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アッシュ・テイラー、グラドシア連合兵団を語る

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 コンドル団長たちと共に王都から転移し、グラドシア連合兵団の本部へやってきた。
 実は普段俺が生活しているこの街には、サクラが行きたいと言わなければ連れてこない予定だった。
 同僚たちも多い上、馴染みの店、知人が多いこの街は、過去の俺の素行を知っているものが多いのだ。
 心臓に悪いので、もっと心の準備がしたいというのが本音だ。

「ついたぞ」

 コンドル団長の鳥類らしい、甲高い声がホールに響き渡る。
 着いた先はグラドシア連合兵団の転移ホールの中だ。
 客が訪れることもあるので、豪華なホールになっている。
 古代文字と装飾の彫刻が施された転移門は、先ほどの王都や実家の門よりも何倍も荘厳な雰囲気を醸し出していた。

「うわー、すごい……」

 サクラの口から感嘆の声が漏れる。部屋の雰囲気故か、とても小声だったが……。

「本部の転移門だからデカいだろう? さあ、こっちだ」

 俺はサクラの手を引いてエスコートする。
 ホールを出て、長い廊下を歩き訓練場へと向かう。
 その間に、休憩中だろう別隊の隊員たちとすれ違っては、何があったのかといぶかしむ視線を集めていた。
 団長までいる上、ぞろぞろと屈強な隊士たちが、いたいけな女性を取り囲んで歩いているのだ。
 デカい奴らに囲まれても視線を感じるのか、若干居心地悪げに縮こまるサクラの肩を抱き寄せて歩く。
 周りの団員たちの視線がきつくなった気がした。



「あれ? 団長たち、アッシュ見つけるまで帰ってこないんじゃ?」

「ばか。よく見ろよ。ちゃんとアッシュもいるだろうが」

「女の子、壁がデカくて見えねえ」

 外に出て野外訓練場に向かうと、同僚たちは丁度休憩中だったらしい。
 各々が休息を取りながら、興味深げにこちらを見つめている。何やら大きな内緒話も聞こえたが……。
 やはり団長たちは、面白がって俺を探していたのか。
 デート先の候補を隊士たちに聞いて回ったのは失敗だったな、と内心頭を抱えた。

「ああ、戻られたんですね」

 低く穏やかな声。トラサン副団長だ。

「変わりないか。異世界のお嬢さんに訓練を見てもらおうと思ってな」

「問題ありません。そろそろ休憩も終わりますし、丁度いいですね。アッシュ、皆に彼女を紹介するかい? 楽しみ……じゃなかった、心配してたんだよ」

 トラサン副団長はサクラを見て、安心させるように、にこりと微笑みかける。
 だが、この状況を楽しんでいたという本心が、隠せていない。
 俺は口角がひくりと引きつるのを感じた。

「集合!!」

 大きな咆哮のような号令で、休憩の終わりが告げられる。
 自由に休憩していた同僚たちがぞろぞろと集まってきた。
 俺とサクラが団長たちの横に立っていると、同僚たちは俺たちと対面になる形で整列する。
 一番前の列にはマークやアルト、マーチが並んでいる。アルトとマークはサクラに手を振ったりしていた。
 整列した大勢の隊士に見られて、緊張していた様子のサクラだが、見知った顔を見つけたことで少し安心したのだろう。
 微笑んでは小さく手を振り返している。

「これより訓練を再開する」

 トラサン副団長は、目前に並ぶ部下を見渡し、的確に指示を飛ばしていく。

「それから、今からの時間は見学者がいるが、いつも通り励む様に」

「はい!」

 副団長が見学者と口にしたところで、隊士たちの視線が僅かにサクラに向けられたが、すぐに逸れ、調教の行き届いた野太い声が響く。
 各自が持ち場へ歩き出したところで、副団長は俺たちを見る。

「アッシュ、君は彼女と見学だよ。訓練の最後に練習試合をするから、それだけ出てみなよ。休日だけどせっかく彼女がいるんだし、いいところを見せないとね」

 トラサン副団長は、茶目っ気のある笑顔でウインクを飛ばす。さらに、いいですよね団長? と目で確認を取ることも忘れない。
 コンドル団長もこくりと首を縦に振る。
 俺はありがとうございます、と礼をしてから、サクラの手を引いて観覧席へ向かった。
 座席に座ると、サクラは興味深そうに訓練の様子を眺める。

「あ! あっちは剣術ですか? こっちは弓! あの、棒みたいなものを構えた人たちは……うわっ! 水が出た!! 今の魔法ですか!? すごい!!!」

「ふはっ、はははっ! サクラ、興奮しすぎだ。ああいう魔法を見るのは初めてか?」

「あっ! すいません、つい。アニメとかゲームとかでは出てきますが、本物は初めて見ました! 本当に水がブシャーッって出来るんですね……」

 感心したように言っているが、普段のサクラは言わなさそうな言葉を使っている辺り、興奮しすぎて語彙力が下がっているようだ。
 手から水を放出するタイプの水魔法を、『ブシャーッ』と表現するのは、初めて聞いた。
 サクラが可愛すぎて、俺がブシャーッってなりそうだ。

「いろんなヒトがいるんですね」

「この国は獣人の国だから、獣人の種族だけで何十種類といる。そして両隣のヒュノスの人間とリチュラプッセのエルフが多いな。他にもいろいろ住んでいるぞ。異世界との交流が始まってから長いからな」

「へぇー。異世界ってすごいな……」

 そう言ったサクラの声は、どこか沈んでいるように聞こえた。しかし、一瞬の後にはいつもの愛らしい笑顔を浮かべていたのだ。
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