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川西美和子の場合
川西美和子、異世界人に会いたくなります
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連絡を取り続けていると、互いの生活リズムが分かってくるようになる。
アキラは朝の出勤が遅くて、夜帰って来るのも遅いことがわかった。
だから出勤が早い私とは、時間が合わず、メッセージの回数は一日2、3回程度。
それでも出来るだけマメに返事をくれたので、いろいろな事が話せたと思う。
こういうマメな対応はすごく嬉しい。
【今日は雨でよかったなぁ! 研磨に水を使うんだけどさ、真水が必要だろ。金属の国は川が少ないから、雨水はいろんな意味で貴重なんだよ。】
暑い日には『太陽が鉄板の上のドラゴンを焼く』なんていう慣用句がある事を知った。
意味は『凄く暑い事』だそうで、確かに聞いただけで暑そうだ。ちなみに金属の国にはドラゴンはいないらしい。
それから、少し気になっていた元カノ話も聞く機会があった。
彼女は、金属アーティストになりたいと旅に出て、そのまま音信不通になってしまったらしい。
音信不通も気になるが金属アーティストとは何だろう。
他にも、アキラは3人兄弟の末っ子で、お兄さんが2人。2人とも鉱山で働いているらしい。どちらも結婚されて実家の近所に住んでいて、よく一緒に飲むようだ。
お兄さんの影響で瓶のふた、所謂王冠を集め始めたらしい。金属の国は金属コレクターが多いそうだ。
王冠然り、貨幣やアクセサリー然り。
アキラ自身は営業マンとして、他国への輸出に力を入れているらしい。本人曰く、なかなかのやり手だそうだ。
趣味の運動は、ボクシングの様な拳で語り合う系のスポーツで、トレーニングも地球の筋トレとあまり変わらないようだった。
私の趣味に合わせようとしてくれて、本を読もうとしたようだが、気付いたときには寝ていて、一行も読めなかったと落ち込んでいたこともあった。
ケイさんの方は、いつもメッセージの返信が驚くほど早かった。
私が仕事中に返事を返せないので、その間は連絡してこないのだが、仕事が終わってからメッセージに返事を返すと、すぐに次が来る。
自営業は時間に制約のないものなんだろうか。文字を打つのが、とてつもなく早いのかもしれない。
一度、なんでそんなに返信が早いのか聞いてみたら、【一刻も早くお話したくて急ぎました。】
と秒で返ってきた。画面に張り付いてるんじゃないだろうか。
ケイさんは散歩をしながら、休憩中に本を読むのが好きで、公園のベンチに座ったまま、4時間動かずにいたことがあるそうだ。
【気付いたら日が暮れてて……当然、帰ってから家族に怒られました。でもまたきっとやるんだけどね。】
そして動物や花が好きらしい。
エレクタラには動物園があって、頻繁に通っているようだ。
キャッシーという動物がお気に入りだそう。豹のような動物で尻尾が2本あるらしい。
この前キャッシーを撫でている写真が添付されてきた。
【このキャッシー可愛い。茶色いところが美和子に似てるかも。】
こうしてケイさんは、毎日の何気ない出来事や公園で見つけた花の写真等を送ってくれる。
最初に比べて文の違和感は減ってきていた。そして今日も……
【この花、茶色の薔薇っていうんだ。君の髪に似ている、とってもきれいな花。】
写っていたのはチョコレートブラウンのバラだった。一輪挿しの深紅の花瓶に生けてある。
こんな素敵な花に私を例えるなんて、ケイさんはロマンチストなのだろうか。
言われたことのない言葉になんだか顔が熱くなる。
ケイさんとの会話で多かったのは会いたいと言ってくることだ。
最初は流していたが、徐々に真面目な想いを感じ、ちょっとドキドキしてしまうことも増えていた。
そして、私も2人にいろんな話をした。
日本には四季があって、それぞれの季節にきれいな花や風景があることや漫画やゲーム、本が沢山あること。
職場にパワハラ上司が居て、後輩が一番の標的にされてるけど、怖くて助けてあげられないことにやきもきしてるとか。
