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第6章
第146話
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イーサルさんの言葉と共に、この部屋で準備していた、魔文字による記録係の人が、ペンに魔力を籠め始める。まずはナバーロさんが、改めてイーサルさんに、事の始まりともいえる、ガレンさんたちの、漁師さんたちの戦力増強の件について話していく。
「その話は、正式にガレンの方からも聞いている。ナバーロが用意してくれた計画書も、問題のないものだったからな」(イーサル)
「ありがとうございます。今回は、それらが完成したので、実地での実験を行う段階まできました」(ナバーロ)
「実験は成功。凶暴化している海の魔物にも、十分通用しました」(ガレン)
「そうか。それは、朗報だな。……冒険者ギルドの方は?」(イーサル)
「こっちとしても、今後は、都市内の依頼を受ける冒険者と、海側の依頼を受ける冒険者とを、分けていきたいと思っています。ナバーロを通じて、同じ様に、魔道具を作ってもらおうと思います」(ユノックギルドマスター)
「そうか。ギルドに関しては、こちらから口を挟むことはない。ナバーロの方は?」(イーサル)
イーサルさんに問われたナバーロさんは、顎に手を当てて、少し考え込んでいる。暫くしてから、答えが出たのか、ギルマス、ガレンさんと順番に視線を巡らせた後に、イーサルさんに視線を合わせて答える。
「魔道具を作ることに関しては、問題はないと思われます。ただギルド側で、使用する者に対して、何かしらの魔術契約もしくは、魔術契約書の発行を行ってもらいたいと思います」(ナバーロ)
「それは当然だ。貸し出した魔道具で、人や物を傷つけましたなんて、ギルドとしても、元冒険者としても、恥でしかねえ。そういった所は、俺の方からも、徹底させるつもりだ。抜け道一つも残さない様にするつもりだ」(ユノックギルドマスター)
「何かしらの問題が起きそうなら、直ぐにこちらにも情報を流してくれ。こちらからも、ギルドと協力する為の人を出すからな」(イーサル)
『はい、ありがとうございます』
ここで一旦、会話が途切れる。皆が、用意されていた紅茶や、お菓子を摘まんでいく。そのまま、ナバーロさんが実験終了までの話をし終わると、ホッとした様子で、紅茶で喉を潤す。次は、俺が話をしていくかな。
「次は俺ですね。俺は実験中に、周囲の警戒のために、魔力探知をしていました。すると、海底に大量の魔力反応がある場所がありました。そして、ガレンさんたちに聞いた、人魚や魚人の方々がよく姿を見せていた、という点から、もしかしてと思いまして」
「なるほど。それで実際に向かってみたら、という事か?」(イーサル)
「はい。そこには、こちらにもいらっしゃる、人魚や魚人の方々に、常に実体化している精霊様たちも暮らしている国でした。詳しく話を聞くと、ガレンさんたちの親の世代と、確かに交流があったという事でした」
「続けてくれ」(イーサル)
イーサルさんに促されたので、そのまま続けていく。
「そこで、メルジーナ国が、なぜこの海から姿を消したのかを、知らされました。これに関しては、ご本人たちに、語ってもらった方がよいと思います」
俺の言葉に合わせて、隣にいる、上位の水精霊様が軽く会釈する。
「私が知らされたのは、一体の魔物との戦闘によって、水竜が怪我を負い、呪に侵食されているという事でした。私も実際に、水竜の様子を目にしましたが、行動が少しでも遅ければ、水竜にとって致命的な遅れになっていたと、今でも思っています」
「それが、タイラントクラブの襲撃に繋がるのか?」(イーサル)
「はい。実は精霊様によると、襲撃をしてきた魔物に、呪を組み上げた術士が呪を侵食させていたようでした。しかし、術士が祖国によって処刑されました」
