引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis

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第8章

第250話

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 外観や外装がとても素敵な屋敷であるが、さて内装はどうだろうと中に入らせてもらう。アメリアさんの丁寧な案内の元、色々な場所や部屋を見ていくが、どこも外観同様にシンプルで洗練されており、個人的にはとても素晴らしいと思ったくらいには好印象の内装だった。

「この屋敷はどうですかって、聞く必要もなさそうですね」(アメリア)
「ははは、すいません。とても好みの屋敷でしたので、少し嬉しくて興奮してしまいました」
「いえ、こちらとしてもそう言っていただけると大変嬉しいです。では、こちらの屋敷を拠点とするという事で宜しいですか?」(アメリア)
「はい、そうさせていただけると大変助かります。改めて確認しますけど、本当にこちらの屋敷を貸していただいても大丈夫ですか?」
「ええ、全然大丈夫ですよ」(アメリア)
「ありがとうございます」

 俺は、色々とよくしてくれたアメリアさんに一礼して感謝を示す。アメリアさんは、俺の感謝の意を微笑んで受け取ってくれる。

「カイルさん、色々と説明していきましたが、何かご不明な点はありましたか?」(アメリア)
「いえ、教えてもらった事はちゃんと書き記していますので、現状では特にありません。それで転移門についてなのですが、どこに設置すればいいんでしょうか?」
「転移門については、ご自由にしていただいて構いませんよ。ただ後で、どこに設置したかだけはお教えくださいね。カイルさんたちがいない間、維持管理の為に人が入る可能性がありますので」(アメリア)
「はい、分かりました。では、早速作業を始めさせていただいても?」
「構いませんよ。私は直ぐ傍にある広場にいますので、転移門の設置が終わりましたら、そちらの方にいらしてくださいね」(アメリア)
「了解です」

 アメリアさんはゆっくりと歩き出し、直ぐ傍にあるという広場に向かって移動していく。俺はそれを見送ってから、屋敷の中へと戻っていく。さて、どこに転移門を設置しようか。
 この横に広い二階建ての屋敷の構造を考えると、どちらか片方の位置に転移門を設置してしまうと、もう片方に移動するのに時間がかかってしまうな。そうなると、屋敷の丁度真ん中になる位置で、転移門を設置するのがいいだろうな。屋敷内をもう一度ゆっくりと回りながら、屋敷の真ん中となる位置を探っていく。
 そして数分程度屋敷の中を回った結果、左右どちらの端に向かうのにも同じ時間で済み、一階・二階にも移動しやすい部屋が見つかった。それが、玄関ホール正面の階段を上った先にある、様々な分類の書籍が取り揃えられている書斎しょさいになる。書斎には、主人もしくは屋敷の住人が仮眠が出来る様にと、開き戸の扉で仕切られた寝室が用意されている。転移門は、その仕切られている開き戸の扉に設置する事にした。

「それじゃあ、始めるか。アメリアさんを待たせる訳にはいかないから、手早く終わらせるか」

 転移門を設置すること自体は、時空間魔術を常日頃から使用している者からすると、そこまで難しいものではない。だが今回設置する場所は、地上に存在を決して知られてはいけない、天空島ロクス・アモエヌスという天族という種族の安住の地だ。通常の転移門の術式でも、移動という面に関しては充分ではある。だがそれでは、最悪の場合を想定した時に、不安の気持ちの方が大きい。
 だから、メルジーナ国に設置させてもらった転移門の術式と同じ術式を、この天空島ロクス・アモエヌスでも使用する。この転移門の術式は、テントに付与した例の魔物・魔獣除けの術式を組み立てた時に得た、様々な知識や技術を十二分に取り入れて組み立てたものだ。
 この転移門の術式には、既存の転移門の術式にはない機能が色々と備わっている。まず初歩の初歩として、登録した魔力以外の魔力が込められたり、無理やりに術式が≪解析≫されようとした場合に、転移門の術式に隠されたカウンター術式が発動する様になっている。カウンター術式が起動すると、敵と認識された相手に対して、自動的に迎撃態勢に移る様にしている。その他にも、敵対者に対して様々な対策を施してある。
 右腕を肩の高さまで上げて、その特別製とも言っていい転移門の術式を、右の掌から展開する。そして、そのまま右の掌に展開した転移門の術式を、扉の中心へと吸い込ませていく。扉の中心に吸い込まれた転移門の術式は、一度強く光り輝いてから、スーッとゆっくり薄くなって消えていく。

