141 / 252
第7章
第182話
しおりを挟む
異空間倉庫から、新たな打刀を取り出す。狼人族の軍人との、ロングソードとの斬り合いでは、刀身が、一合しか保たなかった事を鑑みて、闇属性・土属性・重力属性の、各属性の魔鉱石を混ぜ合わせた、打刀の中では、現段階で最高硬度を誇る一振りを選んだ。
周囲を囲む軍人たちは、少しだけ興奮している様にも見える。象人族の軍人を、倒された事による怒りなのか、強者と出会えたことによる喜びなのか、どういった感情を持っているのかは、正直な所分からない。
目の前に迫る、象人族と共に仕掛けてきた、狼人族の軍人以外は。
「ハハハハッ‼」(狼人族の軍人)
高らかに笑いながら、全身から喜びの感情を溢れさせ、興奮した様子で、高速で俺に迫ってくる。ロングソードの剣身には、一合で刀身を切断された時と同じ様に、高密度・高純度の水属性の魔力を纏わせている。
「ハハハハ‼―――フッ‼」(狼人族の軍人)
「―――――‼」
俺の打刀と、狼人族の軍人のロングソードが、再びぶつかり合う。金属同士がぶつかり合う音が、響き渡る。今度は、一合で刀身を切断される事はなかった。
「凄いな、その剣‼さっきは簡単に切れたのに、今度は受け止められた‼見た目は一緒だが、中身は別物だな‼――――もっと上げていくぞ‼」(狼人族の軍人)
狼人族の軍人の動きが、さらに加速していく。雷属性の魔力による身体強化をした様で、身体からバチバチと放電しており、雷の如く一瞬で移動し、俺の背後から、正確に首を狙って、ロングソードを振るう。雷速による一振りと、水属性の魔力によって、切れ味の上がった刃が合わさった、何ものをも切り裂ける様な一撃だ。
首に吸い込まれる様な一撃は、誰の目から見ても、確実に決まったと思っただろう。
「…………積層魔力障壁。そんな小さく、限定的に展開できる魔術師は、初めて見たぞ」(狼人族の軍人)
狼人族の軍人の振るったロングソードは、首を守るために展開した、無駄なく、何重にも重なっている、積層魔力障壁に阻まれた。狼人族の軍人は、戦士として、強者との戦闘という昂ぶりを保ちながらも、軍人としての冷静な部分が、俺の魔術師としての技量に驚嘆しながらも、積層魔力障壁を分析している。どこを、どの様に攻撃すれば、この障壁を抜いて、俺を切れるのかを。
「お前とやり合いたいのは、こいつだけじゃねえぞ‼」(熊人族の軍人)
「俺らとも、やり合おうぜ‼」(河馬人族の軍人)
熊人族の軍人は、身の丈と同じ大きさの、漆黒の剣身をした大剣で、右斜め上から下に向かっての、袈裟切りの一撃を放ってくる。河馬人族の軍人は、巨大な藍色の戦斧で、熊人族の軍人とは逆向きの、左斜め上から下に向かっての、袈裟切りの一撃を放ってくる。
完璧に息の合った、大剣と戦斧の連続攻撃に対して、俺も打刀を強化して対応する。ここから先は、俺も初めての試みだ。打刀に、闇属性・土属性・重力属性の、三つの異なる魔力を籠め、刀身の芯まで染み込ませていく。すると、今までの戦闘時の様な、一つの魔力属性を染み込ませた時とは違い、刀身は各属性の色に変わる事はない。
打刀の刀身に染み込ませた、闇属性・土属性・重力属性の魔力が、混じり合って、一つの魔力になっていく。それに合わせる様に、刀身の色が変化していく。その混じり合った一つの魔力に影響され、刀身の芯から滲み出てくる様に、灰色が刀身を染め上げていく。全てを塗りつぶす、漆黒でも純白でもなく、それらが二つが混じった様な灰色。三つの魔力属性が混ざっている事もあるが、俺にはその灰色が、どこか混沌を表している様にも見えた。
斜め十字に迫りくる剛力の連撃の刃と、灰色の刃による高速の二連撃が、真正面からぶつかり合い、二人の軍人が、俺の背後に駆け抜けていく。地面を滑りながら、俺の方に身体を向き直し、ニヤリと笑う。