「ほう?それで?」(イーサル)
「術士は、それを予想していた様で、呪に自らの魂を組み込むという、あまり知られてはいませんが、凶悪な手段を事前にその魔物に仕込んでいました。そして、その呪の効果は、他者を喰らい、その存在を、自らに取り込むというものでした」
俺の発言に、一瞬場が静かになるが、ガンダロフさんたちや、ネストールさんたち親子の、戦闘を専門としている人たちは、その意味を理解する。
「おいおい、まさか!?」(ガンダロフ)
「カイル君が、あれだけ焦ってたのは、そういう事なの?」(シフィ)
「なるほど。それなら、俺たちだけに対応させたのには、納得できる」(シュナイダー)
「………時間が過ぎれば過ぎるほど、相手は強大になっていく。カイルの判断は、正しかった。俺でもそうしただろう」(ラムダ)
ナバーロさんや、ガレンさん。そして、イーサルさんは、いまいちピンときていないようだ。
「カイルさん、その水竜はどうなったのですか?」(ネストール)
「それについては、心配要りません。完全に、侵食されていたわけではないので、術士を消滅させた段階で、水竜も元の状態に戻っています」
「………カイルと言ったか。もしかして、その水竜の名は、ヨートスと言うのではないか?」(ステイル)
ステイルさんの質問に、ネストールさんや、イーサルさんが真剣な表情で、俺を見る。俺としても、気になっていた事を、先に聞いておく事にした。
「ネストールさんのその鎧は、もしかして、ヨートス殿の縁の品ですか?」
「……そうだ。この鎧は、我らの先祖が、ヨートス殿から、友好の証として譲られたものだ」(ステイル)
「先祖から、代々受け継いできた鎧です。特別な素材で出来ているらしく、今までに傷らしい傷は、ついた事がないというのが、先祖から伝わっています」(ネストール)
「もしかして、その鎧が何で出来ているのか、ご存じないんですか?」
「ああ、そうだ。先祖からも、特別な素材で出来てる、ということ以外は何も伝わっていない」(ステイル)
「カイルさんは、この鎧が何で出来ているのか、分かるんですか?」(ネストール)
「その前にもう一つだけ。その鎧は、ここ五十年以上、まともに使うことが出来なかったのでは?」
俺がそう聞くと、ネストールさんは驚き、ステイルさんは視線が鋭くなる。イーサルさんも、知らなかった様で、驚きの表情をしている。
「なぜ、そんな事が分かる?もしかして、お前は他国の間者か?」(ステイル)
「いえ、違いますよ。その鎧に使われている素材の事を、理解しているからですよ」
「どういう事ですか?知っているなら、教えて下さい!!」(ネストール)
全員の視線が、俺に集まる。俺は、ゆっくり語る。
「まずは、俺の話をゆっくりとでいいんで、聞いていてください。いいですか?」
皆は、俺の言葉に頷いてくれる。
「まず前提として、竜種という存在は、生命体として、最強種に分類されています。肉体の再生能力も高く、………鱗や爪は簡単に再生します」
俺の言葉に、全員が驚き、ネストールさんの着込んでいる鎧に、視線を向けている。ネストールさんも、驚きつつも、自らの鎧に触れている。
「そして、竜種の素材で作られたものは何であれ、高性能なものであり、生きた素材と言われています」
「生きた……」(ステイル)
「………素材」(ネストール)
「そうです。そして、その元になった竜種が生きている場合、その素材で作られたものは、竜種によって起きる現象が変わります」
俺は、全員が会話についていけている事を確認しながら、会話を続ける。
「一つは、竜種が完全に自分との繋がりを絶ち、独立した素材とする事。そしてもう一つは、自らとの繋がりを残したままで、素材として譲る場合です。今回のジェレミア家に引き継がれたその鎧は、後者になります。なので、この五十年ほどは、まともに使うことが出来なかったんです」
