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『男と奴隷の少年』
『男と奴隷の少年』/03
しおりを挟む少年は特別な商品の為、傭兵が住むところに置かれていた。『特別』という割に多分他の奴隷より酷いことをされている。体に傷こそつけないが、『教育』と言う名の乱暴をする。その小さな体に受ける精神的な苦痛は計り知れない。普通なら気が触れてもおかしくないのに。
男は何故こんなところに居るのだろうと考える。金が必要だから仕方なく傭兵として雇ってもらった。だが、雇われた先が奴隷の護衛をする傭兵だとは思いもしなかった。それでも男は雇われたからにはと働いた。そもそも、男の髪と瞳で気持ち悪がられ雇うものなど多くなかったから仕方なくだった。
屋敷の中を歩き、男はふと少年がぼんやりと鉄格子の間から外を眺めているのが目についた。少年以外に誰もいない。そう言えばこの日は少年の悲鳴が聞こえなかった。
「今日は何もされていないんだな」
男は少年に声をかけた。話をしたかった。
「何を見ている? それとも外へ出たいのか?」
別段手足が拘束されているわけでもない。少年を逃がそうと思えば逃がすことも出来るはずだ。「はい」と言えば手助けくらいしても良いと男は考えていた。
男の呼び掛けに少年は静かに顔を向けた。鉄格子の隙間に小さなリスが少年があげたものであろう食べ物をカリカリと夢中で食べていた。
「何か用ですか?」
少年はリスを隠すように鉄格子を背にした。確かに見つかりでもしたらリスは殺されてしまうかもしれないし、それを理由に酷いことをされるかもしれない。少年のとった行動は当たり前だろう。だが、男は少しショックだった。
あの男達と同等と見られていることに。
いや、少年にして見れば見て見ぬふりをする男も何ら変わりないのも確かだと思い直した。
少年は静かに男が話すのを待っていた。声をかけたのに何を話すのだったかうっかり飛んでしまった。男は少し考え、そうだ『アネモネ』だと思い出した。
「む、特に用というわけでもないのだが、アネモネについて話を聞きたくてな」
「アネモネは花の名前です」
少年は男に言ったことを思い出した。鮮やかな赤がすぐに目に入ったから、自分が知っている色でその赤を表してしまった。何か気に触ることを言ってしまったのではと少年は不安そうに男を見ていた。
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