「―――まだまだ‼」(熊人族の軍人)
「――――次、いくぞ‼」(河馬人族の軍人)
熊人族の軍人は、大剣を肩に担ぎながら、急加速して駆ける。一歩一歩踏み出すごとに、地を砕きながら、俺に迫ってくる。
河馬人族の軍人は、戦斧を両手持ちに変え、象人族の軍人と同じ様に、戦斧に高純度・高密度の、水属性の魔力を籠めて、刃に圧縮していく。
「………俺の事を、忘れるなよ」(狼人族の軍人)
息を殺し、気配を殺し、存在感を消し、自らの動きを読ませぬ様に、極限まで自分という存在を薄めた狼人族の軍人が、突然正面に現れたかの様に超高速移動し、ロングソードの突きを、心臓目掛けて放ってくる。
先程と同じ様に、限定的に展開した、積層魔力障壁で防ごうと考えたが、直ぐにその考えを修正する。迫りくるロングソードの剣先には、高密度の水属性の魔力が圧縮されており、積層魔力障壁への対策をしているのが分かる。さらに、圧縮した高密度の魔力を上手く隠しており、魔力感知の精度・範囲を高めているにも関わらず、直ぐ傍に迫りくるまで、気づく事が出来なかった程だ。
狼人族の軍人は、後ろに跳んで回避する俺に驚きながらも、そのまま突きを放ち終わる。その姿に、頭の中の本能が、ガンガンに警告を鳴らしてくる。その瞬間に、ロングソードの剣先から、水属性の魔力が形を変えて、剣先の形を模して真っ直ぐに伸び、後ろに跳んで回避した俺に向かって迫る。
自分の左側に足場代わりの魔力障壁を生みだし、急速に迫ってくる水の剣先を避けようとする。だが、水の剣先の速度が予想よりも早く、完全に回避する事が出来ない。苦し紛れの積層魔力障壁を展開し、何とか水の剣先を防ごうとする。
「――――――貫け」(狼人族の軍人)
水の剣先が、積層魔力障壁を全て貫き、左腕の上腕部分を捉えられた。狼人族の軍人は、そのままロングソードを振るい、左腕を切断しようとするが、その前に打刀を振るい、水の剣先や、それを構成する魔力を含めて、ロングソードから切り離す。切り離された水の剣先は、ただの水に戻り、ポチャリポチャリと、腕から滴り落ちていく。
穿たれた左腕の穴が、高速で塞がっていく。だが、完全に再生しきるのに、数秒かかる。歴戦の戦士たちである軍人たちには、その数秒でも隙になりえる。
地面に着地した俺の頭上に、影が落ちる。獰猛な笑みを浮かべた、熊人族の軍人が、上空から落下しながら、大剣を無造作に振るう。その一振りは、無造作でありながらも、熊人族としての剛力を活かした、叩き切るという表現がピッタリな一振りだ。
剣身に纏われているのは、高密度・高純度の闇属性の魔力だ。その魔力が圧縮された剣身には、生半可な魔力では、触れただけで中和されるか、純粋な魔力に戻されてしまうだろう。
〈それなら、純粋に剣士としての技量で圧倒する〉
無造作に振られた一振りとは、対になる軌道で、打刀を振り抜く。その一振りは、狼人族の軍人が俺にやった様に、大剣の剣身を上下で半分に切断する。そのまま流れる様に、左から右に向かって水平に振るい、ニヤリと笑う、熊人族の軍人の腹を深く斬り裂く。
まだ、熊人族の軍人の目が、死んではいない。何か仕掛けてくる‼
「冥府まで付き合えや」(熊人族の軍人)
その直感の通りに、熊人族の軍人は、太い両腕で俺の身体を掴み、動かない様に羽交い締めにしようとしてくる。そこに、狼人族の軍人が、全魔力をロングソードに籠めて、突撃してくる。
「俺たちと一緒にな‼」(狼人族の軍人)
「すまんが断る。―――――先に行って、冥府の神に挨拶しておいてくれ」
羽交い締めにしようとしてくる、熊人族の軍人の両腕を斬り落とす。熊人族の軍人は、やはりダメかと笑いながら、後ろに倒れこんでいく。俺は、倒れこんでいく熊人族の軍人の身体を、足場にして上に跳び、狼人族の軍人の突撃を避けようとする。
