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第7章

第173話

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 仲良くなった王族派の騎士たちや、王子たちと分かれ、シュリ第二王女とエルバさん、そして俺の三人で、王都コンヤの周辺を哨戒しょうかいする事にした。

 あれから音沙汰の無い暗殺者たちと、魔物たちを狂乱状態にする事の出来る魔術師。獣王国内の勢力と、外部の勢力の同盟?の様な存在。

 敵側が隠し持つ獣王国内の拠点の炙り出しを、獣王様主体で、信頼の置ける者たちが進めている。だが、内乱・クーデターの様な事を行う勢力や集団は、当たり前だが国内や都市内だけでなく、国外や都市の外にも、幾つかの拠点を持っている。

 今回は、王都コンヤ周辺を哨戒すると同時に、外部の勢力の痕跡や、拠点などを突き止められればと思っている。まあ同時に、そんな簡単にはいかないとも思っている。腕の良い魔術師ともなれば、魔術的にも物理的にも、自らの拠点とした場所を強化し、敵対者・侵入者に対しての容赦のない対応をする。それに、早々に見つかる様なヘマをする事もない。逆に見つけてくださいとばかりに、見せつけてくるタイプの拠点は、罠がこれでもかと仕掛けられている、使い捨て用の拠点のたぐいか、自分の腕に絶対的な自信を持っている、慢心を持つ愚かな魔術師か、本当に優秀で、実戦経験が豊富な魔術師が、作り上げた拠点になる。

「もう一度、カイルさんにはお伝えしておきますが、今回はあくまでも、王都周辺の安全の確認の為の、哨戒が主目的になります」(シュリ)
「強力な魔物や魔獣、群れや巣を見つけた場合は、まずは報告を優先してください。勿論の事ですが、発見したと同時に、接敵した場合などは例外です。その場合は、殲滅する事が優先で構いません。まあ、私たち三人なら、大抵の相手なら問題はないと思いますが」(エルバ)
「分かりました。了解です」

 事前の最終確認を行ってから、俺たち三人は、王都コンヤ周辺の哨戒を始める。

 魔力探知を最大にまで広げて、現在位置から近い、コンヤ周辺に存在する、全ての魔力を探っていく。その中でも、豊富な魔力量をしている存在や、魔力量が少なくとも、無数の魔力が集まっている地点などを探る。

 最初は、王都の城壁に近い位置から、城壁を沿う様に移動していく。移動していきながらも、魔力探知に反応した魔力の位置に向かい、魔物や魔獣ならば殲滅、魔力を含む薬草などの場合は、その場所の位置を記録して、歩みを進めていく。

 これらの記録は、哨戒の後に王城と、この国の冒険者ギルドなどに渡す。これらの情報は貴重であり、場所によっては、一日一日で、植生しょくせいしている植物などの育成状況や、群生しているかどうかが、変わっていく様な特殊な環境の場所もある。その為、真面まともな国家運営をしている国は、冒険者ギルドなど、各ギルドの力を借りて、自国の事を知っておこうとする。そういった特殊な環境に植生するものは、大抵は、特に品質の良い植物だったり、命をけねば手に入れる事が出来ない場所に植生している、貴重な植物も植生するからだ。

「貴重な植物などは無いものの、様々な種類の薬草などが豊富に植生し、生育せいいくしていっている。これは火傷、こっちは切り傷や打撲などに使える。さらには、風邪などの病気にも使える薬草や植物もある。それに、どの薬草も植物も、高品質なものが多い。良い環境です」

 俺の誉め言葉に、シュリ第二王女とエルバさんも笑顔になる。二人に聞いた所によると、シュリ第二王女の曾祖父そうそふ、今代の獣王様のお爺様にあたる方が、当時の獣王国の、武力のみで国を運営する事に危機感を抱き、王家主導で、色々な事に手を出してみた結果の一つだそうだ。

 二人から、獣王国の歴史などを聞きながら、哨戒を続けていく。時々、俺たちと同じように、哨戒に出ている、獣王国の王都に配属されている軍の者たちや、冒険者ギルドの依頼を受けた冒険者などが、同じように哨戒しており、その者たちとも、短い間だが談笑し、情報交換などをした。その中で、今日の城壁周辺の哨戒は完了した、との情報を得た。なので、三人で話し合いを行い、俺たちは行動目的を、敵の拠点を探る事に切り替えた。

「今の所は、何か異変はありませんね」
「はい。ですが、それが不気味ではあります」(エルバ)
「相手には、確実に、私たちの動きは伝わっているはずです。今現在の状況から考えても、どの様な手段かは分かりませんが、仕掛けてくる事は間違いないと、私は思っています」(シュリ)

