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第8章

第228話

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 そしてやってきた夕食時、メリオスに帰ってきて早々、久々のおかわり攻撃が俺に襲い掛かって来た。だが今回は、エロディさんという心強い味方がいてくれる。俺とエロディさんの二人で食いしん坊たちを相手にすれば、奴らを打倒する事も可能になるかもしれない。

〈そんな甘い事を考えていた数十分前の俺に、喝を入れてやりたい〉

 俺とエロディさんが作った料理の数々が、食いしん坊たちによって食い尽くされていく。その速度は、俺が一人で料理を作っている時よりも早い。こちらが戦力を一人増やした事に合わせて、食いしん坊たちも本気を出してきた様だ。

「ふんふん~、ふふふ~ん」(エロディ)

 俺と一緒に料理を作っているエロディさんは、魔力起動式システムキッチンを使って料理出来ている事で非常に上機嫌で、自然と鼻歌を歌っている程だ。そのお蔭もあって、もの凄く手際よく調理していき、次々と料理が出来上がっていく。エロディさんの作る料理はどれも美味しそうに見えるし、実際に味見をさせてもらったが、どの料理も美味しかった。
 エロディさんの作る料理は、エロディさんの故郷が寒い地域である事もあり、メインの料理に暖かいものが多い。塩と胡椒で味付けした羊肉とキャベツを一時間半ほど煮込んだ料理や、塩と牛乳を加えてよく練った牛のひき肉を焼いた料理。さらには、塩と胡椒で味付けし、小麦粉をまんべんなくまぶしたサーモンを、熱したバターと共にこんがり焼いた料理など様々だ。
 ウルカーシュ帝国にも、ナバーロさんたち商人の方々がカナロア王国から海産物を仕入れている事もあり、魚介類がある程度広まっている。だがある程度広まっていると言っても、帝国全土で魚介類が知られている訳ではない。なので、魚介類を使った料理を作る料理人の数が少なく、魚介類のレシピも少ないのが現状だ。
 俺もメルジーナ国から戻ってきてから、色々と魚介類の料理に挑戦したかったのだが、冒険者のランク上げや獣王国での一大事などが重なり、中々思う様に時間がとれなかった。そのため、メルジーナ国にも勉強しに行くことが出来ず、色々なレシピや調理の仕方を教わる事が出来ないままでいた。なのでポーチや鞄の中に、カナロア王国やメルジーナ国で頂いた沢山の魚介類たちが、使われずに眠っている状態だった。
 そして料理を始める前、エロディさんに色々と聞いた時に、魚介類を使った料理も作る事が出来ると教えてもらった。それならばと、眠らせていた沢山の魚介たちを取り出し、今日の夕食に使ってもらう事にしたのだ。

「エロディの魚介を使った料理も美味いが、カイルが作った料理も相変わらず美味いな」(レイア)
「こいつとこいつは初めて見るが、新作なのか?」(モイラ)
「私も初めて見るから、そうなんじゃないの?」(ユリア)
「ぷはぁ~、こんなに美味しい料理ばっかりだと、お酒も進むわ~」(リナ)
「リナ、エールもいいけどワインも合う」(セイン)
「え、ほんとに?……う~ん、美味しい‼セインの言う通り、ワインも合うわね」(リナ)
「ハハハ、美味うまい‼美味いな‼金も稼げて、美味い料理が食えるなんて、最高だな‼」(モイラ)
「そうだな」(レイア)
「そうね~、私もそう思うわ~」(リナ)
「エロディとカイル君、二人の力が合わさるともの凄い事は分かったわ」(ユリア)
「ユリアに同意。メリオスでここまでの料理を食べれるのは、私たちだけかもしれない」(セイン)
「ここまで美味いもん食うと、天星祭で出される料理が物足りなく感じるかもな」(モイラ)

