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『アネモネの傭兵』
仄暗き檻/17
しおりを挟む子供たちに別れを告げ、ボールスとテオはその場を後にした。
「聞いてないぞ。子供たちの分も買ってくるなんて」
「見返りがなけれはなにもしてくれませんよ。子供は大人よりも合理的なんですよ」
ボールスの説明を聞きながら、テオは財布の中身を見ていた。すっかり無くなっている。
「む……」
仕方ない。また、稼げばいいか。テオはそう思うと前を見据えた。高い塀に囲まれた大きな屋敷があった。屋敷というよりかは要塞のようである。
「ここがエルドラの館か」
テオの質問にボールスが頷く。
「思ったより警護が手薄だな」
傭兵に出くわすと思い、構えてきたのに誰とも出会わなかったのに少し拍子抜けした。
「多分、我を探しているのでしょう」
「まぁ、誰もこんな近くにいるとは思わんもんな」
逃げるならば普通は逃げた場所から遠くに行くものだ。誰もがそう思うだろう。それが今、都合の良い方へ動いている。
「問題は何処から入るかだな」
門は閉まり、重い格子が下がっている。ボールスが逃げるときは多分、運よく開いていたのだろう。テオの横でボールスが困った顔をしていた。
「まさか、俺もここまでの屋敷とは思ってなくてな」
だが、金にものを言わせてボールスを買った人間だ。金持ちであるのは間違いないわけだし、ある程度の家の大きさは予想できたがここまでとは思わなかった。来る前にボールスに聞けばよかったと後悔した。だが、迷っている時間はない。傭兵たちが戻ってくる可能性もある。
「強行突破するしかないな」
テオはポツリと呟いた。大太刀に手を伸ばす。その時、ボールスがテオの服の裾を引っ張った。
「む?どうした?」
そこに傭兵が帰って来るのが見えた。だが、ボールスを探している傭兵たちではないようだ。それは荷車に傷つき眠るシェイタンを縛り付け、運んでいる傭兵たちであった。
「む、ひとまず、隠れろ」
壁の柱の影に隠れると様子をうかがう。
「あのとき、連れてこられたシェイタンが暴れたから逃げられたのです」
ボールスが小声でテオにそう告げた。なるほど。シェイタンを暴れさせることが出来れば侵入の可能性は高くなると言うことか。テオはそこに落ちている石を拾うと、シェイタンへ向かって投げつけた。ガツンと、大きな音をたてシェイタンに当たる。
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