「術式も安定しているし、魔力もしっかり流れている。よし、上手くいったな」

 諸々の確認の為に、魔力を術式へと流し込む。魔力を流し込まれた術式は、扉の中心から浮かび上がってくるかの様に濃くなっていき、存在感を示すかの如く光り輝いている。ここから完全に起動させれば、地上にある兄さんの屋敷へと転移門が繋がる。だが術式も安定しているし、魔力もしっかりと流れている事は確認できているので、今は完全に起動させずに術式を元に戻す。

「さて、アメリアさんがいる広場に向かいますか」

 俺は、拠点として使わせていただける事になった屋敷の玄関から外に出て、アメリアさんが待っているであろう広場に向かって歩き出す。とても澄んでいる空気を感じながら、ゆっくりと周囲を見ながら進む。
 天空島の空気は、サリエル様たちの力によって、地上とほぼ変わらない様に調整されている。空気を含めた色々な天空島の調整は、ミシェルさんやグレイスさんの様に、地上に降り立って役目を果たす者の為に施されている。
 天空島が存在する高度だと、本当はもの凄く空気が薄くなるはずだ。だがその環境をそのままにしておくと、サリエル様たちはともかく、天族の者たちが生存できない。だからこそ、地上とほぼ変わらない環境に調整されている。そして、ミシェルさんやグレイスさんたちの様に地上に降り立つ者たちに、急激な変化による負担をかけさせない様にするためだろう。

〈遥か上空に浮遊している天空島で暮らしていようとも、子供の純真さは変わらないというのがよく分かるな〉

 目に映る天族の子供たちは、まだ世の中の辛さも苦しさも知る事がなく、純真な笑顔を浮かべながらお友達同士で遊んでいる。その純真な笑顔を見ていると、心が癒されていき、和やかな気持ちになる。天族の子供たちは俺の視線に気付いたのか、こちらを皆で興味深そうに見ながら、手をフリフリと振ってくる。俺はそんな子供たちに向けて、微笑みを浮かべながら手を振り返す。
 天族の者たちが送る、普段の生活の様子を眺めながら歩く事一・二分、中心にとても精巧で華美な装飾が施された噴水が中心にある、綺麗な白い石畳で作られた広場が目の前に広がった。白い石畳は丁寧に丁寧に磨き込まれてツルツルになっており、石がもっている荒々しさがなくなり、子供たちが転んでしまったとしても軽傷で済む様にと、石畳を作りあげた職人たちの想いが込められているのが伝わってくる。

「さて、アメリアさんはどこに……」

 アメリアさんが何処にいるのかを探そうと広場を見渡した時、広場の中で人が集まっている所を見つけた。改めて広場を見渡したが、アメリアさんが見当たらない事から、恐らくあの集団の中にいるのだろう。そう予想を立てて集団に近づいていくと、やはり予想通りに、その集団の中にアメリアさんがいた。というか、集団の中心がアメリアさんだった。

「……あ、カイルさん」(アメリア)

 俺が広場に来た事にアメリアさんが気付き、微笑みながら手を振り、声をかけてくれる。今、アメリアさんは集団の中心にいる。アメリアさんが声をかけた事に反応して、アメリアさんの周囲にいた天族の者たちが振り向いて、俺の存在を認識する。
 天族の者たちが、子供たちと同じ様に興味津々な瞳で俺を見る。彼らからすると、久々の、しかし一見すると普通に見えるお客様だからな。色々と興味深そうに見られても仕方ないな。
 さて、近づいてもよいものか。そんな事を考えていると、アメリアさんが直ぐ近くまで近寄ってきてくれた。天族の者たちはそんなアメリアさんの動きから察して、アメリアさんに声をかけながら、自然と解散していった。天族の者たちにも、色々と気を遣わせてしまった様だ。

「カイルさん、屋敷の方は終わりましたか?」(アメリア)
「はい。後は帰る際に、向こう側としっかり繋がるのかを確認するだけです」
「そうですか。ではあの方々が戻るまで、天空島を色々と見ていきますか?」(アメリア)
「いいんですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。私やミシェルたちがおすすめする、お気に入りの場所などを紹介しますね」(アメリア)
「はい、お願いします」
「きっと、カイルさんも気に入ってくれると思います」

 俺はその後、天空島の素晴らしい景色の数々をアメリアさんと共に巡り、天空島ロクス・アモエヌスを充分に堪能したのだった。
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