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第8章
第253話
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男湯から外に出て、サリエル様の後に続いて移動した先は、温泉旅館の中にある売店を模した場所だった。そこには、日本の温泉旅館の様に様々なものが取り揃えられており、どれもこれもが非常に美味しそうだ。
その売店の一角まで、サリエル様は足を止める事なく進める。そしてサリエル様が足を止めた先にあったのは、長方形の大きな入れ物だった。使われている素材などは違うものの、日本の夏祭りなどでもよく見るアイスボックスと見た目が酷似しており、用途も同じものであると予想する。
サリエル様に手招きされて近づいて見てみると、予想通りある程度まで水を張られていて、大量の大きな氷が水の中に入れられている。見ただけでも、アイスボックスの中に張られている水が、どのくらい冷やされているのが分かる程だ。
「ほう、これは凄いですね。こんなにも冷えた水に、瓶詰めにされた牛乳。ですが、こちらとこちらは?」(レスリー)
兄さんにとって未知である、二つの瓶詰めされた飲み物をそれぞれ片手で持ち上げる。右手に持っている瓶の中には、焦茶色の液体が入れられている。そして左手に持っている瓶の中には、赤みを帯びた黄色の、山吹色の液体が入れられている。
俺の様に転生してこの世界に生まれた人ならば、一目見たらそれがどんな飲み物なのか理解出来る。はい、どう見てもコーヒー牛乳とフルーツ牛乳ですね。フルーツ牛乳ならばこの世界でもあり得ると予想していたが、まさかコーヒーもこの世界に存在していたとは。もしかして俺が知らないだけで、ヘクトル爺たちはコーヒーの存在を知っていたのかもしれないな。
「レスリー殿の右手に持っているのが、私たちがコーヒー牛乳と呼んでいる飲み物。そして左手に持っているのが、私たちがフルーツ牛乳と呼んでいる飲み物ですね」(サリエル)
「コーヒー牛乳、フルーツ牛乳、ですか」(レスリー)
「フルーツ牛乳の方は、牛乳に白桃やみかん、りんごなどの果物を砕いて混合した液体と、砂糖を同程度の量の水に溶かし、とろみが出るまで熱したものを混ぜ合わせた飲み物ですね」(サリエル)
「え~と……」(レスリー)
「言葉の説明だけでは分からないと思いますので、後で三人で飲みましょうか」(サリエル)
「はい、分かりました。それでは、こっちの方は?」(レスリー)
「コーヒー牛乳の方は、牛乳にコーヒー豆というものから作れるコーヒーという飲み物と、砂糖を加える事で出来る飲み物ですね」(サリエル)
「コーヒー、ですか」(レスリー)
「そちらの方も、コーヒー牛乳とは別にご馳走しますよ」(サリエル)
「いいんですか!?」
「ええ、構いません」(サリエル)
「「ありがとうございます」」(レスリー)
「では、コーヒー牛乳とフルーツ牛乳の方を飲みましょうか」(サリエル)
俺たち三人は、売店の傍にあるテーブルと椅子があるスペースへと移動する。兄さんは、コーヒー牛乳とフルーツ牛乳の瓶を色々な角度から眺めて、どういった味のする飲み物なのかを予想している。その様子を、サリエル様が微笑みながら見ている。
「……お待たせして申し訳ありません。こういった未知の物を見ると、どうしても気になってしまいまして」(レスリー)
「いえいえ、大丈夫ですよ。寧ろそこまで気にしてもらえるなら、作り手たちも喜びますよ。それでは、いただきましょうか」(サリエル)
「「はい」」(レスリー)
この世界の何かを素材にして再現された、瓶の飲み口を塞ぐ樹脂製の蓋を外す。まずは、瓶の飲み口に鼻を近づけて匂いを嗅いでみる。だが流石に何百年も前の記憶であるから、匂いまで正確に覚えている訳ではない。しかし、こんな感じの匂いだったなとは思える。押し寄せる懐かしい前世の記憶や感情に、思わず涙腺が緩みそうになる。それを抑え込んで、最初はコーヒー牛乳から一口飲んでみる。
〈おお!!確かに、これはコーヒー牛乳だ!!…………懐かしいな〉
