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『アネモネの傭兵』
仄暗き檻/18
しおりを挟む「なっ、何者だ!!」
一瞬、傭兵たちが石が投げ込まれたことに反応するが、それも束の間。シェイタンが石を投げられたことにより、目覚め、のそのそと動き出したのだ。どんなに強固な鎖でも完全にシェイタンを縛ることは難しい。眠らせるか、瀕死にさせるかどちらかしかない。シェイタンはその巨躯を震わせ鎖を引きちぎった。弱らせていた状態であったため、シェイタンの体から血がボトボトとこぼれ落ちる。
「ギャァァアァァア!!」
痛みと怒りで咆哮をあげ、シェイタンはその場にいる傭兵を一人掴むとその大きな口へと運んだ。ごきりと気味の悪い音が響く。
「捕まえろ! 今度暴れさせてみろ、命がないか、奴隷落としだぞ!」
シェイタンのおぞましい行動に怯みながらも傭兵たちは立ち向かうしかない。各々が剣をシェイタンに向け、構える。
「門は開いてる。これに乗じて行くぞ」
柱に隠れていたテオとボールスはその脇を駆け抜けていく。何人かに姿をみられたがそれどころではないようだ。侵入者よりもシェイタンが暴れていることの方が問題らしい。何人もの人間とすれ違うが、テオとボールスには見向きもしなかった。
「ボールス、お前の主人は何処に居る?」
走りながら、テオはボールスに質問した。だが、ボールスは首を横に振り、分からないとこぼした。
「我はずっと部屋に閉じ込められていた。部屋から出ても、目隠しをされていたから何処に何があるかは分からないのです」
「そうか……」
テオは不意に走る足を止める。
「どうしたのですか?」
同じようにボールスも足を止め、テオを見つめた。
「誰か一人捕まえて、聞くのが手っ取り早い」
長い廊下の先を見据え、人が向かってくるのが見える。ゆっくりした足取りで、目の前に侵入者が居ることも気づいていない様子だった。
「好都合だな」
大太刀を構え、テオはその人物が間合いに入るのを待つ。これだけ広ければ、大太刀も不利ではない。むしろ、普通の剣よりも間合いは大太刀の方が長く有利に働く。近づいてきても、その人物は慌てることもなかった。肝が座っているのか、はたまた鈍感なのか測りかねるがテオは待つことにした。ふと、ボールスがテオの背中に隠れるように張り付いていた。
「旦那様……エルドラ様……」
カタカタと震え、小声で呟き呟き続けていた。
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