 モイラさんはそう言いながらも、パクパクを超えてバクバクと表現出来る程の勢いで、次々と料理を口に運んでいく。しっかり噛んでいるのだろうかとか、味が混ざってへんな味になっていないのかなど正直な所思ってしまうが、モイラさんの満面の笑みを見るに大丈夫なのだろう。
 今回の料理は、王城の料理人たちから報酬としてもらったレシピの中から、幾つかの料理を作ってみた。
 一品目に作ったのは、鹿肉のローストだ。オリーブに酷似した果実から得た植物油とバターをプライパンに入れて火にかけ、まずは鹿肉全体に焼き色を付ける。そして火を止めたフライパンの中に、アルミホイルの代わりに火属性の魔力で包み込んだ鹿肉を入れ、フタを閉じて肉の中心部までじっくりと火を入れる事で完成。その鹿肉をカットし、赤ワインソースを敷いたお皿に盛りつけた料理だ。
 二品目に作ったのは、トウモロコシに酷似した穀物を挽いた粉を使った料理だ。沸騰させたお湯に挽いた粉と塩を加えて、中火で四十分程かき混ぜ続けながら、ゆっくりと作っていった。作り始めて十分くらいすると、挽いた粉が水分を吸って膨らんでいき、そこからさらに三十分ほど混ぜていると水分が飛び、膨らんだ粉がかなり重たくなってくる。そして、俺が好きな硬さになった時に火を止めて皿に移し、出来立てでやわらかくモチモチしている料理に、最後の仕上げでトマトソースをかけて完成。
 そして三品目は、パンを使った温かい料理だ。まずは、固くなったパンを牛乳に浸し水気をきる。次に、塩とスパイス漬けした豚のもも肉の燻製生ハムを一センチ角に切って、焦げ目が付くまで焼いてからボウルに移す。そして、焼き上がった燻製生ハムを入れたボウルに、小さく千切ったパン・卵・みじん切りにしたパセリに酷似した植物・粉チーズ・ナツメグによく似た味や香りのする香辛料・塩・コショウを加え混ぜ合わせて、ラップ代わりに魔力をボウルにかけて一時間室温に置いておく。
 一時間経ったらボウルに小麦粉を加えて混ぜ、ひとまとまりになるまで粉で調整しつつ、直径五センチ大の団子状に丸めていく。その五センチ大の団子状に丸めたものを、沸騰させた香味野菜と牛肉で作ったスープに一つずつ入れていき、十五分火を通していく。そして、十五分経ったら底の深い器に盛りつけて、最後にスープを注いで完成。

〈流石、長年王城で腕を振るってきた料理人たちだ。量が少ない料理であっても、舌が肥えている姉さんたちを満足させられる質の高い料理ばかりだ。それにレシピも細かく丁寧に書き記してくれているから、非常に分かりやすい。報酬という形とはいえ、料理人たちやその師である先人たちの研鑽の結晶である、門外不出のレシピを教えてくれたんだ。彼らには感謝しかないな〉
「カイル、エロディ‼おかわりを頼む‼」(モイラ)
「それと、お酒やワインの追加もお願いね~」(リナ)
「承りました。少々お待ちください」(エロディ)
「エロディさん、お酒とワインは俺が持っていくから、料理の方をお願いします」
「はい、分かりました。カイルさん、お願いしますね」(エロディ)
「任せてください」

 俺は、ポーチからお酒とワインを取り出していく。お酒は樽に入っており、ワインは瓶に入っている。取り出した樽と瓶を壊さないように、一つ一つを魔力で包み込んで保護していく。追加の料理の皿を左右それぞれの手の上に乗せて、魔力で保護した樽や瓶を空中に浮かせながら、姉さんたちの待つ食卓に向かって移動する。
 食卓に到着すると同時に、ほろ酔いの姉さんたちがそれぞれ魔糸を飛ばして、空中に浮かばせている樽や瓶を手元に引き寄せていく。俺は内心で行儀が悪いなと思いつつも、ほろ酔いの姉さんたちには通じないと分かっているので、思うだけで留めておく。それなのに、姉さんたち全員が俺の心を読んだかのように、ジッとを見てくる。姉さんたちの顔には、樽や瓶を空中に浮かべて持ってきたお前に言われたくないという思いが、ハッキリと現れている。

〈酔っぱらい共の機嫌を悪くすると、間違いなく後が怖い。機嫌を直す為にも、ここで打てる手を打っておくか〉

 そんな事を考えながら、両手に持つ料理の皿を机の上に並べていく。姉さんたちは再び俺の心を読み取ったのか、何かを期待したような視線を俺に向けているのを感じる。そんな視線を感じながら、ポーチから五本のワインボトルを取り出していき、それぞれの目の前に一本ずつ置いていく。

「これは?」(レイア)
「説明は色々と省くけど、精霊様方がとっても美味いと言っていたワインだよ。これあげるから、機嫌直してよね」

 俺はそれだけ言って、食卓から料理のなくなった空の皿を全て回収して、エロディさんを手伝うためにキッチンへと戻った。その途中で、姉さんたちの興奮した様な声が聞こえてきたが、何も聞かなかった事にして足を止める事はしなかった。
 その後、追加の料理やお酒にワインを届けに行く事に、姉さんたちから執拗に五本のワインのおかわりを要求されたのは、言うまでもない事だ。
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