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第8章

第245話

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 サリエル様やルシフェル様たちが暮らしている、巨大な館の中へと足を踏み入れる。シンプルでいながらもとても美しく見える外観も素晴らしいのだが、館の内も外観と同じくらいシンプルでありながらも、とても綺麗で清潔感のある空間が広がっている。
 並べられている絵画やつぼなどの美術品や、初代皇帝陛下の執務室にあった執務机の様な、超一流の職人たちの手による作品が数多く見られる。それら超一流の職人たちの作品には、初代皇帝陛下の執務机の様な魔術術式は隠されてはいない。 
 どうやらあの執務机だけがあらゆる意味で特別な作品であって、この館の為に作られた作品たちは、普通の範疇に収まる物の様だ。まあ超一流の職人の手で作られている時点で、他の人たちからすれば普通ではないのかもしれないがな。
 アメリアさんの後を付いていきながら、素晴らしい作品の数々を見ていく。特に個人的に凄いと思ったのは、実際にその景色が想像出来るほどリアルに描かれた絵画たちだ。何かしらの歴史なのか、童話の一部分を描いたものなのかは分からないが、英雄譚をモチーフにした絵画が多く見られた。
 ただ、それ以外にも色々と描かれている絵画もある。綺麗な風景を描いたものから、天空島に暮らす天族の者たちを描いたものまで、様々な絵画が色々な場所に飾られている。どの画家さんの絵にも、それぞれに強みや個性といったものが随所ずいしょに見られて、とても素晴らしい絵画ばかりだった。

「これらの絵画や壺などの焼き物は、私たちの先祖の代からの作品から、今の時代の者たちが作った作品まで色々とあります。カイルさんが気にいった作品があるのなら、幾つか持ち帰っていただいても構いませんよ」(アメリア)
「いえ、大丈夫です。これらの作品たちは、この館にあるからこそ最高の輝きを放っているんです。俺が持ち帰って何処かに飾ったとしても、絵画や壺の魅力を最大限引き出す事は出来ませんよ」
「そこまで評価していただけるのは大変嬉しいですが、これらは全て私たちのの作品ですよ?」(アメリア)
「例え趣味の作品であっても、心を込めて作り上げた素晴らしい作品ならば、正当な評価を受けるべきです。そしてここにある作品の数々からは、作り手たちの想いをひしひしと感じる事が出来ます。先程も言いましたが、素晴らしい作品がこの館にあるからこそ、より魅力的な作品へと昇華されているんです。ですので、ここが飾られるべき場所である事に間違いありません」
「ふふふ、ありがとうございます。同胞たちの事を、そこまで誉めていただけるなんて思いませんでした」(アメリア)
「いえ、俺は本心から思った事を言ったまでですから」
「彼らも、カイルさんの言葉にとても喜ぶと思います」(アメリア)

 アメリアさんは、そう言いながらニコニコと笑顔を浮かべる。その後はサリエル様たちの待つ場所へと到着するまで、アメリアさんは上機嫌でちょっとした解説をしてくれた。色々と解説を聞いたが、やはり何らかの戦闘の様子を描いたものは、歴史や童話の中の英雄譚をモチーフとしている様だ。
 幾つかの絵画の中には、今は知られていない、伝えられていない消し去られた歴史といったものを描いたものがある。俺の場合は里の長が読ませてくれた書籍の中に、こういった消し去られた歴史を記した書籍もあった事から、絵画に描かれているのがどういった歴史なのかが分かる。だが何も知らない人がこの絵画を見たら、何が描かれているのかチンプンカンプンだろうな。
 そして、アメリアさんと会話をしながら歩き続けて数十分ほど、サリエル様たちの待つ場所へと到着した。目の前には、木製のシンプルな両扉が見える。前に立つアメリアさんが、一度俺の方を振り返る。その視線から、準備はいいかという様な意思が見て取れたので、俺は頷いて大丈夫だと返す。それを見たアメリアさんはニコリと微笑んでから前へと向き直り、扉を三回ノックして来訪を告げる。

