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大公令嬢は様子を見ている
不敵に笑う(ヒロイン視点)
しおりを挟むsideレイン
貴族棟の3階、日当たりのそこそこいい間取り。それが、レイン・ハイジョーカー男爵令嬢の住む部屋だった。部屋に入り扉を閉めた途端、彼女はずるずるとその場に座り込んだ。
(こ、怖かったぁ……)
レインは未だバクバク早打ちする心臓を落ち着けるため息を整える。先程の皇太子ユージーンの目付き、あれ程恐ろしいものを見たのは初めてだ。
あれはまるで、魔法の花に触れられるのを拒む御伽噺の獣のよう。
(何がなんでも、ユージーン殿下はアンジェ様を奪われたくないのね)
おそらく彼らは、前世からの仲なのだろう。ユージーン殿下のあの態度はもちろんの事、アンジェ様の方も殿下を意識していらっしゃる。2人が無事結ばれるためには、あのルートは何がなんでも選んで欲しくないはずだ。
しかし、レインとて譲れないものがある。
彼女もまた転生者。前世はまだうら若き女子高生であり、家族に愛され友人にも幅広く恵まれ、自慢ではないが元から男性受けもなかなかいい方だった。それこそ、週に最低でも一度は告白されてしまうほどには。
まさに人生の勝ち組と言うべき彼女が乙女ゲーム好きの友人からしつこく勧められやったのが、【雨の姫と7人の王子】。今まで乙女ゲームというジャンルとは無縁であったが、そこで彼女は運命の出会いを果たす。
今までどんなに素晴らしい男にだってなびかなかった彼女は、次元の違う液晶越しのその人に恋をしたのだ。
どれほど、画面の中の少女が羨ましいと思ったか。
どれほど、画面の中の彼に直接話しかけたいと思ったか。
どれほど、画面の中へと入り込みたいと神に願ったことか。
どれほど.......どれほど。
彼女はそのせいで精神を病み衰弱死したが、結果は満足である。あれほど望んだ世界の、愛される少女に生まれ変わったのだから。
「ユージーン殿下は厄介だけど、やるしかないわ」
デビュタントで彼等が牽制しかけたように、彼女もまた、他の転生者を炙りだそうとしていた。そのためのタピオカだ。
転生者でなおかつこのゲームを知っているのがユージーンの方だとは予想外だったが、関係はない。
「絶対に逆ハールートへ行ってみせるわ。だってその方が、みんなも私も幸せになれるんだもの」
彼女はヒロイン。何がなんでも、望み通りのルートを導き出す。例えどんな邪魔が入ろうとだ。
彼女は不敵に笑った。
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