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第8章

第248話

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 アメリアさんが用意してくれた紅茶やお菓子に舌鼓を打ちながら、サリエル様たちと和やかな空気のまま談笑をし続けていたが、日が暮れ始めた事をサリエル様たちが教えてくれた事で、楽しいお茶会はお開きとなった。
 精霊様方については、最初にサリエル様が言っていた様に、色々と話があるという事でこの場に残るそうだ。元々サリエル様たちは、精霊様方と今回の件とは別の事で話があったのだそうだ。だが優先順位の変わる程重要な報告に、この件に関しての星からの積極的な情報共有もあり、精霊様方と色々と話しておきたいという事で、ここで一旦別行動となる。

「カイル殿、この様な形ではありましたが、直接お会いできて良かったです」(サリエル)
「はい、俺も皆様にお会いする事ができて良かったです。……それで、先程言っていた事は本当に大丈夫なんですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。今回は初めての来訪でしたので、正規の方法で来てもらいました。ですがカイル殿は、ミシェルやグレイスと違ってあそこに直ぐに行く事は出来ません。今回の件以外にも緊急性の高い事例が発生した場合、カイル殿がこちらに来るまでに時間がかかりすぎます」(サリエル)
「通信魔術で情報をミシェルたちに伝えたとしても、口頭である事に加えて、実際にその場にいない者から情報となるとな。どうしても、情報の密度や正確性が変わってしまう」(ルシフェル)
「…………それに、竜神から聞いているぞ。竜の巫女がいる里で、何やら面白い魔術を使っていたそうだな」(ヘラクレス)
「竜神様から?……面白い魔術っていうと、もしかしてあの事を言っている?ヘラクレス様、竜神様から聞いた面白い魔術というのは、記憶を映し出すというものでしたか?」
「……ああ、その魔術だ」(ヘラクレス)

 確かにあの魔術なら、俺の見たもの聞いたものの全てを、サリエル様たちへと正確に伝える事が出来る。敵からしてみれば、これ程脅威となる情報伝達方法はないだろうな。この魔術が使える者がいて、その者に冥土の土産だとペラペラと情報を喋り、その上で逃げられたとしたら、喋った情報が全て相手方に伝わってしまうからな。
 口頭での情報伝達なら、通信魔術でも出来る。だがルシフェル様が言っていたように、口頭での情報伝達には色々と限界や制約がある。言語情報のみで、実際に起こった出来事を一から十まで正確に説明するのは、非常に難しい事だ。
 それに通信魔術は、星の裏側にいる様な相手であったり、何時でも何処でも無制限に繋がれたりする訳ではない。通信距離に比例して使用する魔力量が増えていき、魔力が不安定になっている特殊な場所では、魔術が上手く発動せずに連絡を取る事が出来なくなる。

「もし魔人種たちの国や、その陰にいる悪神に関する情報を見聞きした場合には、その魔術で報告します」
「……ああ、頼む」(ヘラクレス)
「はい」
「では後の事は、アメリア、お願いしますね」(サリエル)
「はい、お任せください。ではカイルさん、行きましょうか」(アメリア)
「了解です。では皆様、また何かありましたらお会いしましょう」
「はい」(サリエル)
「おう」(ゼウス)
「……うむ」(ヘラクレス)
「ああ」(ルシフェル)

 俺はアメリアさんの後に続いて、ログハウスを後にする。その際、ログハウスの扉の位置で一度振り返り、サリエル様たちに向かって一礼する。サリエル様たちはそれぞれ軽く手を上げて、それに応えてくれた。
 今からアメリアさんの後に続いて向かう場所は、とてもありがたい事に、サリエル様たちのご厚意によって使わせていただける、天空島ロクス・アモエヌス内の拠点となる屋敷だ。
 天空島ロクス・アモエヌスは、かつての日本の様に鎖国している訳ではない。ただ
、サリエル様たちによって許された者たちのみが、その地を踏める場所であるというだけだ。俺の様に天族以外の種族が訪れる事もあるそうだし、その者たちが快適に過ごせる場所が用意されている。天族たちと同じ大きさの俺たちが泊まれる屋敷から、巨人族や大型の竜種も快適に過ごせる大きさの屋敷まで、多種多様な種族に対応出来る様になっている。
 そして今回、サリエル様たちのご厚意によって使わせていただける拠点となる屋敷は、その用意されている来客用の屋敷の一つだ。さらにありがたい事に、その屋敷を俺や姉さんたち専用の拠点として、使う事を許可してくれた。サリエル様たちも姉さんたちの事は昔から知っており、兄さんの事もミシェルさんを通じて知っているそうだ。その関係もあり、姉さんたちや兄さんも屋敷を使う事が許された。
 サリエル様たちの異空間を出て、長い廊下を再び歩き続けてから巨大な館を出て、北西方面に向けてゆっくりと歩き始めたアメリアさんに付いて行く。十分から十五分程歩いていくと、透き通るような綺麗な水色が現れ、俺の視界一杯に広がっていく。