匂いも似ていたが、味の方も飲んだ事のあるものだった。実際に舌で味を感じたか事で魂が刺激されたのか、残りを一気飲みして飲み干してしまう。その姿をサリエル様がしっかりと見ていた様で、先程の兄さんを見ていた時と同じ様に微笑まれていた。
「一気飲みする程美味しかったのか?」(レスリー)
「……そうだね。きっと兄さんも気に入ると思うよ」
「そうか。それなら……」(レスリー)
俺の感想を聞いた兄さんが、瓶を傾けてコーヒー牛乳を一口飲む。その瞬間、兄さんが大きく目を見開く。その様子を見ただけで、驚いたというのが伝わってくる。兄さんは、コーヒー牛乳の瓶を一度テーブルに置いて、俺の方を見て頷く。それだけで、コーヒー牛乳の美味しさが伝わった事が、充分に理解出来るものだった。兄さんは瓶を再び手に持ち、俺と同じく残りを一気飲みして飲み干す。
「どうですか?」(サリエル)
「とても美味しいです。これが毎日の様に飲めるなんて、天族の方たちが羨ましいです」(レスリー)
「私も同感です。温泉に毎日は入れて、湯上りにコーヒー牛乳が飲めるなんて。もの凄い羨ましいです」
「ふふふ、良かったです。フルーツ牛乳の方も美味しいので、召し上がってください」(サリエル)
「「はい、いただきます」」(レスリー)
俺と兄さんは、フルーツ牛乳が入っているもう一つの瓶を手に取り、樹脂製の蓋を外す。そして、二人で同時に瓶を傾け、フルーツ牛乳を一口飲む。こちらもコーヒー牛乳同様に、前世のフルーツ牛乳と同じ味がしている。
だが一つだけ、飲ませてもらったコーヒー牛乳とフルーツ牛乳の二つと、前世のコーヒー牛乳とフルーツ牛乳の二つと違う点がある。それが、味の濃厚さだ。飲ませてもらったコーヒー牛乳とフルーツ牛乳のどちらも、非常に味が濃厚であり、のど越しもとても良かった。そして、ここまで濃厚な味になっているのは、恐らくこの世界に魔力が存在するからだろう。
前世と今世の世界の大きな違いを一つ上げるとするならば、それは間違いなく魔力や魔術といった存在だ。様々な姿形をしている魔物や魔獣、世界によって生み出された竜種、御伽噺の中の存在であった幻想種などなど、これらの存在は全て魔力と密接に結びついている。
そして、魔力によって野生の獣が魔獣化する様に、果物などの食物にも魔力は影響を与える。特にハリアンの北の森の様に魔力溜まりが存在する土地や、魔力濃度が濃かったり、高純度の澄んだ魔力が豊富な土地などで生きている生物への影響は大きい。植物であれば、木々の成長速度が速まり、薬草などの効果が高まる。お肉であれば、脂肪の質が高まり、締りも良くなってきめもかなり細かくなる。果物であれば、形や色合いが非常に整い、糖度も一定以上のものとなり、中には特別な効能を持つような果物もある。
「こちらのフルーツ牛乳も、とても美味しいです。それにしても、どちらももの凄く濃厚ですね」(レスリー)
「まあ、天空島は場所が場所ですし、誕生した経緯も特殊です。その事もあって、天空島内の魔力濃度は濃いですし、高純度の澄んだ魔力が豊富なんですよ」(サリエル)
「なる程。その様な環境ならば、これ程濃厚なものになるのも納得です」(レスリー)
「カイル殿はどうでしたか?」(サリエル)
「俺も兄さんと同意見です。これ程までに濃厚で、のど越しのとても良い美味しい飲み物は初めてです。…………再現出来るか、色々と試してみよう」
「そうですか。お二人とも、気に入っていただけた様で良かったです」(サリエル)
「サリエル様、それにカイルさんとレスリーさんも、ここにいたんですね。もうお飲みになったみたいですけど、どうでしたか?」(アメリア)
「ええ、とても美味しかったです」
「ふふふ、それは良かったです」(アメリア)
「アメリア、私たちにも飲ませてくれるんだろう?」(レイア)
アメリアさんの後ろから姉さんがそう言いながら、俺たちの飲み終わった二つの瓶をガン見している。さらには姉さんだけでなく、リナさんたちも興味深そうに見ている。アメリアさんはニコニコと笑顔を浮かべながら、姉さんたちを連れて売店へと向かって行く。
「カイル殿もレスリー殿も、おかわりしていただいても構いませんよ」(サリエル)
「いいんですか?」
「はい、大丈夫です」(サリエル)
「ありがとうございます!!……兄さんはどうする?」