婚活を始めたきっかけとか、好きな食べ物や面白かったテレビの話、好きな俳優さんの話なんかもした。
しかし食べ物の話についてだけは、ケイさんはあまり興味を示さなかった。
どんなものを食べているのか聞いても【パックに入ったヤツ】とか【固形の緑のヤツ】といった返答しか返ってこない。
食事に無関心な印象を受ける。
逆にアキラは食べるのが好きなようで、知らない料理の話をたくさんしてくれた。
2人の人柄の良さを知った私は、徐々に2人を信頼し始めていた。
いつか2人に会いたいと思い、ついに紬さんに会いに行くことにしたのだ。
今日の手土産は駅前の有名なケーキ屋さんの美味しいマドレーヌだ。
3度目となると見慣れたもので、前に使った部屋やトイレの場所など何となくの間取りが分かってきた。
部屋に着くと渉さんと紬さんに、今後マッチング相手と会いたいと思っていることを伝える。
「美和子さん、彼らとはどうですか? 私は美和子さんに好きな人ができるのが、楽しみで! 美和子さんはどちらがいいんですか?」
ちゃぶ台に身を乗り出して聞いてくる紬さん。顔にワクワクすると書いてあるような気がする。
「アハハ、どちらもいい人で、まだ分からないわ。ごめんなさい、紬さん」
「残念……分かりました」
「妹が度々すみません。早速ですが説明しますね。我々の提供する異世界転移には、様々な方法があります。まずは、実際に会う世界について」
説明してもらった内容はこうだ。
実際に会うための場所は3つある。
1つ目は、私たちのいるこの世界に来てもらうこと。
2つ目は、相手のいる世界に行くこと。
3つ目は、政府が設けた中間の施設で会うこと。
1と2はどちらを選んでもお互いにポイントは消費されるようだ。
さらに転移した後の滞在期間が分かれている。
半日未満、半日以上、1日以上と大きく分かれており、短い程ポイントの消費量は少ない。
細かく時間指定も可能。
転移の媒介になるのは1人に1つ配られるネックレス、もしくは世界各地にある女神像。
ネックレスの場合は握って、行きたい所か会いたい相手の名前を唱える。
今のところ転移は申請しないと使えない。
『あえ~る』で申請して転移する分には、本来の異世界転移に必要な申請をしなくていいらしい。
渉さんが取り出したのは、シルバーのネックレスだった。
翼のはえた女性が手を組んで祈っているようだ。天使だろうか。
そして気になる利用に必要なポイントの話だ。
「そして、以前お話したポイントの話ですが、1時間1ポイントとなっております。紬、美和子さんの利用限度ポイントは?」
渉さんに尋ねられて、紬さんが端末を見る。
「え~っと、あ、今月は初回ボーナスポイント付きで1000ポイントです」
初回ボーナスポイントって……ボーナスされているから多いのか、基準が分からない。
でも、1時間1ポイントならよほどのことがない限りゼロにはならない。ちょっと安心した。
「1000ポイント以内に収めればいいんですね」
「そうなりますね。ポイントはまた来月支給されますので」
「決心がついて、日付や時間が決まったら連絡します」
後は文字通り、私の心次第だ。
2人にお礼を言って玄関を出ようとした時、渉さんが思い出したように口を開いた。
「そう言えば、前に守秘義務の話はしましたよね」
「ええ」
「友人や親にも言ってませんか?」
「はい。誰にも話してません」
「それならいいんです。ただ今後は、悩むことも多くなるかもしれないので、誰かに聞いてもらいたいと思うことも出てくるかもしれませんよね。その場合はこの神社の八咫烏が、話を聞いてくれるので、彼に話してみてください。もちろん私や紬でも構いませんが、私は男ですし、紬はアレですからねぇ。家は好きな時に来て、勝手に入っていただいて構わないので」
「いいんですか? 勝手に入って。それより八咫烏ってもしかして、最初に来た時に会ったあのカラスさんですか?」
「そうですよ! 我が家ではやたちゃんって呼んでます!」
