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第2話
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色々と混乱し始めた俺の肩に、紗雪さんがトンッと手で触れる。
「凍夜、とりあえず猪の方をサクッと倒してしまえ」
「そんな適当な感じで倒しちゃってもいいの?」
「構わん。それと、力の加減も必要ない。確実に、迅速に終わらせろ」
「………分かった」
どちらが敵で、どちらが味方か分からない。だが状況的に見ても、漆黒の猪が傷ついた蛇を倒した後に俺たちを見逃すかというと、その可能性は低いだろう。それどころか、今でさえも荒々しく興奮している姿から、嬉々として襲い掛かって来る未来が容易に想像出来てしまう。
だとするならば、紗雪さんの言う通り全力を揮い、この漆黒の猪をさっさと仕留めた方がいいな。俺は自分の意識を切り替えて、自身の中にある‟力”を使う。
「――――――!!」
「ブォオオオオオオ!!」
空気中に存在する水分を氷結させて、先端をとがらせた巨大な氷柱を漆黒の猪の周囲に幾つも作り出し、それら全ての氷柱を一気に加速させて同時に放ち、漆黒の猪の体全体に勢いよく突き刺していく。
突き刺さった全ての氷柱は、漆黒の猪の巨大な体を抵抗もなく突き抜け、氷柱の切っ先が地面に深く突き刺さり、巨大な体をその場に固定する。漆黒の猪は激痛に悶えながらも、その場から抜け出そうと必死にもがいている。しかし、地中深く突き刺さっている氷柱はビクともせず、流れる血と痛みが増していくだけで終わる。
再び、空気中に存在する水分を氷結させる。次に形作ったのは、氷で出来た巨大な刀の刀身。その氷の刀身を、漆黒の猪の首の真上に作り出す。俺は、右腕を真上に上げていく。すると、氷の刀身の切っ先が右腕の動きに連動し、真上に上がっていく。それを見た漆黒の猪は、さらに激しく体を動かし、必死に逃げようとしている。
「フゴッ!!フゴッ!!ブモォオオオオ!!」
「――――これで終わりだ」
スーッと、右腕を下に下ろす。その動きに連動し、切っ先を真上に向けていた氷の刀身が、一気に振り下ろされる。そして、漆黒の猪の首に氷の刀身が触れたと思ったその瞬間、何かの‟力”によって氷の刀身の動きが止められていた。
「?」
「プギッー!!」
漆黒の猪が、嘲りが含まれた笑みを俺に向けてくる。得意げなその様子から、その‟力”は漆黒の猪にとって奥の手、もしくは、それに類似する様なものなのだろう。
再び右腕を上に上げて、氷の刀身の切っ先を真上に振り上げ直す。だが、このままもう一度振り下ろしたとしても、あの‟力”に阻まれて止められるだろう。
(それなら…………)
振り上げた氷の刀身に、一工夫を施す。まあ一工夫と言っても、単純なものになる。刀身の大きさはそのままに、厚みの部分を変更する。ある程度の厚みを持たせていたものを、切断力を強化するために、脆く、簡単に砕ける事がないレベルまで薄く、鋭くしていく。
「ブ、ブモッ!?」
「これならどうだ?」
先程とは違い、一気に右腕を振り下ろす。それに合わせる様に、氷の刀身が先の一振りと比較にならない速度で振り下ろされる。
「ブモォオオオオ!!」
漆黒の猪は再び何かの‟力”を使い、氷の刀身を防ごうとする。余程自信があるのか、それ以外の行動を取る事はない。ならば、その自信ごと斬り裂いてやろう。
氷の刀身が、漆黒の猪の‟力”とぶつかり合う。漆黒の猪は、再び‟力”が氷の刀身を止めてくれると思ったのだろう。だが現実は違う。切断力を強化された氷の刀身は、漆黒の猪の‟力”を易々と突破し、その首に刀身がめり込んでいく。漆黒の猪は、ここで慌てた様に‟力”の強度を高めたが、最早手遅れだ。
「本当に、これで終いだ」
「ブモォオオ―――――」