「そう来るよな‼」(狼人族の軍人)
俺の行動を先読みしていた狼人族の軍人は、同じく上に跳び上がり、ロングソードを水平に振るう。今度は剣身を伸ばしてくるかと予想していたが、その予想は外れ、ロングソードから巨大な水の魔刃が放たれた。その大きさは、この距離では避ける事は出来ない大きさだ。
直感と思考、染みついた動きと経験、それらが噛み合い、急速に魔力を練り上げ、刀身に纏わせて、狼人族の軍人が放った魔刃と、同じ威力・同じ魔力量、質・大きさの灰色の魔刃を放ち、ぶつけ合わせて相殺する。
「―――――‼」(狼人族の軍人)
「―――――‼」
俺と狼人族の軍人が、互いにロングソードと打刀を一振りし、すれ違う。俺に傷はなく、狼人族の軍人は左肩から腹にかけて、縦に深く斬り裂かれている。その手に持つロングソードは、熊人族の軍人の大剣と同じく、剣身が上下で半分に切断されている。狼人族の軍人もまた、熊人族の軍人と同様に、笑みを浮かべて地面に落下していく。
「………俺が仕留めよう。――――ハァッ‼」(河馬人族の軍人)
河馬人族の軍人が、巨大な藍色の戦斧を振り下ろす。戦斧の振り下ろした軌道に合わせて、巨大な藍色の魔刃が放たれる。その魔刃は、上が太く、下に行くにしたがって、段々と、細く鋭く尖っている。その魔刃に続く様に、河馬人族の軍人が、俺に向かって駆ける。
最初に放った魔刃と、河馬人族の軍人が、俺の元に到達するのは、同時だった。河馬人族の軍人が、右肩を下に落とし、姿勢を低くして、戦斧をすくい上げる様に振り上げる。
上からは魔刃、下から戦斧、上下から挟むような攻撃はまるで、河馬の強力な牙による、噛み砕きの様であった。
その攻撃に、河馬が大きく口を開けて、俺を喰らおうと、迫ってくる幻影を見た。河馬の幻影の気迫に、一瞬だけ呑まれそうになるが、それに負けじと剣鬼の威圧を放ち、大上段から、一切の歪みもズレもない、静かなる一太刀を振り下ろす。
「――――――ヌゥオオオオオ‼」(河馬人族の軍人)
「――――――ハァアアアアア‼」
互いが互いの一撃を喰い破り、相手を斬り裂かんとぶつかり合う。だが無常にも、どちらが明で、どちらが暗かは、ハッキリと現れていく。俺の打刀には、一切の傷も刃毀れもないが、河馬人族の軍人の戦斧と、放った魔刃には罅が入り、今も広がっている。
「…………楽しかったぞ、エルフの戦士よ」(河馬人族の軍人)
「……………さらばです。強き獣人の戦士よ」
戦斧と魔刃に広がっていた罅が、致命的な状態に達した時、河馬人族の軍人が、先に逝った者たちと同じ様に、笑顔を浮かべて俺に感謝を伝えてくる。俺も、強き戦士であり、国を守ってきた軍人として、敬意を抱きながら別れの言葉を告げる。
それと同時に、戦斧と魔刃が完全に砕け散り、打刀の灰色の刃が、河馬人族の軍人の、首の右側面から腹にかけてを深く斬り裂いていく。その一太刀は、獣人の強靭な骨・筋肉を抵抗なく斬り裂き、さらに臓器に至るまで傷を与えていた。ここまでの傷を受けると、いかに生命力の高い獣人であっても、致命傷なのは間違いない。
「…では………また、冥府で………会おう」(河馬人族の軍人)
「……………はい。まだまだ長い時間がかかるかもしれませんが、それまで、ゆっくりとお待ちください」
俺の言葉に返事はない。しかし、河馬人族の軍人もまた、俺の目をしっかりと見つめ、満足そうな笑顔を浮かべながら、その身体がゆっくりと地に倒れこんでいく。
また一人、勇猛であり、強き戦士の命が消えた。彼らとは、冥府で再会した際には、肩を組み、笑顔を浮かべながら、語り合いたいものだ。
周囲を囲む軍人たちは、少しだけ興奮している様にも見える。象人族の軍人を、倒された事による怒りなのか、強者と出会えたことによる喜びなのか、どういった感情を持っているのかは、正直な所分からない。