 シュリ第二王女がハッキリと断言すると同時に、周囲の空気が一瞬で変わっていく。

 良く晴れた快晴だったのにも関わらず、俺たちがいる場所に、大きな影が出来ていく。俺たちの頭上、遥かな上空から俺たちの方に向かって、緑の鱗をその身に纏う、風属性の翼竜ワイバーンが勢いよく下降してきている。

「各自、距離をとりましょうか。纏まっていると、危険ですから」
「「了解です」」(シュリ・エルバ)

 どの様な状態なのかは分からないが、降下してきているワイバーンは、全身から魔力をたぎらせ、肌がひりつく程の殺気を放ってきている。明らかに、俺たちを殺すつもりで迫って来ている。

「ギャア‼」(風属性のワイバーン)

 魔術による、無数の風の刃を放ってくる。目に見える緑の刃と、不可視の、純粋に風を圧縮した刃。二種類の命を絶つ刃が、上空から俺たちに降り注ぐ。俺は打刀を抜き放ち、シュリ第二王女は籠手ガントレットに魔力を籠め、エルバさんはショートソードを抜き放つ。

 迫りくる二種類の刃を、俺は打刀で斬り裂き、シュリ第二王女は拳で打ち砕き、エルバさんはショートソードで切り裂いた。全員、避けることなく真っ向勝負で対応した。当然、この程度ではやられるはずもなく、全員が無傷で、その場から動くことなく、その場に立っている。

 風属性のワイバーンは、一番近い位置にいたシュリ第二王女に狙いを定め、さらに速度を上げて降下し、身体を一回転させて、鏃の様に尖った鋭い尾を叩きつけてきた。

 周囲に響く鈍い轟音。辺りに立ち込める土煙。小さき生物の命を奪った事で、歓喜の咆哮を上げるワイバーン。

 しかし、俺とエルバさんは、何の心配もしていない。あの程度の攻撃でやられるほど、シュリ第二王女は弱くはない。

「ギャ?」(風属性のワイバーン)

 グンッと、ワイバーンの身体が地面に引っ張られていく。そのまま、ワイバーンの巨体が地面に激突する。地響きと共に、再び土煙が立ち込める。シュリ第二王女はまだまだ止まらない。

「………ッ‼」(シュリ)

 シュリ第二王女は、両腕で風属性のワイバーンの尾を抱え込み、地面に叩きつけた方向とは、逆の方向に向けて、思いっきり尾を振るう。地面に叩きつけられていたワイバーンの巨体が、フワリと浮き、反対方向の地面に叩きつけられる。それを何度も繰り返し、最後に真上に放り投げて、右拳と籠手に高密度・高濃度の魔力を籠め、落下してくるワイバーンの顔面に向けて放つ。

「………グギャ‼」(風属性のワイバーン)

 顔面に右拳が突き刺さり、ワイバーンが吹き飛んでいく。結構遠くまで吹き飛び、地面に墜落して、木々を折り、地面をえぐっていく。暫く間、地形を破壊しながらワイバーンは地面を滑っていく。ようやく動きが止まるが、ワイバーンは、その巨体をピクリとも動かすことはない。だが、まだ生きているのは分かっているし、戦意が折れている事もない。

 怒り。自らよりも、小さく、弱い生き物に、いい様にやられてしまった事への怒り。自らに恐怖せず、生意気にも反抗してくる事への怒り。その怒りに比例する様に、荒々しくも、高密度・高濃度の魔力が溢れ出していく。空気がビリビリと震え、緑の鱗の艶が増していく。身体強化による、肉体の活性化か。

「…………ガァアアア‼」(風属性のワイバーン)

 魔力を籠めた咆哮。意識が、甚振いたぶって楽しむ得物から、全力でもって、骨すら残さずに滅ぼす敵に切り替えたのだろう。
俺も、打刀に風属性の魔力を染み込ませていく。刀身が老竹色に変化していく。刀身が放つ高濃度の魔力は、ワイバーンの魔力と同等の圧を放っている。
シュリ第二王女も、全身に無属性の魔力を循環させて身体強化。拳と脚、籠手や脛当グリーブに、先程よりも質の高い、無属性の魔力を籠めていく。
エルバさんも、全身に雷属性の魔力を循環させて身体強化。ショートソードの剣身に、同じく雷属性の、質の高い魔力を纏わせ、戦意を高めていく。

 俺たち三人の魔力と、ワイバーンの魔力がぶつかり合う。バチバチと、魔力同士が反発し合い、空気が重くなっていく。
最初に動いたのは、怒りが抑えきれない、本気になったワイバーン。
亜竜とはいえ、竜という生物として、生まれつき持つ力。喉元のどもとに魔力が圧縮されていき、口の端から、チラチラと真っ赤な炎が見え隠れしている。
口を大きく開き、真っ赤に燃え滾る炎を、炎弾として放って来た。
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