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第7章

第211話

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『とっても美味しかった』(黄の下位精霊)
『ありがとう。また会ったら、美味しい魔力食べさせてね』(青の下位精霊)

 下位精霊たちが、微笑ましく、子供の様に言ってくる。その姿に、思わず頬が緩んでしまう。そこに、中位精霊たちが、下位精霊たちを窘める様に注意をする。

『こら、我儘わがままはダメよ』(青の中位精霊)
『そうね。あんまり我儘ばっかり言ってると、嫌われちゃうわよ』(緑の中位精霊)

 中位精霊たちの、下位精霊に向けた優しい忠告に、俺は苦笑してしまう。だが、中位精霊のいう事も一理ある。何年・何十年・何百年先になるのか分からないが、子供の様な下位精霊たちが、いずれ契約する時に、俺の魔力の味を覚えすぎているとよくないというのは、理解出来る。将来契約する相手に求める魔力の質や量を、俺を基準にして考えてしまうのは、将来の契約者にも、精霊たちにとっても、互いにデメリットが大きすぎる。
 下位精霊たちは、中位精霊たちに付き添われながら、様々な方角に向かって、姿を消していく。その際に、下位精霊たちは手をブンブンと振り、中位精霊たちは、一礼して去っていく。

『素晴らしいひと時でした。またお会い出来る日を、楽しみにしてますね』(赤の上位精霊)
『次は、楽しくお喋りもしよう』(黄の上位精霊)
『では、我々もお暇しようか。あれ程の魔力を与えてもらい、感謝する』(緑の大精霊)
『何か御用があれば、我々が駆け付けましょう。遠慮せずに、呼んでくださいな』(青の大精霊)
『ああ、ありがとう。何か頼みたい事や、困った事があったら、呼ばせてもらうよ』

 下位精霊や中位精霊たちの様に、慌ただしく、元気いっぱいで去るのではなく、微笑みを浮かべながら、丁寧で綺麗な一礼をして、静かに去っていく。あれ程いた精霊たちが、この場から一気にいなくなると、一気に静まり返ってしまい、少し寂しい気持ちになる。特に、子供の様な下位精霊たちは、心からの笑顔を浮かべて、常に楽しげにしていたので、戦闘からまだ間もなく、荒立っていた俺の心を、優しく癒してくれていた。
 それに、上位精霊や大精霊たちに言ったように、これから先、本当に頼る事が出てくる可能性がある。俺は、精霊様方と契約している。だが、そんな精霊様方は、存在自体が強大過ぎる超高位存在であるし、僅かな力を揮っただけで、広範囲殲滅魔術並みか、それ以上の規模や威力の力を放てるような、生まれながらの怪物たちだ。そのため、安易に同調する事も出来ないし、軽々しく力を揮う事も出来ない。
 上位精霊や大精霊たちは、確かに高位の存在ではある。しかし、そんな高位の存在である、上位精霊や大精霊であろうとも、規格外な精霊様方と比べると、精霊としての格が、一段階も二段階も低いと言わざるを得ない。そして何より、上位精霊や大精霊の揮るう力は強大ではあるが、精霊様方の様に、世界のバランスに影響するレベルの、バカげた力程ではない。そこが、俺にとっては重要なのだ。

『カイル、上位精霊や大精霊は、確かに世界に対しての制限は少ない。だが、あまりやり過ぎるなよ』(緑の精霊)
『カイルが強くなって、ヘクトルやルイスの様に死にづらくなるのは、俺たちにとっても嬉しい事だ。しかし、俺たちと同調している時と同じ感覚で、力は振るうなよ』(赤の精霊)
『上位精霊や大精霊には、私たちほどの力はない』(黄の精霊)
『それでも、下位精霊や中位精霊、それなりの腕を持つ魔術師からしてみれば、戦うのが馬鹿らしくなる程の力だけどね』(青の精霊)
『忠告感謝します。後は、実際に試してみて、色々と調整していきます』