「私はもうお腹一杯だから、お前の分だけ貰ってくればいい」(レスリー)
「了解。おかわりは、フルーツ牛乳にしようかな~」
俺はフルーツ牛乳という素晴らしい飲み物を手に入れるために、アメリアさんと姉さんたちのいる売店に向かって歩き出した。
その売店の一角まで、サリエル様は足を止める事なく進める。そしてサリエル様が足を止めた先にあったのは、長方形の大きな入れ物だった。使われている素材などは違うものの、日本の夏祭りなどでもよく見るアイスボックスと見た目が酷似しており、用途も同じものであると予想する。
サリエル様に手招きされて近づいて見てみると、予想通りある程度まで水を張られていて、大量の大きな氷が水の中に入れられている。見ただけでも、アイスボックスの中に張られている水が、どのくらい冷やされているのが分かる程だ。
「ほう、これは凄いですね。こんなにも冷えた水に、瓶詰めにされた牛乳。ですが、こちらとこちらは?」(レスリー)
兄さんにとって未知である、二つの瓶詰めされた飲み物をそれぞれ片手で持ち上げる。右手に持っている瓶の中には、焦茶色の液体が入れられている。そして左手に持っている瓶の中には、赤みを帯びた黄色の、山吹色の液体が入れられている。
俺の様に転生してこの世界に生まれた人ならば、一目見たらそれがどんな飲み物なのか理解出来る。はい、どう見てもコーヒー牛乳とフルーツ牛乳ですね。フルーツ牛乳ならばこの世界でもあり得ると予想していたが、まさかコーヒーもこの世界に存在していたとは。もしかして俺が知らないだけで、ヘクトル爺たちはコーヒーの存在を知っていたのかもしれないな。
「レスリー殿の右手に持っているのが、私たちがコーヒー牛乳と呼んでいる飲み物。そして左手に持っているのが、私たちがフルーツ牛乳と呼んでいる飲み物ですね」(サリエル)
「コーヒー牛乳、フルーツ牛乳、ですか」(レスリー)
「フルーツ牛乳の方は、牛乳に白桃やみかん、りんごなどの果物を砕いて混合した液体と、砂糖を同程度の量の水に溶かし、とろみが出るまで熱したものを混ぜ合わせた飲み物ですね」(サリエル)
「え~と……」(レスリー)
「言葉の説明だけでは分からないと思いますので、後で三人で飲みましょうか」(サリエル)
「はい、分かりました。それでは、こっちの方は?」(レスリー)
「コーヒー牛乳の方は、牛乳にコーヒー豆というものから作れるコーヒーという飲み物と、砂糖を加える事で出来る飲み物ですね」(サリエル)
「コーヒー、ですか」(レスリー)
「そちらの方も、コーヒー牛乳とは別にご馳走しますよ」(サリエル)
「いいんですか!?」
「ええ、構いません」(サリエル)
「「ありがとうございます」」(レスリー)
「では、コーヒー牛乳とフルーツ牛乳の方を飲みましょうか」(サリエル)
俺たち三人は、売店の傍にあるテーブルと椅子があるスペースへと移動する。兄さんは、コーヒー牛乳とフルーツ牛乳の瓶を色々な角度から眺めて、どういった味のする飲み物なのかを予想している。その様子を、サリエル様が微笑みながら見ている。
「……お待たせして申し訳ありません。こういった未知の物を見ると、どうしても気になってしまいまして」(レスリー)
「いえいえ、大丈夫ですよ。寧ろそこまで気にしてもらえるなら、作り手たちも喜びますよ。それでは、いただきましょうか」(サリエル)
「「はい」」(レスリー)
この世界の何かを素材にして再現された、瓶の飲み口を塞ぐ樹脂製の蓋を外す。まずは、瓶の飲み口に鼻を近づけて匂いを嗅いでみる。だが流石に何百年も前の記憶であるから、匂いまで正確に覚えている訳ではない。しかし、こんな感じの匂いだったなとは思える。押し寄せる懐かしい前世の記憶や感情に、思わず涙腺が緩みそうになる。それを抑え込んで、最初はコーヒー牛乳から一口飲んでみる。
〈おお!!確かに、これはコーヒー牛乳だ!!…………懐かしいな〉
匂いも似ていたが、味の方も飲んだ事のあるものだった。実際に舌で味を感じたか事で魂が刺激されたのか、残りを一気飲みして飲み干してしまう。その姿をサリエル様がしっかりと見ていた様で、先程の兄さんを見ていた時と同じ様に微笑まれていた。
「一気飲みする程美味しかったのか?」(レスリー)