「つまり、ヨートス殿が呪に侵食されている事から、繋がりの残っている素材で作られた、この鎧にも呪の影響が出ていたという事か?」(ステイル)
「そういう事です。術士も、性格が歪んではいましたが、呪に関しては一流でした。もし、無理して鎧を着ていたら、呪が一気に流れ込んできて、侵食されてしまったのは、まず間違いないです」
ステイルさんとネストールさんの表情が、少しだけ青ざめている。
「今のその鎧には、全くの問題はありません。ただ後で、ヨートス殿と、改めて相談はする必要はあります。再び同じ様な事があった時に、対処できるように」
俺の言葉に、ステイルさんもネストールさんも、ただ黙って頷く。話が逸れてしまったしまったので、元に戻す。
「話を戻します。術士の呪に完全に侵食されると、その生き物は、術士という存在に、上書きされてしまいます」
「つまり、今回の災害とも言える様な、タイラントクラブの群れは、術士そのものが、攻めてきたということか?」(イーサル)
「そうです。恐らくはですが、戦っていた俺との戦力差を、無意識に感じてしまい、それを覆せるほどの戦力を得るために……といった所だと思います」
「もっとも近くにあり、襲いやすい場所である、このユノックを標的に選んだわけか」(イーサル)
ここまで語った俺の説明に、全員が納得の表情をしている。そのままの流れで、タイラントクラブとの戦闘開始からの、戦いの様子を、ガンダロフさんたちが語っていく。その中でも、人魚や魚人の戦士たちが、いかに自分たちを救ってくれたかを語る。
人魚や魚人の戦士たちも、ガンダロフさんたちの頑張りを、同じ様に語っていく。そして、俺の話を裏付けるように、タイラントクラブたちの動きが、急に鈍ったように感じたそうだ。さらに、統一されていたような動きが、バラバラになりはじめて、一体一体の動きが雑になっていったそうだ。
「最終的には、ただただ興奮して、俺たちには見向きもしないで、ユノックに走り出してたからな」(ガンダロフ)
「恐らくは、相当カイルに追い詰められていたのね。どの個体も、必死だったもの」(シフィ)
ガンダロフさんたちには、感謝しかない。一歩でも間違えたら、死ぬ様な場所での戦闘をお願いしたのだ。後で、秘蔵の酒や食材で、持て成しをしなければ。
「カイル。呪も、その術士も、完全に消滅したと見ていいんだな?」(イーサル)
「はい、構いません。念入りに確認もしました」
俺の答えに、満足そうにして、安堵しているイーサルさん。ステイルさんも安堵しているが、ネストールさんはあの群れを体験しているので、楽観視は出来ない様で、少しだけ深刻な顔をしている。なので、ネストールさんの為にも、第三者として、俺が率先して、伝える事は伝えておかなければ。
「イーサル様、ステイルさんも、安心するのは、まだ早いです。今回で、完全に侵食されたタイラントクラブは、討伐出来ましたが、呪に侵食途中だった個体が、まだ興奮状態です。暫くすれば、落ち着く個体も出てきますが、今はまだ、完全に警戒を解くべきではありません」
「………すまんな。つい、一大事が過ぎ去ったと、安堵から緩んでしまった」(イーサル)
「いえ、こちらこそ、不躾で申し訳ありませんでした」
「いや、いい。我々の事を思っての事だろう?むしろ、緩んだ事を指摘してくれた事に、感謝しかない」(イーサル)
「ありがとうございます」
そこから、呪というものが、どの様なものかを簡単に、要点を纏めて説明していく。そこから、なぜまだ警戒しなくてはいけないのか、何時まで続くのかなどを、予想として語っていく。
「だが、こちらとしても、様々な面での事に影響が出る事から、出せる戦力に限りがある。さて、どうしたものか」(イーサル)
イーサルさんの悩みに、俺の隣にいる上位の水精霊様が、口を開く。
「イーサルさん、私共から提案があります。お互いに、損のない話だと思いますよ」(上位の精霊)
