上 下
71 / 252
第5章

第112話

しおりを挟む
俺の女性騎士型の自動人形に一振りを止められたテオバルトは自らの一振りを盾で完璧に受け止めた自動人形を興味深そうに観察しつつも、一旦仕切り直す様に跳躍して距離を取る。テオバルトの浮いていた右腕も既に元に戻っており、その手に掴まれているロングソードには俺の血がベッタリと付着している。俺は自分の肉体に集中して傷を高速再生させていく。大きく斜めに切り裂かれた傷は再生してもあとが残ってしまっている

〈今着ているのは外見は里で作った里の普段着に見せてるが、使用している生地も糸も縫い方も特殊な戦闘用にも普段着にも使える特別なものだぞ⁉それをたったの一振りで切り裂けるのか……〉

こいつには傷などや今回のように切り裂かれても周囲から魔力を集めて自動で修復してくれる能力がある。だが、高速再生の様に急速に元に戻るわけではない。今もゆっくりとだが修復されているが、この戦闘が終わるまでに修復が終わることがないだろう

テオバルトは一通り自動人形の観察が終わったのか、俺に再び集中しているようだ。俺もテオバルトの動きを観察していたが、違和感があった。よくよく見てみるとテオバルトのロングソードに付着していた俺の血がすっかりとなくなっており、綺麗な状態になっている

「ハハハハ、気づいたか?俺の愛剣なんだがな、幾多の戦場を共にした事で俺の性質に近くなったようでな。まあ、簡単に言えば血を好むようになってしまったようでな。それも、濃い魔力が含まれている血がな」(テオバルト)

それはもう、一種の魔剣に近いような状態になってしまっているのかもしれない。吸血鬼の事は本の内容の事でしか知識がないので、あのロングソードの事については今は頭の片隅に置いておく。それに、血を吸われた事で何が起こるのかが分からない。些細な変化にも対応できるようにしておく。そう思っていると、ロングソードの剣身が柄の方から血と闇が混ざった赤黒い色に変わっていく

「おお‼こいつがお前の血を気に入ったようだ。しかも、ここまで濃く色が変わるとは、余程魔力が豊潤だったようだな。これほどの反応を示すのは数百年ぶりだ‼お前の全ての血を吸い取ったらこいつ相棒は真の魔剣に至るかもしれんな‼」(テオバルト)

そんな風に喜びながら、俺に向かって笑みを浮かべて突進してくる。俺は異空間からさらに八体の女性騎士型の自動人形を取り出す。合計九人の自動人形はしっかりとした陣形を組んで、迎え討つ。俺はその九人の陣形に混ざって同じく迫りくるテオバルトを迎え討つ

テオバルトのロングソードが嵐のような勢いで縦横無尽に暴れまわる。それを俺と九人の自動人形で隙間なくカバーし合い、その全てを捌ききっていく。だが、テオバルトの方も徐々に動きを変えていく。横にだけでなく、縦・斜め・そして、突きや柄を使った攻撃を混ぜてきた。狂気を含ませた戦闘欲求を満たせているのが分かる笑顔を見せながら次々と手を変えて仕掛けてくる

「本当に‼楽しいな‼それに、今まで殺し合ってきた人形遣いの中でもお前はトップクラスの使い手だな‼これなら、後二・三日は続けて楽しめることが出来るな‼」(テオバルト)
「冗談じゃないっての‼お前みたいな戦闘狂といつまでも付き合ってられるか‼」
「ハ~ハッハ‼そう言うな‼お前ほどの戦士を相手に出来るなどそうそうないのだ‼満足するまで付き合ってもらうぞ‼」(テオバルト)
「断る‼」

テオバルトのロングソードの剣身の赤黒さがどんどんと濃くなっていく。それと比例するように一振り一振りの剣速と威力がどんどん上がっていく。少しずつ盾で一振りを受けている自動人形たちがその威力に押されて後退する場面が増えていく

〈このままじゃ、いずれ盾も使い物にならなくなるな。さっきのこいつの話しぶりからすると、今のあのロングソードは俺の血液と含まれていた魔力によって強化されてる状態ということか………なら‼〉
「術式起動・【九人の戦乙女ニオ・ワルキューレ】」

俺が九人の自動人形に埋め込んである術式を起動させると、プレートアーマーはより質の高いものに変化し、兜・剣・盾には羽飾りが生え、最後に白鳥の羽衣が出現しそれを纏う。テオバルトの攻撃に耐え切れなくなっていた防御も十分に余裕をもって防ぎきれるようになっている。テオバルトはそれを見て、さらに笑みを深めていく

