので、ケイとの連絡はそろそろ限界かもしれないと思っている。
これ以上連絡を続けて、余計にケイを傷つけることも嫌だった。
だから連絡を辞めることを伝えようとメッセージを入力する。
これを送って終わりにしよう。
そう思うと部屋に飾ったクマのぬいぐるみが気になって、ケイの顔を思い出してはメッセージを消してしまう。
こんなことばかり繰り返して、結局アキラと会う日の前日になってしまった。
今日こそは、とケイの顔を思い浮かべないようにしながら、お別れを入力する。
途中で書いては消し、書いては消しながら文章を考えた。
出来るだけケイが傷つかないようにするにはどうしたらいいのか、そんなことばかり考えてしまう。
2時間もかけて書き終わり、送信ボタンを押すだけになった時、『あえ~る』がメッセージの着信を知らせた。アキラからだった。
明日の予定の事だろうか? ケイに連絡するのは後にしよう。
そう思い、画面を切り替えてアキラとのメッセージ画面を開いて後悔した。
そこにはたった一言だけ書かれていた。
【彼女が帰ってきた】
そして、その日を境に、アキラからの連絡は完全に途絶えた。
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