「へー。それでやたちゃん……。分かりました。行き詰ったらカラスさんに人生相談しに来ます」
まあそんなに悩むこともないだろうと軽く考えていた私だったが、この後、カラスさんのところに通い詰めることになるとは、未だ知る由もなかった。
アキラは朝の出勤が遅くて、夜帰って来るのも遅いことがわかった。
だから出勤が早い私とは、時間が合わず、メッセージの回数は一日2、3回程度。
それでも出来るだけマメに返事をくれたので、いろいろな事が話せたと思う。
こういうマメな対応はすごく嬉しい。
【今日は雨でよかったなぁ! 研磨に水を使うんだけどさ、真水が必要だろ。金属の国は川が少ないから、雨水はいろんな意味で貴重なんだよ。】
暑い日には『太陽が鉄板の上のドラゴンを焼く』なんていう慣用句がある事を知った。
意味は『凄く暑い事』だそうで、確かに聞いただけで暑そうだ。ちなみに金属の国にはドラゴンはいないらしい。
それから、少し気になっていた元カノ話も聞く機会があった。
彼女は、金属アーティストになりたいと旅に出て、そのまま音信不通になってしまったらしい。
音信不通も気になるが金属アーティストとは何だろう。
他にも、アキラは3人兄弟の末っ子で、お兄さんが2人。2人とも鉱山で働いているらしい。どちらも結婚されて実家の近所に住んでいて、よく一緒に飲むようだ。
お兄さんの影響で瓶のふた、所謂王冠を集め始めたらしい。金属の国は金属コレクターが多いそうだ。
王冠然り、貨幣やアクセサリー然り。
アキラ自身は営業マンとして、他国への輸出に力を入れているらしい。本人曰く、なかなかのやり手だそうだ。
趣味の運動は、ボクシングの様な拳で語り合う系のスポーツで、トレーニングも地球の筋トレとあまり変わらないようだった。
私の趣味に合わせようとしてくれて、本を読もうとしたようだが、気付いたときには寝ていて、一行も読めなかったと落ち込んでいたこともあった。
ケイさんの方は、いつもメッセージの返信が驚くほど早かった。
私が仕事中に返事を返せないので、その間は連絡してこないのだが、仕事が終わってからメッセージに返事を返すと、すぐに次が来る。
自営業は時間に制約のないものなんだろうか。文字を打つのが、とてつもなく早いのかもしれない。
一度、なんでそんなに返信が早いのか聞いてみたら、【一刻も早くお話したくて急ぎました。】
と秒で返ってきた。画面に張り付いてるんじゃないだろうか。
ケイさんは散歩をしながら、休憩中に本を読むのが好きで、公園のベンチに座ったまま、4時間動かずにいたことがあるそうだ。
【気付いたら日が暮れてて……当然、帰ってから家族に怒られました。でもまたきっとやるんだけどね。】
そして動物や花が好きらしい。
エレクタラには動物園があって、頻繁に通っているようだ。
キャッシーという動物がお気に入りだそう。豹のような動物で尻尾が2本あるらしい。
この前キャッシーを撫でている写真が添付されてきた。
【このキャッシー可愛い。茶色いところが美和子に似てるかも。】
こうしてケイさんは、毎日の何気ない出来事や公園で見つけた花の写真等を送ってくれる。
最初に比べて文の違和感は減ってきていた。そして今日も……
【この花、茶色の薔薇っていうんだ。君の髪に似ている、とってもきれいな花。】
写っていたのはチョコレートブラウンのバラだった。一輪挿しの深紅の花瓶に生けてある。
こんな素敵な花に私を例えるなんて、ケイさんはロマンチストなのだろうか。
言われたことのない言葉になんだか顔が熱くなる。
ケイさんとの会話で多かったのは会いたいと言ってくることだ。
最初は流していたが、徐々に真面目な想いを感じ、ちょっとドキドキしてしまうことも増えていた。
そして、私も2人にいろんな話をした。
日本には四季があって、それぞれの季節にきれいな花や風景があることや漫画やゲーム、本が沢山あること。
職場にパワハラ上司が居て、後輩が一番の標的にされてるけど、怖くて助けてあげられないことにやきもきしてるとか。
婚活を始めたきっかけとか、好きな食べ物や面白かったテレビの話、好きな俳優さんの話なんかもした。
