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第7章

第215話

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 エルバさんが、ウィン騎士長との戦闘について報告を終えると、王妃様方は、様々な意見を交え始める。その議題については、勿論変異についてのものが中心だ。もし、本当に大戦の再来ともなれば、自国の中にいる危険分子たちが、誘惑に負けて、魅惑の力に手を伸ばす可能性が高い事など、国家という大きな視点で物事を考えている。こういった事は俺には出来ないので、本当に王妃様方は凄いと思う。
 暫くすると、王妃様方の議論の熱が収まっていく。傍で聞いていたが、仮ではあるものの、ある程度の方針が定まり、幾つかの優先事項も決まった様だ。最終的には、獣王様の決裁けっさいが必要みたいだが、それでも、骨子となる部分について、ここまで細かく、綿密に考えられているとなれば、獣王様がする事は、サインをするか、印を押すだけかもな。

「待たせてごめんなさい。ではシュリ、貴女の報告を聞かせてちょうだい」(エスティ)
「分かりました。では、アステロとの戦闘について、話をさせていただきます。私は…………」(シュリ)

 シュリ第二王女は、エルバさんや俺に聞かせてくれた話と、同じ話を王妃様方にしていく。話が進んでいくごとに、見て分かる程に、王妃様方が興奮していくのが分かる。そんな王妃様方を、分かる分かると言わんばかりに、エルバさんが何度も頷き、王妃様方の興奮に、同意を示しているのが見える。
 王妃様方は、アステロ騎士団長について、裏切者、反乱者であったとしても、最後の最後、命尽きるその時まで、一人の獣人の戦士として戦い抜いた事に、少なからず敬意を抱いていた。最初は俺も、獣人という種に拘り、獣人でなくなった事に、怒りや侮蔑の感情を抱いているのかと思っていた。だが、エルバさんやシュリ第二王女たちに、獣人としての考え方を説明され、自分が勘違いをしていた事を知った。
 獣人たちにとって、戦場で戦士として生きるという事は、どんな戦いにもおいても、自身の持てる力の全てを使い、相手を打ち倒す‟狩り”を、大地にその身が倒れ伏し、命の灯が消えるその時まで、永遠と続けていくというものだ。彼女たちからしてみれば、魔物や魔獣の力を取り込むという、たゆまぬ研鑽を積む事もなく、安易に強大な力を手に入れようとし、存在を変異させ、獣人の戦士である事を捨て去ったウィン騎士長は、侮蔑の対象になるのだろう。
 その後は、あの時のエルバさんの様に、王妃様方が興奮冷めやらぬ状態のまま、シュリ第二王女を質問攻めしていく。特に盛り上がったのが、神獣レオと神獣玉兎との出会いや、【双対の血】に関する事や、その力についてだ。

「歴代の獣王たちが残した私的な文書や、王家が記録してきた、獣王国の長い歴史の中に、神獣様に出会ったという事が、何度か書かれている事がありました。私たちの夫であり、貴女たちの父親である、今代の獣王グースも、神獣様に出会った事があると聞いています」(エスティ)
「お父様も‼やっぱりお父様は、本当に凄い‼」(シュリ)
「そうね。グース様は、戦士としても、王としても、そして男としても、心から尊敬できる人だわ」(シュテル)

 シュリ第二王女とエルバさんが興奮している姿を、王妃様方が微笑ましく見ている。そんな中で、俺は一つの疑問が解けた事で、とてもスッキリとした気持ちになっていた。
 俺は、王都の外で感知した、燃え盛る太陽の様な巨大な魔力は、獣王様の魔力であろうと予想した。だが、庭園で初めて出会った時や、ダンジョンから戻ってきた時に感知した獣王様の魔力は、身体の中を滑らかに循環し、非常に洗練された魔力だとは感じた。しかし、燃え盛る太陽の様な魔力とまでは、感じる事はなかった。
 そんな獣王様の魔力を、燃え盛る太陽の様な巨大な魔力だと感じさせる程に高めたのが、その神獣レオという存在、もしくは、神獣レオに関係する、何かしらの力なのだ。そこから考えられる事は、神獣という存在は、精霊様方の様な超高位存在であるという事だ。そして、ある一定の条件か何かを満たした者の前に、その姿を見せるのかもしれない。