「……そうだね。きっと兄さんも気に入ると思うよ」
「そうか。それなら……」(レスリー)
俺の感想を聞いた兄さんが、瓶を傾けてコーヒー牛乳を一口飲む。その瞬間、兄さんが大きく目を見開く。その様子を見ただけで、驚いたというのが伝わってくる。兄さんは、コーヒー牛乳の瓶を一度テーブルに置いて、俺の方を見て頷く。それだけで、コーヒー牛乳の美味しさが伝わった事が、充分に理解出来るものだった。兄さんは瓶を再び手に持ち、俺と同じく残りを一気飲みして飲み干す。
「どうですか?」(サリエル)
「とても美味しいです。これが毎日の様に飲めるなんて、天族の方たちが羨ましいです」(レスリー)
「私も同感です。温泉に毎日は入れて、湯上りにコーヒー牛乳が飲めるなんて。もの凄い羨ましいです」
「ふふふ、良かったです。フルーツ牛乳の方も美味しいので、召し上がってください」(サリエル)
「「はい、いただきます」」(レスリー)
俺と兄さんは、フルーツ牛乳が入っているもう一つの瓶を手に取り、樹脂製の蓋を外す。そして、二人で同時に瓶を傾け、フルーツ牛乳を一口飲む。こちらもコーヒー牛乳同様に、前世のフルーツ牛乳と同じ味がしている。
だが一つだけ、飲ませてもらったコーヒー牛乳とフルーツ牛乳の二つと、前世のコーヒー牛乳とフルーツ牛乳の二つと違う点がある。それが、味の濃厚さだ。飲ませてもらったコーヒー牛乳とフルーツ牛乳のどちらも、非常に味が濃厚であり、のど越しもとても良かった。そして、ここまで濃厚な味になっているのは、恐らくこの世界に魔力が存在するからだろう。
前世と今世の世界の大きな違いを一つ上げるとするならば、それは間違いなく魔力や魔術といった存在だ。様々な姿形をしている魔物や魔獣、世界によって生み出された竜種、御伽噺の中の存在であった幻想種などなど、これらの存在は全て魔力と密接に結びついている。
そして、魔力によって野生の獣が魔獣化する様に、果物などの食物にも魔力は影響を与える。特にハリアンの北の森の様に魔力溜まりが存在する土地や、魔力濃度が濃かったり、高純度の澄んだ魔力が豊富な土地などで生きている生物への影響は大きい。植物であれば、木々の成長速度が速まり、薬草などの効果が高まる。お肉であれば、脂肪の質が高まり、締りも良くなってきめもかなり細かくなる。果物であれば、形や色合いが非常に整い、糖度も一定以上のものとなり、中には特別な効能を持つような果物もある。
「こちらのフルーツ牛乳も、とても美味しいです。それにしても、どちらももの凄く濃厚ですね」(レスリー)
「まあ、天空島は場所が場所ですし、誕生した経緯も特殊です。その事もあって、天空島内の魔力濃度は濃いですし、高純度の澄んだ魔力が豊富なんですよ」(サリエル)
「なる程。その様な環境ならば、これ程濃厚なものになるのも納得です」(レスリー)
「カイル殿はどうでしたか?」(サリエル)
「俺も兄さんと同意見です。これ程までに濃厚で、のど越しのとても良い美味しい飲み物は初めてです。…………再現出来るか、色々と試してみよう」
「そうですか。お二人とも、気に入っていただけた様で良かったです」(サリエル)
「サリエル様、それにカイルさんとレスリーさんも、ここにいたんですね。もうお飲みになったみたいですけど、どうでしたか?」(アメリア)
「ええ、とても美味しかったです」
「ふふふ、それは良かったです」(アメリア)
「アメリア、私たちにも飲ませてくれるんだろう?」(レイア)
アメリアさんの後ろから姉さんがそう言いながら、俺たちの飲み終わった二つの瓶をガン見している。さらには姉さんだけでなく、リナさんたちも興味深そうに見ている。アメリアさんはニコニコと笑顔を浮かべながら、姉さんたちを連れて売店へと向かって行く。
「カイル殿もレスリー殿も、おかわりしていただいても構いませんよ」(サリエル)
「いいんですか?」
「はい、大丈夫です」(サリエル)
「ありがとうございます!!……兄さんはどうする?」
「私はもうお腹一杯だから、お前の分だけ貰ってくればいい」(レスリー)
「了解。おかわりは、フルーツ牛乳にしようかな~」
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