 精霊様方との会話を終えて、自身の身体の状態を確認する。左肩も大分治ってきており、身体も十分動く様になってきた。第四階梯まで解除していた魔力制限術式を、再び自らに施し、魔力量を制限している状態に戻す。
 そろそろ、王都コンヤに戻るとしよう。異空間が消え去ってから、燃え盛る太陽の様な巨大な魔力が、王都内をもの凄い勢いで駆け巡っている。この魔力は、獣王様の魔力で間違いないだろう。そして、王都内を駆け巡っているという事は、王都内の反乱者たちを、掃討そうとうしているという事だろう。           
 つまり、反乱は失敗に終わったのだ。反乱の首謀者は獣王様に敗れ、王都内や王城内の制圧も出来ず、同盟を組んでいたアッシュたち悪神陣営も、この国から撤退した。王都内に残っている反乱者たちは、トップからの指示もなく、悪神陣営からの援護もない、無援状態に追い込まれたのだ。そこに、獣王様が王都に戻ってきた。それは、どうあがいても‟詰み”であり、反乱者たちが勝てる可能性は、万に一つもないのだ。

「シュリ王女、エルバさん、そろそろ王都に戻りましょうか」
「左肩や、身体の傷の方は、大丈夫なんですか?」(シュリ)
「ええ、大丈夫ですよ。激しい戦闘は無理そうですけど、軽めの戦闘や、ただ身体を動かすだけ程度なら、問題ないくらいには回復してますので」
「………カイルさんは、本当にエルフなんですか?獣人ではないのにも関わらず、その回復力、いえ、は、正直に言わせてもらうと、異常だと思います」(エルバ)
「エルバ‼失礼な事を言ってはいけません‼」(シュリ)
「失礼な事を申しているのは、重々承知しております。ですが姫様も、カイルさんの回復力は異常だと、心の中では思われておりますよね」(エルバ)
「それは、…………」(シュリ)
「まあまあ、二人とも落ち着いてください。……俺の再生能力についてですが、以前戦った相手に使用した特殊な魔術によって、肉体が変質し、得られた力です。俺自身も、この力を持っている事が、普通だとは思ってはいません。……申し訳ないのですが、言える事はこれだけです。納得できない部分もあるでしょうが、これ以上の説明はご容赦ください」
「分かりました。不躾な質問、申し訳ありませんでした」(エルバ)
「カイルさん、私からも謝罪を。誠に、申し訳ありません」(シュリ)
「二人からの、謝罪は受け取りました。なので、これ以上の謝罪の言葉は、不要です」
「「はい、ありがとうございます」」(シュリ・エルバ)
「では、王都に戻りましょうか」
「「はい」」(シュリ・エルバ)

 俺たち三人は、王都に向かってゆっくりと歩いていく。二人とも、先程の問答については引きずっておらず、笑顔を浮かべて俺と会話をしてくれる。話の内容も、先程の話題には触れず、あの場にいた精霊たちに関してや、精霊という存在についての話題を中心にして、色々な事を話していく。
 基本的に、俺が話し手で、シュリ第二王女とエルバさんの二人が聞き手だ。シュリ第二王女とエルバさんの二人が、それぞれ質問をして、俺がそれに答えていく。シュリ第二王女は、精霊たちが、普段どの様に生活しているのかといった、日常的な事に関する質問を中心にしてくる。
 逆に、エルバさんのしてくる質問は、下位精霊や中位精霊と、上位精霊や大精霊との、精霊としての格の違いや、揮える力の大きさや規模の違いについてなど、戦闘などに関する質問を中心にしてくる。
 それらの質問に対して、精霊に関して知っている、喋っても問題の無い範囲の事を、分かりやすく、丁寧に教えていく。その中でも、二人とも強く興味をいた質問が、エルバさんの、揮える力の大きさや規模に関する質問だった。
 下位精霊や中位精霊の揮う力は、腕の良い魔術師、優秀な魔術ならば、再現する事が可能な範囲の力なので、それになぞらえる事で上手く説明が出来た。しかし、上位精霊や大精霊の揮う力ともなると、天変地異レベルの威力や、町一つ、都市一つ沈めてしまう程の力になる。それを再現する事が出来るのは、魔術的に恵まれた天賦の才と、血反吐を吐くような鍛錬を乗り越えた様な、一握りの魔術師しか再現出来ないだろうという事を伝えると、高位の精霊たちの強大さに、二人とも驚いていた。
 そんな風に、精霊に関しての問答を楽しく続けながら、三人で歩き続ける事数十分。ついに俺たちは、王都コンヤへと戻ってきた。
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