ここで一気に攻勢に出る。九人の戦乙女たちの翻弄する動きと視線誘導を織り交ぜて接近する。テオバルトはその優秀な動体視力を逆手に取られたようで、巧妙な視線誘導の一つに引っかかってしまう。そこに脚部に魔力を急速に練り上げて、踏み込んで加速する

「そう来るか‼」(テオバルト)
〈まずはここで何発か打ち込む‼〉

九人の戦乙女の一人に対してテオバルトは体勢が完全に流れてしまっており、左の脇腹を完全に俺に向けてしまっている。俺はそこに破壊力上昇のために全属性の中から火・土・雷・光の四属性の複合魔力を練り上げて腕に纏わせテオバルトの左脇腹を打ち抜く

〈何だ⁉この硬さ⁉〉
「【血操魔術ブラッドレイン・マギア血装強化ブラッド・ポイント不死の鎧イモータル・アルマ≫。いい拳だ‼鎧の防御をここまで抜かれるとはな‼」(テオバルト)

俺の拳は確かにテオバルトの左脇腹に突き刺さっていた。しかし、テオバルトの左脇腹は真っ赤な鮮血の血の色になっていた

「血装強化≪不死の籠手イモータル・ガントレット≫」(テオバルト)
「……………グッ‼」

テオバルトは左脇腹と同じように左腕が鮮血に染まり、俺の顔面に向けて拳を放つ。俺は咄嗟に腕をバツ印に重ねて防御をするが、テオバルトの拳は重く威力も高い。骨が軋みを上げながら吹き飛ばされる。一人の戦乙女が俺の背後に周り、受け止めてくれる。しかし、受け止めてからもかなり後ろに飛ばされ続ける。止まった時には、さらに二人追加されており、合計で三人がかりでやっと止まったのだ

腕が痺れる。全属性で身体が強化されているにも関わらず、数秒経った今でも痺れが残っている状態だ。テオバルトはそんな俺に追撃を仕掛けようとしていたが、残りの戦乙女に阻まれていた。その間に腕の痺れがなくなった。あの聞いたことがない魔術によって強化された状態から放たれる一撃は俺の全属性の身体強化の硬さを簡単に抜いてくる

「まだまだ往くぞ‼血装強化≪不死の脛当イモータル・グリーブ≫」(テオバルト)

今度は両脚が鮮血に染まる。そして、テオバルトの姿が掻き消える。瞬きの次の瞬間には俺の真正面に立っており、右足の裏が腹に突き刺さっていた。瞬時に俺は腹に魔力を籠めて強化した。だが、テオバルトはさらに先手を打ってきた。腹に激痛が走る。突然の痛みに混乱が走る。そこに畳みかけるように怒涛の連撃が襲い掛かる

混乱しながらも腹を見ると幾つもの刃のような刺し傷が横に並んでいる。九人の戦乙女が綿密の連携でもって俺の前に防御陣を展開するが、たったの一蹴りで勢いよく後ろに吹き飛ばされていく。戦乙女たちの盾にも俺の腹と同じように、いくつかの刺し傷があるのは確認できた

「さあ、後はお前だけだぞ‼どうひっくり返す?」(テオバルト)

土属性の魔力で地面に干渉し地中にあるミスリルをかき集めて急造の盾を生み出す。目眩しように急造の盾を幾つか魔糸で空中に固定して縦に並べる。そこに追加で積層魔力障壁を展開する。最後に雷・風の複合属性の魔力を両脚に練り上げて強化する。今度は水平に脚を振り抜き、死神の鎌のような鋭く鋭利な蹴りでもって急造の盾と積層魔力障壁の全てを砕いた右足が俺の首を折に来た。俺は盾や障壁が破られることを前提にしていたので、カウンター狙いで左腕が刺されるのを覚悟でテオバルトの蹴りに差し出す

「狙いはいいが、甘いな‼」(テオバルト)

テオバルトの蹴りを結局背を反らして避け、そのままの反動であるを魔糸で回収して距離を取る

「まずは、。それと、濃い魔力を含む血…………おっと、危ない危ない」(テオバルト)

俺は即座に地面に落ちた血を燃やして蒸発させる。腕の切断面は時空間魔術で切断面のみを時間を停止させて止血する。流れ出ていた血は同じく蒸発させた

腕の切断面は綺麗すぎるほどだ。まるで、業物の刀剣に斬られたかのように。あの時にロングソードは使っていなかったのは確実だ。そこから考える。鮮血のように染まった左脇腹・腕・脚。腹につけられた複数の刺し傷。そして、砕けるのを覚悟で差し出したのにも関わらずに切られた左腕

〈なるほど、目に見えないほどに薄くした血の刃か。吸血鬼らしい巧みな血の使い方だな。どうやって、対処するか〉
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。