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第7章

第219話

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 楽しかった送別会から一夜明け、眩しくも暖かい、朝日の光が王都に差し込む中、俺は、王城の門の所に向かっている。昨日王城に戻ってきた時に、ペルケさんとワトルさんはお休み中だった様で、挨拶が出来ていなかった。タイミングよく、今日は朝からの勤務だと聞いたので、王城から出立するのと合わせて、二人に挨拶をしておこう。
 まだまだ朝も早く、王城も静まり返っている中、王城の門に到着すると、そこに思いがけない人たちが立っていた。

「もしかしたらと思って待っていれば、本当にこんな朝早くに発とうとするなんて……」(シュリ)
「ですが姫様、時間に無頓着むとんちゃくな方に比べれば、早過ぎる方が十分マシです」(エルバ)
「そうだけれど……」(シュリ)
「シュリ、優秀な冒険者っていうのはそういうもんだ」(ザリス)
「自由な冒険者であっても、依頼という仕事を受けている以上、時間というものに関しては、他の仕事をしている者たちと変わりないわ。それに、依頼によっては、時間に厳しい商人たちよりも、より厳しく見られる時もあるのよ」(パメラ)
「そうだな。商人や商隊しょうたいを護衛する依頼を受けた時、貴族や国から依頼を受けた時、そして、冒険者ギルドそのものから直接依頼を受けた時などが、それに該当されるな」(アトル)
「そういった依頼を受けた時、時間に無頓着な冒険者だと、依頼者に下に見られたりする。それに最悪の場合、依頼者に依頼を断られる可能性もあるからな。だから、高位冒険者の者たちは、時間に対してキッチリしている者が多いんだよ」(ザリス)
「なる程、理解しました」(シュリ)

 王城の門の近くには、シュリ第二王女・エルバさん・ザリス第二王子・アトル第一王子・パメラ第一王女の五人がいた。五人共、俺が朝一番で王城から出立する事を予想し、ここで待ち構えていた様だ。だが、昨夜の楽しい送別会が、夜遅くまで続いていた影響で、皆眠そうな顔をしている。

「皆さん、おはようございます」
『おはよう』(王族の方々)
「おはようございます」(エルバ)
「最後のご挨拶をしたかったのですが、至急の依頼でしたので……」
「分かっている。だが我々も同じように、別れの前に少しだけ話がしたかっただけだ」(アトル)
「そうです。その為に、こんなに早起きしたのですから。…………ふぁ~」(シュリ)

 思わず欠伸をしてしまったシュリ第二王女へ、皆の視線が集中する。それに気付いたシュリ第二王女は、顔を赤らめ、俯いてしまった。その姿を見て、皆で微笑ましく笑い、場が和む。

「カイル、反乱の際に力を貸してくれた事、王族としても、一人の獣人としても、心から感謝している。ここにいる皆も、同じ気持ちだ。ありがとう」(アトル)
「皆さんのお力になれていたのなら、俺としても幸いです」
「何言ってんだ。悪神の部下である強者を相手取り、この国から退かせたんだぞ。普通に大手柄だよ」(ザリス)
「そうね。武を知っていて、自らも戦士である女ならば、それだけでも超好物件と言ってもいいお相手ね。………………ふふふ」(パメラ)
「ザリスやパメラの言う通りだ。胸を張って自慢出来る様な事を、お前はやってのけたのだ」(グース)

 俺たちの背後から聞こえた新たな声、その声を発したのは獣王様だった。獣王様は、ザリス第二王女やパメラ第一王女が俺にかけた言葉を、その通りであると肯定したのだ。しかし俺としては、アッシュとの戦いは痛み分けであり、結果的に見逃された様なものだ。胸を張って自慢する事も、大手柄であるという事でもないと、俺自身は思ってしまう。

「ハハハ、本人はそう思っていない様だな」(グース)
「ええ、あれは見逃された様なものですから」
「だが、奴らを退かせたのも事実だ。……まずは、これを受け取れ」(グース)