目の前に迫る、象人族と共に仕掛けてきた、狼人族の軍人以外は。
「ハハハハッ‼」(狼人族の軍人)
高らかに笑いながら、全身から喜びの感情を溢れさせ、興奮した様子で、高速で俺に迫ってくる。ロングソードの剣身には、一合で刀身を切断された時と同じ様に、高密度・高純度の水属性の魔力を纏わせている。
「ハハハハ‼―――フッ‼」(狼人族の軍人)
「―――――‼」
俺の打刀と、狼人族の軍人のロングソードが、再びぶつかり合う。金属同士がぶつかり合う音が、響き渡る。今度は、一合で刀身を切断される事はなかった。
「凄いな、その剣‼さっきは簡単に切れたのに、今度は受け止められた‼見た目は一緒だが、中身は別物だな‼――――もっと上げていくぞ‼」(狼人族の軍人)
狼人族の軍人の動きが、さらに加速していく。雷属性の魔力による身体強化をした様で、身体からバチバチと放電しており、雷の如く一瞬で移動し、俺の背後から、正確に首を狙って、ロングソードを振るう。雷速による一振りと、水属性の魔力によって、切れ味の上がった刃が合わさった、何ものをも切り裂ける様な一撃だ。
首に吸い込まれる様な一撃は、誰の目から見ても、確実に決まったと思っただろう。
「…………積層魔力障壁。そんな小さく、限定的に展開できる魔術師は、初めて見たぞ」(狼人族の軍人)
狼人族の軍人の振るったロングソードは、首を守るために展開した、無駄なく、何重にも重なっている、積層魔力障壁に阻まれた。狼人族の軍人は、戦士として、強者との戦闘という昂ぶりを保ちながらも、軍人としての冷静な部分が、俺の魔術師としての技量に驚嘆しながらも、積層魔力障壁を分析している。どこを、どの様に攻撃すれば、この障壁を抜いて、俺を切れるのかを。
「お前とやり合いたいのは、こいつだけじゃねえぞ‼」(熊人族の軍人)
「俺らとも、やり合おうぜ‼」(河馬人族の軍人)
熊人族の軍人は、身の丈と同じ大きさの、漆黒の剣身をした大剣で、右斜め上から下に向かっての、袈裟切りの一撃を放ってくる。河馬人族の軍人は、巨大な藍色の戦斧で、熊人族の軍人とは逆向きの、左斜め上から下に向かっての、袈裟切りの一撃を放ってくる。
完璧に息の合った、大剣と戦斧の連続攻撃に対して、俺も打刀を強化して対応する。ここから先は、俺も初めての試みだ。打刀に、闇属性・土属性・重力属性の、三つの異なる魔力を籠め、刀身の芯まで染み込ませていく。すると、今までの戦闘時の様な、一つの魔力属性を染み込ませた時とは違い、刀身は各属性の色に変わる事はない。
打刀の刀身に染み込ませた、闇属性・土属性・重力属性の魔力が、混じり合って、一つの魔力になっていく。それに合わせる様に、刀身の色が変化していく。その混じり合った一つの魔力に影響され、刀身の芯から滲み出てくる様に、灰色が刀身を染め上げていく。全てを塗りつぶす、漆黒でも純白でもなく、それらが二つが混じった様な灰色。三つの魔力属性が混ざっている事もあるが、俺にはその灰色が、どこか混沌を表している様にも見えた。
斜め十字に迫りくる剛力の連撃の刃と、灰色の刃による高速の二連撃が、真正面からぶつかり合い、二人の軍人が、俺の背後に駆け抜けていく。地面を滑りながら、俺の方に身体を向き直し、ニヤリと笑う。
「―――まだまだ‼」(熊人族の軍人)
「――――次、いくぞ‼」(河馬人族の軍人)
熊人族の軍人は、大剣を肩に担ぎながら、急加速して駆ける。一歩一歩踏み出すごとに、地を砕きながら、俺に迫ってくる。
河馬人族の軍人は、戦斧を両手持ちに変え、象人族の軍人と同じ様に、戦斧に高純度・高密度の、水属性の魔力を籠めて、刃に圧縮していく。
「………俺の事を、忘れるなよ」(狼人族の軍人)