自信のある、上位の水精霊様の言葉に、悩ましげな顔が消え、領主としての顔に戻る。
「聞かせてください。我らが盟友よ」(イーサル)
イーサルさんの返しに、上位の水精霊様や、人魚や魚人の戦士たちもまた、真剣になった。
「その話は、正式にガレンの方からも聞いている。ナバーロが用意してくれた計画書も、問題のないものだったからな」(イーサル)
「ありがとうございます。今回は、それらが完成したので、実地での実験を行う段階まできました」(ナバーロ)
「実験は成功。凶暴化している海の魔物にも、十分通用しました」(ガレン)
「そうか。それは、朗報だな。……冒険者ギルドの方は?」(イーサル)
「こっちとしても、今後は、都市内の依頼を受ける冒険者と、海側の依頼を受ける冒険者とを、分けていきたいと思っています。ナバーロを通じて、同じ様に、魔道具を作ってもらおうと思います」(ユノックギルドマスター)
「そうか。ギルドに関しては、こちらから口を挟むことはない。ナバーロの方は?」(イーサル)
イーサルさんに問われたナバーロさんは、顎に手を当てて、少し考え込んでいる。暫くしてから、答えが出たのか、ギルマス、ガレンさんと順番に視線を巡らせた後に、イーサルさんに視線を合わせて答える。
「魔道具を作ることに関しては、問題はないと思われます。ただギルド側で、使用する者に対して、何かしらの魔術契約もしくは、魔術契約書の発行を行ってもらいたいと思います」(ナバーロ)
「それは当然だ。貸し出した魔道具で、人や物を傷つけましたなんて、ギルドとしても、元冒険者としても、恥でしかねえ。そういった所は、俺の方からも、徹底させるつもりだ。抜け道一つも残さない様にするつもりだ」(ユノックギルドマスター)
「何かしらの問題が起きそうなら、直ぐにこちらにも情報を流してくれ。こちらからも、ギルドと協力する為の人を出すからな」(イーサル)
『はい、ありがとうございます』
ここで一旦、会話が途切れる。皆が、用意されていた紅茶や、お菓子を摘まんでいく。そのまま、ナバーロさんが実験終了までの話をし終わると、ホッとした様子で、紅茶で喉を潤す。次は、俺が話をしていくかな。
「次は俺ですね。俺は実験中に、周囲の警戒のために、魔力探知をしていました。すると、海底に大量の魔力反応がある場所がありました。そして、ガレンさんたちに聞いた、人魚や魚人の方々がよく姿を見せていた、という点から、もしかしてと思いまして」
「なるほど。それで実際に向かってみたら、という事か?」(イーサル)
「はい。そこには、こちらにもいらっしゃる、人魚や魚人の方々に、常に実体化している精霊様たちも暮らしている国でした。詳しく話を聞くと、ガレンさんたちの親の世代と、確かに交流があったという事でした」
「続けてくれ」(イーサル)
イーサルさんに促されたので、そのまま続けていく。
「そこで、メルジーナ国が、なぜこの海から姿を消したのかを、知らされました。これに関しては、ご本人たちに、語ってもらった方がよいと思います」
俺の言葉に合わせて、隣にいる、上位の水精霊様が軽く会釈する。
「私が知らされたのは、一体の魔物との戦闘によって、水竜が怪我を負い、呪に侵食されているという事でした。私も実際に、水竜の様子を目にしましたが、行動が少しでも遅ければ、水竜にとって致命的な遅れになっていたと、今でも思っています」
「それが、タイラントクラブの襲撃に繋がるのか?」(イーサル)
「はい。実は精霊様によると、襲撃をしてきた魔物に、呪を組み上げた術士が呪を侵食させていたようでした。しかし、術士が祖国によって処刑されました」
「ほう?それで?」(イーサル)
「術士は、それを予想していた様で、呪に自らの魂を組み込むという、あまり知られてはいませんが、凶悪な手段を事前にその魔物に仕込んでいました。そして、その呪の効果は、他者を喰らい、その存在を、自らに取り込むというものでした」