しかし食べ物の話についてだけは、ケイさんはあまり興味を示さなかった。
どんなものを食べているのか聞いても【パックに入ったヤツ】とか【固形の緑のヤツ】といった返答しか返ってこない。
食事に無関心な印象を受ける。
逆にアキラは食べるのが好きなようで、知らない料理の話をたくさんしてくれた。
2人の人柄の良さを知った私は、徐々に2人を信頼し始めていた。
いつか2人に会いたいと思い、ついに紬さんに会いに行くことにしたのだ。
今日の手土産は駅前の有名なケーキ屋さんの美味しいマドレーヌだ。
3度目となると見慣れたもので、前に使った部屋やトイレの場所など何となくの間取りが分かってきた。
部屋に着くと渉さんと紬さんに、今後マッチング相手と会いたいと思っていることを伝える。
「美和子さん、彼らとはどうですか? 私は美和子さんに好きな人ができるのが、楽しみで! 美和子さんはどちらがいいんですか?」
ちゃぶ台に身を乗り出して聞いてくる紬さん。顔にワクワクすると書いてあるような気がする。
「アハハ、どちらもいい人で、まだ分からないわ。ごめんなさい、紬さん」
「残念……分かりました」
「妹が度々すみません。早速ですが説明しますね。我々の提供する異世界転移には、様々な方法があります。まずは、実際に会う世界について」
説明してもらった内容はこうだ。
実際に会うための場所は3つある。
1つ目は、私たちのいるこの世界に来てもらうこと。
2つ目は、相手のいる世界に行くこと。
3つ目は、政府が設けた中間の施設で会うこと。
1と2はどちらを選んでもお互いにポイントは消費されるようだ。
さらに転移した後の滞在期間が分かれている。
半日未満、半日以上、1日以上と大きく分かれており、短い程ポイントの消費量は少ない。
細かく時間指定も可能。
転移の媒介になるのは1人に1つ配られるネックレス、もしくは世界各地にある女神像。
ネックレスの場合は握って、行きたい所か会いたい相手の名前を唱える。
今のところ転移は申請しないと使えない。
『あえ~る』で申請して転移する分には、本来の異世界転移に必要な申請をしなくていいらしい。
渉さんが取り出したのは、シルバーのネックレスだった。
翼のはえた女性が手を組んで祈っているようだ。天使だろうか。
そして気になる利用に必要なポイントの話だ。
「そして、以前お話したポイントの話ですが、1時間1ポイントとなっております。紬、美和子さんの利用限度ポイントは?」
渉さんに尋ねられて、紬さんが端末を見る。
「え~っと、あ、今月は初回ボーナスポイント付きで1000ポイントです」
初回ボーナスポイントって……ボーナスされているから多いのか、基準が分からない。
でも、1時間1ポイントならよほどのことがない限りゼロにはならない。ちょっと安心した。
「1000ポイント以内に収めればいいんですね」
「そうなりますね。ポイントはまた来月支給されますので」
「決心がついて、日付や時間が決まったら連絡します」
後は文字通り、私の心次第だ。
2人にお礼を言って玄関を出ようとした時、渉さんが思い出したように口を開いた。
「そう言えば、前に守秘義務の話はしましたよね」
「ええ」
「友人や親にも言ってませんか?」
「はい。誰にも話してません」
「それならいいんです。ただ今後は、悩むことも多くなるかもしれないので、誰かに聞いてもらいたいと思うことも出てくるかもしれませんよね。その場合はこの神社の八咫烏が、話を聞いてくれるので、彼に話してみてください。もちろん私や紬でも構いませんが、私は男ですし、紬はアレですからねぇ。家は好きな時に来て、勝手に入っていただいて構わないので」
「いいんですか? 勝手に入って。それより八咫烏ってもしかして、最初に来た時に会ったあのカラスさんですか?」
「そうですよ! 我が家ではやたちゃんって呼んでます!」
「へー。それでやたちゃん……。分かりました。行き詰ったらカラスさんに人生相談しに来ます」
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