〈非常に興味深い存在だ。何かしらの条件の様なものがあり、獣人以外でも条件を満たす事が可能ならば、一度神獣という存在に会ってみたいな〉
「シュリの身体の状態や、【双対の血】について詳しく調べるのは、あの人たちが帰って来てからにしましょう」(エスティ)
「【双対の血】の力を使った影響で、シュリの身体に、何かしらの変化が起きている可能性もあるわ。慎重に動く事に、私も賛成よ」(シュテル)

 エスティ王妃が、シュテル側妃に頷いて返す。王妃様方も、【双対の血】についての興味や好奇心は尽きないが、それを満たすために、可愛い娘であるシュリ第二王女を、危険にさらすつもりは毛頭もうとうない様だ。
 シュリ第二王女の話が終わり、皆で一息吐いた後に、エスティ王妃が俺に視線を向ける。

「ではカイルさん、次は貴方からも話を聞きたいのだけれど、宜しいかしら?」
「はい、問題ありません。では、魔人種との戦いを報告させていただきます」

 俺は、アッシュとの戦いを、始まりから逃げられるまでの間の事を、話せる事だけを話していった。その話の中で、王妃様方が特に関心を示したのは、アッシュの血筋に関してだ。
 幸いにも、魔術関係について、深く聞かれる事はなかった。そこは、魔術方面に強いエルフという生まれが、良い方に働いた様だ。王妃様方の様子から、俺が使用した魔術は、エルフのみに相伝されている、特殊な魔術であるという認識の様だ。そのため、魔術について詳細に聞く事を、避けるという判断を下したのだろう。

「まず聞きたいのは、間違いなくその魔人種は、自らを、原種の血を引く者と語ったのかという事だ」(エスティ)
「はい、それは間違いありません。しかし、それは本人がそう言っているだけであり、それが本当の事なのかどうかは、俺にも分かりません。外見的な部分でいえば、確かに血を引いているのかもしれないと、思わせる様な所はありました。そして、本当に血を引いているかどうかは別として、その強さは、原種の血を引いていると言ってもいい程に、強大でした」
「それが、もう一人いる可能性があると?」(シュテル)
「しっかりと確認したわけではありませんが、俺個人の考えでは、そうであると思っています。アッシュと名乗った魔人種から感じる魔力と、乱入してきた仲間の魔力は、非常に似通ったものでした」
「人がその身に宿す魔力は、人それぞれで違う。しかし、親や子、兄弟姉妹などの家族、そして等親の近い血族の中には、似通った魔力を持つ者が多いと聞きます。つまり…………」(シュテル)
「アッシュを逃がした者は、アッシュの血縁者の可能性が高いです。そして、魔人種・小鬼の、原種の血を引く者たちが存在するという事は、他の魔人種の、原種の血を引く者たちも存在する可能性があります」
「……そう、だろうな。それは、まず間違いないと考えてよいだろう。そのような者たちとやり合うには、各国との連携も急務か。……ふう、課題は山積みだな」(エスティ)

 エスティ王妃は、悩まし気にそう言う。再び、空気が重くなろうかとした時、この部屋の両開きの扉が、勢いよく開かれる。開かれた扉の先には、この国の王である獣王様が立っていた。この城の主が、勝利を告げるために帰還したのだ。

「エスティ、皆、帰ったぞ‼」(グース)

 獣王様の帰還によって、重くなりかけていたこの部屋の空気が吹き飛び、明るく、陽だまりの様な朗らかな空気へと、一気に様変わりした。
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