俺の発言に、一瞬場が静かになるが、ガンダロフさんたちや、ネストールさんたち親子の、戦闘を専門としている人たちは、その意味を理解する。
「おいおい、まさか!?」(ガンダロフ)
「カイル君が、あれだけ焦ってたのは、そういう事なの?」(シフィ)
「なるほど。それなら、俺たちだけに対応させたのには、納得できる」(シュナイダー)
「………時間が過ぎれば過ぎるほど、相手は強大になっていく。カイルの判断は、正しかった。俺でもそうしただろう」(ラムダ)
ナバーロさんや、ガレンさん。そして、イーサルさんは、いまいちピンときていないようだ。
「カイルさん、その水竜はどうなったのですか?」(ネストール)
「それについては、心配要りません。完全に、侵食されていたわけではないので、術士を消滅させた段階で、水竜も元の状態に戻っています」
「………カイルと言ったか。もしかして、その水竜の名は、ヨートスと言うのではないか?」(ステイル)
ステイルさんの質問に、ネストールさんや、イーサルさんが真剣な表情で、俺を見る。俺としても、気になっていた事を、先に聞いておく事にした。
「ネストールさんのその鎧は、もしかして、ヨートス殿の縁の品ですか?」
「……そうだ。この鎧は、我らの先祖が、ヨートス殿から、友好の証として譲られたものだ」(ステイル)
「先祖から、代々受け継いできた鎧です。特別な素材で出来ているらしく、今までに傷らしい傷は、ついた事がないというのが、先祖から伝わっています」(ネストール)
「もしかして、その鎧が何で出来ているのか、ご存じないんですか?」
「ああ、そうだ。先祖からも、特別な素材で出来てる、ということ以外は何も伝わっていない」(ステイル)
「カイルさんは、この鎧が何で出来ているのか、分かるんですか?」(ネストール)
「その前にもう一つだけ。その鎧は、ここ五十年以上、まともに使うことが出来なかったのでは?」
俺がそう聞くと、ネストールさんは驚き、ステイルさんは視線が鋭くなる。イーサルさんも、知らなかった様で、驚きの表情をしている。
「なぜ、そんな事が分かる?もしかして、お前は他国の間者か?」(ステイル)
「いえ、違いますよ。その鎧に使われている素材の事を、理解しているからですよ」
「どういう事ですか?知っているなら、教えて下さい!!」(ネストール)
全員の視線が、俺に集まる。俺は、ゆっくり語る。
「まずは、俺の話をゆっくりとでいいんで、聞いていてください。いいですか?」
皆は、俺の言葉に頷いてくれる。
「まず前提として、竜種という存在は、生命体として、最強種に分類されています。肉体の再生能力も高く、………鱗や爪は簡単に再生します」
俺の言葉に、全員が驚き、ネストールさんの着込んでいる鎧に、視線を向けている。ネストールさんも、驚きつつも、自らの鎧に触れている。
「そして、竜種の素材で作られたものは何であれ、高性能なものであり、生きた素材と言われています」
「生きた……」(ステイル)
「………素材」(ネストール)
「そうです。そして、その元になった竜種が生きている場合、その素材で作られたものは、竜種によって起きる現象が変わります」
俺は、全員が会話についていけている事を確認しながら、会話を続ける。
「一つは、竜種が完全に自分との繋がりを絶ち、独立した素材とする事。そしてもう一つは、自らとの繋がりを残したままで、素材として譲る場合です。今回のジェレミア家に引き継がれたその鎧は、後者になります。なので、この五十年ほどは、まともに使うことが出来なかったんです」
「つまり、ヨートス殿が呪に侵食されている事から、繋がりの残っている素材で作られた、この鎧にも呪の影響が出ていたという事か?」(ステイル)
「そういう事です。術士も、性格が歪んではいましたが、呪に関しては一流でした。もし、無理して鎧を着ていたら、呪が一気に流れ込んできて、侵食されてしまったのは、まず間違いないです」