息を殺し、気配を殺し、存在感を消し、自らの動きを読ませぬ様に、極限まで自分という存在を薄めた狼人族の軍人が、突然正面に現れたかの様に超高速移動し、ロングソードの突きを、心臓目掛けて放ってくる。
先程と同じ様に、限定的に展開した、積層魔力障壁で防ごうと考えたが、直ぐにその考えを修正する。迫りくるロングソードの剣先には、高密度の水属性の魔力が圧縮されており、積層魔力障壁への対策をしているのが分かる。さらに、圧縮した高密度の魔力を上手く隠しており、魔力感知の精度・範囲を高めているにも関わらず、直ぐ傍に迫りくるまで、気づく事が出来なかった程だ。
狼人族の軍人は、後ろに跳んで回避する俺に驚きながらも、そのまま突きを放ち終わる。その姿に、頭の中の本能が、ガンガンに警告を鳴らしてくる。その瞬間に、ロングソードの剣先から、水属性の魔力が形を変えて、剣先の形を模して真っ直ぐに伸び、後ろに跳んで回避した俺に向かって迫る。
自分の左側に足場代わりの魔力障壁を生みだし、急速に迫ってくる水の剣先を避けようとする。だが、水の剣先の速度が予想よりも早く、完全に回避する事が出来ない。苦し紛れの積層魔力障壁を展開し、何とか水の剣先を防ごうとする。
「――――――貫け」(狼人族の軍人)
水の剣先が、積層魔力障壁を全て貫き、左腕の上腕部分を捉えられた。狼人族の軍人は、そのままロングソードを振るい、左腕を切断しようとするが、その前に打刀を振るい、水の剣先や、それを構成する魔力を含めて、ロングソードから切り離す。切り離された水の剣先は、ただの水に戻り、ポチャリポチャリと、腕から滴り落ちていく。
穿たれた左腕の穴が、高速で塞がっていく。だが、完全に再生しきるのに、数秒かかる。歴戦の戦士たちである軍人たちには、その数秒でも隙になりえる。
地面に着地した俺の頭上に、影が落ちる。獰猛な笑みを浮かべた、熊人族の軍人が、上空から落下しながら、大剣を無造作に振るう。その一振りは、無造作でありながらも、熊人族としての剛力を活かした、叩き切るという表現がピッタリな一振りだ。
剣身に纏われているのは、高密度・高純度の闇属性の魔力だ。その魔力が圧縮された剣身には、生半可な魔力では、触れただけで中和されるか、純粋な魔力に戻されてしまうだろう。
〈それなら、純粋に剣士としての技量で圧倒する〉
無造作に振られた一振りとは、対になる軌道で、打刀を振り抜く。その一振りは、狼人族の軍人が俺にやった様に、大剣の剣身を上下で半分に切断する。そのまま流れる様に、左から右に向かって水平に振るい、ニヤリと笑う、熊人族の軍人の腹を深く斬り裂く。
まだ、熊人族の軍人の目が、死んではいない。何か仕掛けてくる‼
「冥府まで付き合えや」(熊人族の軍人)
その直感の通りに、熊人族の軍人は、太い両腕で俺の身体を掴み、動かない様に羽交い締めにしようとしてくる。そこに、狼人族の軍人が、全魔力をロングソードに籠めて、突撃してくる。
「俺たちと一緒にな‼」(狼人族の軍人)
「すまんが断る。―――――先に行って、冥府の神に挨拶しておいてくれ」
羽交い締めにしようとしてくる、熊人族の軍人の両腕を斬り落とす。熊人族の軍人は、やはりダメかと笑いながら、後ろに倒れこんでいく。俺は、倒れこんでいく熊人族の軍人の身体を、足場にして上に跳び、狼人族の軍人の突撃を避けようとする。
「そう来るよな‼」(狼人族の軍人)
俺の行動を先読みしていた狼人族の軍人は、同じく上に跳び上がり、ロングソードを水平に振るう。今度は剣身を伸ばしてくるかと予想していたが、その予想は外れ、ロングソードから巨大な水の魔刃が放たれた。その大きさは、この距離では避ける事は出来ない大きさだ。
直感と思考、染みついた動きと経験、それらが噛み合い、急速に魔力を練り上げ、刀身に纏わせて、狼人族の軍人が放った魔刃と、同じ威力・同じ魔力量、質・大きさの灰色の魔刃を放ち、ぶつけ合わせて相殺する。