「サリエル様、ルシフェル様方、アメリアです。カイルさんをお連れしました」(アメリア)
『そのまま入ってきてくださって構いませんよ』(サリエル)
「分かりました。では、失礼致します」(アメリア)

 アメリアさんはサリエル様の許可を得たので、両扉の取っ手を握って手前に引いて開ける。そして、両扉が開かれた先に見えた光景は、一つの部屋の中とは思えないものだった。
 青々とした空にポツリポツリと浮かんでいる積雲せきうんに、優しく光を降り注いでくれる太陽。立ち並ぶ太く大きな木々に、空間に彩を添える様に咲き誇る綺麗な花々。肺に吸い込む空気は澄んでおり、花々の匂いも相まってとても良い匂いが漂う、心が落ち着く空間になっている。

「なる程、空間拡張されている異空間ですか。この部屋と言うか空間は、一体どの方が生み出したんですか?」
「この空間拡張された異空間は、サリエル様たちが協力して生み出したものになります」(アメリア)
「もしかして、サリエル様たちはこの異空間の中で暮らしているんですか?」
「そうですね。自分の好きな場所に家を建てて、毎日それぞれお好きな様に生活していますね。そして会議や重要な会談をする場合には、両扉の近くに建てた家へと集まります」(アメリア)
「神々ですから当然ですけど、自由に生きてますね」
「そこは、強大な力を持つ神々だからこそ、ですね」(アメリア)
「…………それもそうですね」

 安易に地上に干渉する事が出来ない神々だが、世界の均衡を保つという最も重要な仕事がある。だがそれ以外に力を揮う事が出来るかと言われると、そう多くはないと精霊様方から聞いている。それはサリエル様やルシフェル様たちも例に漏れず、世界や星の事を見守りながら、天空島でのんびり日々を過ごして暮らしているのだろう。

「では、あちらに向かって移動しましょう」(アメリア)
「了解です」

 アメリアさんが示した方角に向かって、ゆっくりと足を進めていく。先程言っていた、会議などの為に建てた家へと向かうのだろう。
 立ち並ぶ木々の中へと入っていき、綺麗に整えられた道を進んでいくと、綺麗に光が降り注いでいる一軒の建物が見えてくる。そこに建てられていたのは、大きな一軒のログハウスであった。
 ログハウスは三角屋根の二階建てで、素人が作った様な所々雑な部分が一切なく、その道のプロが完璧に仕上げたと言ってもいい程に綺麗な外観をしている。

〈このログハウスは、天族の者たちがサリエル様やルシフェル様たちの為に作ったのか?それとも、この天空島を作り上げた時と同じ様に、サリエル様やルシフェル様たちの誰かが生み出したのだろうか?〉
「カイルさん?どうされましたか?」(アメリア)
「いえ、ログハウスがとても綺麗に作られているので、誰が作ったのだろうかと思っていました」
「……ふふふ、そうでしたか。このログハウスは、サリエル様たちが協力して生み出したそうです。この異空間の中では、サリエル様やルシフェル様たちも力が使えますから。外観や内装に関しては、サリエル様たち四柱で話し合い決めたそうです」(アメリア)
「地上から遠く離れた天空島である事や、そこからさらに異空間内である事で、力の制限が緩められているんですね」
「ここは言わば、疑似的・簡易的な神の領域と呼んでいい空間になっています。カイルさんが仰った様に、異空間である事で直接的に地上への影響は出ませんし、サリエル様たちも力が漏れ出ない様に気を遣っています。ここまで徹底する事で、星から力の行使が許可されたとサリエル様たちから聞いています」(アメリア)
「こんなに素敵で良い家を、会議や重要な会談の時だけしか使わないなんて、凄い勿体ないですね」
「そこまで言ってもらえると、この家を生み出した一人として嬉しく感じます」(?)

 俺の言葉に、アメリアさんではない男性の声で返事が帰ってくる。その声が発せられた場所へと目を向けると、そこには微笑みを浮かべたサリエル様が立っていた。
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