ステイルさんとネストールさんの表情が、少しだけ青ざめている。
「今のその鎧には、全くの問題はありません。ただ後で、ヨートス殿と、改めて相談はする必要はあります。再び同じ様な事があった時に、対処できるように」
俺の言葉に、ステイルさんもネストールさんも、ただ黙って頷く。話が逸れてしまったしまったので、元に戻す。
「話を戻します。術士の呪に完全に侵食されると、その生き物は、術士という存在に、上書きされてしまいます」
「つまり、今回の災害とも言える様な、タイラントクラブの群れは、術士そのものが、攻めてきたということか?」(イーサル)
「そうです。恐らくはですが、戦っていた俺との戦力差を、無意識に感じてしまい、それを覆せるほどの戦力を得るために……といった所だと思います」
「もっとも近くにあり、襲いやすい場所である、このユノックを標的に選んだわけか」(イーサル)
ここまで語った俺の説明に、全員が納得の表情をしている。そのままの流れで、タイラントクラブとの戦闘開始からの、戦いの様子を、ガンダロフさんたちが語っていく。その中でも、人魚や魚人の戦士たちが、いかに自分たちを救ってくれたかを語る。
人魚や魚人の戦士たちも、ガンダロフさんたちの頑張りを、同じ様に語っていく。そして、俺の話を裏付けるように、タイラントクラブたちの動きが、急に鈍ったように感じたそうだ。さらに、統一されていたような動きが、バラバラになりはじめて、一体一体の動きが雑になっていったそうだ。
「最終的には、ただただ興奮して、俺たちには見向きもしないで、ユノックに走り出してたからな」(ガンダロフ)
「恐らくは、相当カイルに追い詰められていたのね。どの個体も、必死だったもの」(シフィ)
ガンダロフさんたちには、感謝しかない。一歩でも間違えたら、死ぬ様な場所での戦闘をお願いしたのだ。後で、秘蔵の酒や食材で、持て成しをしなければ。
「カイル。呪も、その術士も、完全に消滅したと見ていいんだな?」(イーサル)
「はい、構いません。念入りに確認もしました」
俺の答えに、満足そうにして、安堵しているイーサルさん。ステイルさんも安堵しているが、ネストールさんはあの群れを体験しているので、楽観視は出来ない様で、少しだけ深刻な顔をしている。なので、ネストールさんの為にも、第三者として、俺が率先して、伝える事は伝えておかなければ。
「イーサル様、ステイルさんも、安心するのは、まだ早いです。今回で、完全に侵食されたタイラントクラブは、討伐出来ましたが、呪に侵食途中だった個体が、まだ興奮状態です。暫くすれば、落ち着く個体も出てきますが、今はまだ、完全に警戒を解くべきではありません」
「………すまんな。つい、一大事が過ぎ去ったと、安堵から緩んでしまった」(イーサル)
「いえ、こちらこそ、不躾で申し訳ありませんでした」
「いや、いい。我々の事を思っての事だろう?むしろ、緩んだ事を指摘してくれた事に、感謝しかない」(イーサル)
「ありがとうございます」
そこから、呪というものが、どの様なものかを簡単に、要点を纏めて説明していく。そこから、なぜまだ警戒しなくてはいけないのか、何時まで続くのかなどを、予想として語っていく。
「だが、こちらとしても、様々な面での事に影響が出る事から、出せる戦力に限りがある。さて、どうしたものか」(イーサル)
イーサルさんの悩みに、俺の隣にいる上位の水精霊様が、口を開く。
「イーサルさん、私共から提案があります。お互いに、損のない話だと思いますよ」(上位の精霊)
自信のある、上位の水精霊様の言葉に、悩ましげな顔が消え、領主としての顔に戻る。
「聞かせてください。我らが盟友よ」(イーサル)
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