「これは、湖ですか?」
「ええ、そうですね。流石に天空にある島なので、海と繋がる事は出来ません。ですが、子供たちが湖や海というものを学べる様にと、サリエル様たちが天空島の各地に幾つかの湖を生み出したそうです」(アメリア)
「なる程。……しかし、この湖の水は綺麗ですね。ここまで綺麗な水は、地上でも早々お目にかかる事は出来ませんよ」
「ふふふ、ありがとうございます。サリエル様たちが、学ばせるためだとはいえ、あえて汚い水にする必要はないという事でして……。なので、天空島にある他の湖は、ここと同じくらい綺麗ですね」(アメリア)
「汚い水や海水を直接飲む事の危険性については、どの様に?」
「それらについては、天空島にお越しになる方たちから、子供たちに教えてもらっています。何も知らないよりは、知識として知っておいた方がいいとの方針から、昔からその様にしていますね」(アメリア)
「確かに、何も知らなければ対処も出来ないですが、知識としてでも対処法を知っていれば、水を安全に飲む事が出来ますからね」

 しかし、天族の子供たちは海を実際に見た事がないのか。天空島という、地上よりも遥かに高い位置にあるという環境上、仕方ないのかもしれないな。もし天空島がウルカーシュ帝国に近い高度で浮遊していたのなら、もしかしたらカナロア王国の海を天空から見る事が出来たかもしれないな。

〈だがそこまで低い高度だと、色々と問題が起きる可能性も高いか〉

 天空島や天族の者たちの存在を徹底的に隠し通すためには、色々な事やものを犠牲にしなくてはならない。そして、海という地上にしかないものも、その犠牲にしなくてはならないものの一つか。
 海を知らない子供たちの為に、何か出来ないかと色々と考えながらアメリアさんの後に続いていると、アメリアさんの足が一つの屋敷の前で止まる。一旦考えを中断して、まずは使わせていただける屋敷に集中する事に、気持ちや思考を切り替える。

「カイルさん。ここが、カイルさんたちが拠点としてお使いしていただく屋敷になります」(アメリア)
「……え~と、本当にここなんですか?」
「ええ、こちらの屋敷で間違いありませんよ」(アメリア)

 アメリアさんに手で示された、俺や姉さんたちの拠点となる屋敷は、正しく日本の文化財に指定される様な、とても広大で立派な武家屋敷だった。江戸時代の大名たちが日々を暮らしていた武家屋敷と遜色なく、どう見ても偉い人が使う様な屋敷だ。この広大な武家屋敷を、俺や姉さんたち、それから兄さんを含めても七人で使うには広すぎる。

「屋敷を使わせていただけるのはとても嬉しんですが、ここを俺や姉さんたちで使うにしては、流石に広すぎると思うんですが……」
「ですが、世界樹の守護者にして、今代の契約者であるカイルさんがお使いになる拠点ですよ?これくらいの格は、必要ではないのかと思いますが……」(アメリア)
「いえ、普通でいいんです、普通で。七人で使うのにちょうどいい位の大きさで、俺たちは充分ですから」
「そうですか……。では幾つかご紹介しますので、気に入った屋敷があったらお教えくださいね」(アメリア)
「分かりました」
「では、次の屋敷へと向かいましょうか」(アメリア)
「お願いします」

 微笑みながら先導し始めるアメリアさんに、一抹の不安を抱きながらも、俺は後に続いて歩き出した。
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