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アッシュ・テイラー、異世界ホームステイする④

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 俺の出待ち作戦はこうだ。
 出待ちしている俺にサクラが気付き、一緒に下校。あわよくばその後は、公園デート。
 うん、完璧だ。俺は内心ほくそ笑む。
 しかし、先ほどから校門を通る学生たちの視線が熱い。

「えっ! やば!! このわんちゃん超かわいいんですけど!!!!」

「ご主人様待ってんじゃない?」

「ウソでしょ? えっら!!!」

「触っちゃダメかな?」

 かなり丈の短いスカートを穿いた一団が、俺の可愛さにわらわらと群がる。
 俺の可愛さは、異世界でも遺憾なく発揮されているようだ。
 生徒が、優しく手を伸ばしてきた。化粧の感じがサクラと違う。派手なタイプだ。
 サクラと出逢う前なら受け入れていただろう。
 しかし、俺は今やサクラ一筋。
 申し訳ないが、ぷいとそっぽ向いて女子たちをやり過ごす。

「あ~撫でさせてくれないっぽいね。残念」

「仕方ないね~! わんちゃん、ばいば~い!」

「わんっ!」

 話の分かる女の子たちが去ってすぐ、「あ、見て。あんなとこに犬いるよ」という声が聞こえた。
 さっきの一団とは違う、女性にしては少し低めの落ち着いた声だ。声の主を探そうとして振り向いたとき、一番聞きたかった彼女の声が聞こえた。

「えっ? あ! この間の!」

「わわん!」

 サクラが小走りで駆け寄ってくるのが見えて、俺も居てもたってもいられなくなりサクラに向かって駆けだす。

「わんわん!」

 その勢いに任せ、サクラの胸に飛び込んだ。

「えへへ。会いたかったんだよ! よしよし」

 顔面に感じるサクラの胸の温かさと柔らかさ。
 サクラは俺がつらくないように、抱き方を整え、頭を撫でる。ぽんぽんと、背中を優しく落ち着かせるように叩いてくれる。
 銀の毛を滑るように、時には指に絡めて毛の感触を確かめ、梳くように触れてくれる。
 あぁ幸せ。
 サクラとの再会をうっとりと噛みしめていると、何人かが俺たちの周りに集まってきた。

「何。桜の知り合い犬だったの?」

「めっちゃ懐いてんじゃん!」

「ちょ、樋本。急に走るからびっくりした。え、何その犬?」

「なんか変わった色だな。グレーっていうか、銀色っぽい」

 こいつらのことはランチの時から見ていたから知っている。サクラのクラスメイト達。
 特に男は要注意だ。
 
「この子、前にも撫でさせてくれた人懐っこい子で! ずっと会いたかったの。会いに来てくれたんだね~。いい子いい子」

「くう~ん……ぐるぐる」

 サクラの首筋にすり寄り、自分のにおいを付けつつ、男には威嚇する。
 サクラの髪はサラサラでいい匂いだ。

「おれ、犬好きなんだよな~! 触りたい!」

 さわやか男が俺を触ろうと手を伸ばしてくる。
 冗談じゃない! やたちゃんではないが、男、ノータッチ!!

「がう、がうっ!」

 嫌がるように首を振ると、サクラが気付いてくれた。

「あれ? 嫌なの? ごねんね。この子嫌みたい」

 ここぞとばかりに、サクラの胸にすり寄る。

「人見知りするのかもな」

「それにしても、この子絶対オスだよね。きっと樋本さんのこと好きなんだよ」

「えっ! そうなの?」

 メガネの寡黙な男が少し膝をかがめ、俺を覗き込むように視線を合わせてくる。

「がうがう! うー! わんわん!!」

 なんだよ! 文句あるのか!? 人の気持ちを簡単にバラして楽しいのか!!
 そんな気持ちを込めて、男に吠える。
 そしてサクラに向き直ると覚悟を決めた。

「くぅ~ん。きゅ~ん……」

 俺は伝えられていない想いを表すように、今までかつて出したことがない、最上級の甘え声を出す。
 そして、彼女の肩に前足を乗せ腕の中で立ち上がると、彼女の唇の端をペロリと舐めた。
 至近距離に見えるきょとんとしたサクラの顔。

「んっ、あ、こら。くすぐったいよ」

「ほら! 絶対樋本さんのこと好きなんだよ。やきもちじゃない?」

「桜ちゃんモテモテだね」

「えへへ。君は私のことが好きなの?」

 俺の頭を撫でながら、優しく目線を合わせて、サクラが嬉しそうに笑う。

「わん!」

 好きだ! 答えるように吠える。

「ありがと。じゃあ、一緒に帰ろっか。じゃあ、私帰るね」

「おー」

「また明日ね~」

 サクラは俺を抱いたまま、クラスメイトに手を振り『ダイガク』を後にした。
 歩きながら、サクラは俺に話しかける。

「どうやって大学まで来たの? もしかして、この辺のおうちの子?」

「わんわん」

 この世界の犬になりきり、人語では答えない。
 俺の言葉がわからないサクラは、どうやったのかやたちゃんに連絡したようだ。

「神社の近くの子なんだね。神社まで来てってやたちゃんが言ってるから、一緒に行こうね」

「あん」

 サクラの腕に抱かれていると温かくて、小さな振動も相まって俺はだんだんと眠気にかてなくなり……。
 いつの間にか意識を手放していた。

**************************************

 温かい何かが俺の体の上をなぞる。
 それはさらに、もふもふと軽く押すようにして触れ、まるで俺の毛の感触を楽しんでいる様だ。
 さらさらと撫でたかと思えば、ゆっくりと一定のリズムで自慢の毛を撫でられている。
 頭、背中、耳の後ろを優しく触れていく。
 そして肉球にずっと当たるのは、心地のよいふかふかした感触。
 心地よい愛撫に嗅いだことのある甘くて美味しそうな大好きな香り。
 まだまだこうしていたい。
 しかし、意識はこの幸福から離れるように浮上していく。わずかに開いた目から見えたのは、赤く染まった空と愛しいサクラの横顔だった。
 
「あ、起きたね。おはよう」

 サクラが優しく頭を撫でる。
 どうやら俺は、『ワタラセ』の家で『エンガワ』に座ったサクラの膝の上、いや、天国にいるようだ。
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