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[Revenant/Fantome]

[03]第四話 白の中の黒

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 「白い化け物? あぁ、ファントムの事か」

少年は剣を鞘に納めながら、そう返す。

未だに顔を見せない。

正体を知られたくないのか、失礼なのか、いまいち、判断が付きにくい。

 「ファントム? モーヴェではないのですか?」

しかし、イベリスは少年の態度を気にすることなく、少年が語った言葉に対し疑問を浮かべた。

通常、この地を荒らす化け物の総称は『モ―ヴェ』である。

しかし、少年が語る呼び方が気になった。

通常、『ファントム』とは亡霊の事を言う。

 「こいつはそんなものじゃない。いちいち聞くな。俺は他人との会話は嫌いだ。もう喋るな」

 「なっ、なんですかそれ」

少年の態度にイベリスは驚いた。

喋るなと言われて、すぐ納得できるわけがない。

未だに背中を向けているのも嫌な感じだった。

立ち上がって、抗議をしようと思ったが、雪に足をとられ転んでしまった。

 「きゃ!」

転んだ際に、足の傷から血が流れ落ちた。

イベリスが思っているより傷が深かったのだ。

 「うぅ……」

足を抑え、血をどうにか止めようと手で押さえる。

動くべきではなかったのかもしれない。

白い化け物と対峙しているときは血があまり流れなかったのに今になって流れ出ていることが疑問だった。

そう、白い化け物がいたからこそ血が止まっていたのだ。

正確にはあまりの寒さに血が凍り付いていたと言える。

それが今、無くなったため通常の体温が戻り、血が流れ出したのだ。

懸命に処置をするイベリスを振り向きもせずに少年はそこに立ったままだった。

冷酷な態度に少しムッとしながらも、イベリスも助けを求めることはしなかった。

自分でできる事なのだから自分ですることが当たり前だ。

ボードウィン城の姫だからと言って甘えた考えはしていない。

だが、イベリスが足を紐で縛り、血を止めようとしていると木の陰から複数の足音が聞こえてきた。

人ではない。

唸り声も聞こえることから、ここに住む獣だろうと判断がつく。

そして、獣はすぐに姿を現した。

長い鼻面と長い足を持ち犬のような姿をした獣。

毛皮に斑点が見られる。

ハイエナだ。

ハイエナは牙を剥き、イベリスを威嚇する。

傷の為動けないイベリスはそのハイエナの目的が自分であることを知った。

慌てて、短剣を手に持つ。

叫んで少年に助けを求めるべきなのにイベリスはそうしなかった。

それは半ば意地になっていた。

だが、そんなイベリスの感情を獣が分かるわけない。

ただ、弱っている獲物を狙っているだけなのだ。


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