 獣王様が、俺に向かって何かを放り投げてくる。それを、落とさない様にしっかりと受け取る。

「これは?硬貨、ではないですよね?これに刻まれている模様は、獣王国内で使われる硬貨とは違いますね」
「その通り。そいつは特別な硬貨でな。それを持つ者は、獣王国に入る際の国境の検問や、各都市や王都の城門の検問、王城の門での検問など、様々な検問を簡素化する事が出来る。さらに、王城内においては、公爵待遇の扱いを受ける事が出来る上に、王族への謁見などの際に、優先的に順番が回ってくる。それを見せるだけで、色々と優遇されるという代物だ。獣王国の中で、そいつを所有している者は十にも満たないだろう」(グース)
「そんな貴重なものを、エルフの俺に渡してしまっていいんですか?」
「構わん、娘と国を救ってくれた報酬だ。むしろ、国を救ってくれた恩人に渡さなかったとなれば、俺が先祖たちに怒られる。という事だから、それは返すなよ」(グース)
「…………分かりました。受け取らせていただきます」
「それでいい。それから、次はこいつだ」(グース)

 そう言って、今度は革袋を投げ渡してくる。受け取った革袋は軽く、手触りだけでは、何が入っているかは分からない。獣王様をチラリと見て、革袋の中身を見てもいいかを問いかける。獣王様は、そんな視線での問いかけの意味を理解し、頷き返して了承する。
 革袋を開いて中身を見てみると、丸められ、紐で封がされている羊皮紙が、幾つも仕舞われていた。その中の一つを取り出し、封をしている紐をほどき、何が書かれているかを確認する。

「これは、料理の調理法?しかもこれ、送別会の夕食で出されたものじゃないですか⁉」
「そうだ、それが二つ目の報酬だ。色々と考えたが、金は、冒険者として稼いでいるだろうからいらんだろうし、シュリやエルバから、鍛冶を自分で行うと聞いていた事から、鉱物なども考えた。だが、カイルの手持ちのものと、同程度のものしかないとなると、報酬にはならんだろう。そんな時に、食堂に努める料理人たちから、カイルが料理に興味がある様だったと聞いてな」(グース)
「それで、これですか?ですが、王城の料理人たちの調理法ともなれば、この中には、秘伝の調理法もあるのでは?」
「それについても、本人たちから了承はとっている。国を救ってくれた恩人ならばと、彼らも快く受け入れてくれた。それに…………」(グース)
「それに?」
「カイルならば、それらを悪用する事はないだろうと、彼らは言っていたぞ」(グース)
「…………そうですか。彼らがそんな事を……」

 獣王様から伝えられた言葉に、胸が熱くなる。彼らが、全幅の信頼でもって、料理のレシピたちを授けてくれたという事だ。彼らの気持ちに応えるためにも、より一層、これからも研鑽を積み、腕を磨いていかなければ。

「まあ、昨日も言ったが、また遊びに来い。何時でも待ってるぞ」(グース)
「また、遊びに来てくださいね」(シュリ)
「再びお越しの際には、しっかりとお世話をさせていただきます」(エルバ)
「今度は、戦士として手合わせ願うとしよう」(アトル)
「そん時は、俺も混ぜてくれよな」(ザリス)
「私も、カイルさんに楽しんでもらうためにも、しっかりお世話しなきゃね。…………そう、色々とね」(パメラ)
「はい、また遊びに来ますね。……それでは、滞在中、大変お世話になりました」

 最後に不穏な言葉が聞こえたが、聞こえなかったフリをしながら、皆にお礼を言いながら一礼する。そして、皆に笑顔で見送られながら、王城の門に近づいていく。そこには、ペルケさんとワトルさんが待っており、二人とも笑顔で迎えてくれる。

「カイルさん、またこの国に来たら、俺たちにも会いに来てくださいよ~」(ワトル)
「そうですよ。会いに来てくれなかったら、俺たち泣いてしまいますよ。まだまだ案内したい所が、沢山ありますから」(ペルケ)
「ええ、お二人には必ず会いに来ますよ。その時には、また一緒に飲んで食べましょう。その時の為にも、お金は貯めておいてくださいよ」
「「ハハハハハハ‼」」(ペルケ・ワトル)
「その貯めたお金で、今度は俺に奢ってくださいよ」
「分かった、俺たちが奢るよ」(ペルケ)
「再会を祝してな」(ワトル)
「お世話になりました。お二人ともお元気で。……また、会いましょう」
「また会おう」(ペルケ)
「また会いましょう」(ワトル)

 最後に、ペルケさんとワトルさんの二人と握手を交わし、王城の門を通り抜ける。そして、王城に向かって振り返る。すると、王城の門の奥には、ニコリと笑顔を浮かべて手を振る、獣王様たちが立っている。ペルケさんとワトルさんも、ニコリと微笑んでいる。
 そんな皆に向けて、俺も笑顔を浮かべながら、手を振り返す。そして、最後に皆に一礼をしてから、王城に背を向けて歩き出し、ウルカーシュ帝国への帰路に就く。
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