「―――――‼」(狼人族の軍人)
「―――――‼」
俺と狼人族の軍人が、互いにロングソードと打刀を一振りし、すれ違う。俺に傷はなく、狼人族の軍人は左肩から腹にかけて、縦に深く斬り裂かれている。その手に持つロングソードは、熊人族の軍人の大剣と同じく、剣身が上下で半分に切断されている。狼人族の軍人もまた、熊人族の軍人と同様に、笑みを浮かべて地面に落下していく。
「………俺が仕留めよう。――――ハァッ‼」(河馬人族の軍人)
河馬人族の軍人が、巨大な藍色の戦斧を振り下ろす。戦斧の振り下ろした軌道に合わせて、巨大な藍色の魔刃が放たれる。その魔刃は、上が太く、下に行くにしたがって、段々と、細く鋭く尖っている。その魔刃に続く様に、河馬人族の軍人が、俺に向かって駆ける。
最初に放った魔刃と、河馬人族の軍人が、俺の元に到達するのは、同時だった。河馬人族の軍人が、右肩を下に落とし、姿勢を低くして、戦斧をすくい上げる様に振り上げる。
上からは魔刃、下から戦斧、上下から挟むような攻撃はまるで、河馬の強力な牙による、噛み砕きの様であった。
その攻撃に、河馬が大きく口を開けて、俺を喰らおうと、迫ってくる幻影を見た。河馬の幻影の気迫に、一瞬だけ呑まれそうになるが、それに負けじと剣鬼の威圧を放ち、大上段から、一切の歪みもズレもない、静かなる一太刀を振り下ろす。
「――――――ヌゥオオオオオ‼」(河馬人族の軍人)
「――――――ハァアアアアア‼」
互いが互いの一撃を喰い破り、相手を斬り裂かんとぶつかり合う。だが無常にも、どちらが明で、どちらが暗かは、ハッキリと現れていく。俺の打刀には、一切の傷も刃毀れもないが、河馬人族の軍人の戦斧と、放った魔刃には罅が入り、今も広がっている。
「…………楽しかったぞ、エルフの戦士よ」(河馬人族の軍人)
「……………さらばです。強き獣人の戦士よ」
戦斧と魔刃に広がっていた罅が、致命的な状態に達した時、河馬人族の軍人が、先に逝った者たちと同じ様に、笑顔を浮かべて俺に感謝を伝えてくる。俺も、強き戦士であり、国を守ってきた軍人として、敬意を抱きながら別れの言葉を告げる。
それと同時に、戦斧と魔刃が完全に砕け散り、打刀の灰色の刃が、河馬人族の軍人の、首の右側面から腹にかけてを深く斬り裂いていく。その一太刀は、獣人の強靭な骨・筋肉を抵抗なく斬り裂き、さらに臓器に至るまで傷を与えていた。ここまでの傷を受けると、いかに生命力の高い獣人であっても、致命傷なのは間違いない。
「…では………また、冥府で………会おう」(河馬人族の軍人)
「……………はい。まだまだ長い時間がかかるかもしれませんが、それまで、ゆっくりとお待ちください」
俺の言葉に返事はない。しかし、河馬人族の軍人もまた、俺の目をしっかりと見つめ、満足そうな笑顔を浮かべながら、その身体がゆっくりと地に倒れこんでいく。
また一人、勇猛であり、強き戦士の命が消えた。彼らとは、冥府で再会した際には、肩を組み、笑顔を浮かべながら、語り合いたいものだ。
0
お気に入りに追加
3,120
あなたにおすすめの小説
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
転生王子の異世界無双
海凪
ファンタジー
幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。
特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……
魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!
それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。