漆黒の猪は断末魔を上げながら、その命の灯を散らす。氷の刀身の切っ先は完全に下を向いており、その刀身には、漆黒の猪の血がベッタリと付いている。その氷の刀身の切っ先から、血が一滴、ポタリと地面に落ちる。その瞬間、漆黒の猪の首がゆっくりと地に落ちていく。
「…………自分の力を過信すれば、何時か俺もこうなるか」
漆黒の猪の最後を振り返り、自らに対して、改めて自戒の念を込める。周囲の気配を探り、小さな蛇以外の気配を感じなかった事から、ゆっくりと深呼吸を繰り返しながら、再び意識を切り替える。
「凍夜、よくやった」
そんな俺に、紗雪さんが微笑みながら、労いの言葉をかけてくれた。
「凍夜、とりあえず猪の方をサクッと倒してしまえ」
「そんな適当な感じで倒しちゃってもいいの?」
「構わん。それと、力の加減も必要ない。確実に、迅速に終わらせろ」
「………分かった」
どちらが敵で、どちらが味方か分からない。だが状況的に見ても、漆黒の猪が傷ついた蛇を倒した後に俺たちを見逃すかというと、その可能性は低いだろう。それどころか、今でさえも荒々しく興奮している姿から、嬉々として襲い掛かって来る未来が容易に想像出来てしまう。
だとするならば、紗雪さんの言う通り全力を揮い、この漆黒の猪をさっさと仕留めた方がいいな。俺は自分の意識を切り替えて、自身の中にある‟力”を使う。
「――――――!!」
「ブォオオオオオオ!!」
空気中に存在する水分を氷結させて、先端をとがらせた巨大な氷柱を漆黒の猪の周囲に幾つも作り出し、それら全ての氷柱を一気に加速させて同時に放ち、漆黒の猪の体全体に勢いよく突き刺していく。
突き刺さった全ての氷柱は、漆黒の猪の巨大な体を抵抗もなく突き抜け、氷柱の切っ先が地面に深く突き刺さり、巨大な体をその場に固定する。漆黒の猪は激痛に悶えながらも、その場から抜け出そうと必死にもがいている。しかし、地中深く突き刺さっている氷柱はビクともせず、流れる血と痛みが増していくだけで終わる。
再び、空気中に存在する水分を氷結させる。次に形作ったのは、氷で出来た巨大な刀の刀身。その氷の刀身を、漆黒の猪の首の真上に作り出す。俺は、右腕を真上に上げていく。すると、氷の刀身の切っ先が右腕の動きに連動し、真上に上がっていく。それを見た漆黒の猪は、さらに激しく体を動かし、必死に逃げようとしている。
「フゴッ!!フゴッ!!ブモォオオオオ!!」
「――――これで終わりだ」
スーッと、右腕を下に下ろす。その動きに連動し、切っ先を真上に向けていた氷の刀身が、一気に振り下ろされる。そして、漆黒の猪の首に氷の刀身が触れたと思ったその瞬間、何かの‟力”によって氷の刀身の動きが止められていた。
「?」
「プギッー!!」
漆黒の猪が、嘲りが含まれた笑みを俺に向けてくる。得意げなその様子から、その‟力”は漆黒の猪にとって奥の手、もしくは、それに類似する様なものなのだろう。
再び右腕を上に上げて、氷の刀身の切っ先を真上に振り上げ直す。だが、このままもう一度振り下ろしたとしても、あの‟力”に阻まれて止められるだろう。
(それなら…………)
振り上げた氷の刀身に、一工夫を施す。まあ一工夫と言っても、単純なものになる。刀身の大きさはそのままに、厚みの部分を変更する。ある程度の厚みを持たせていたものを、切断力を強化するために、脆く、簡単に砕ける事がないレベルまで薄く、鋭くしていく。
「ブ、ブモッ!?」
「これならどうだ?」
先程とは違い、一気に右腕を振り下ろす。それに合わせる様に、氷の刀身が先の一振りと比較にならない速度で振り下ろされる。
「ブモォオオオオ!!」
漆黒の猪は再び何かの‟力”を使い、氷の刀身を防ごうとする。余程自信があるのか、それ以外の行動を取る事はない。ならば、その自信ごと斬り裂いてやろう。
氷の刀身が、漆黒の猪の‟力”とぶつかり合う。漆黒の猪は、再び‟力”が氷の刀身を止めてくれると思ったのだろう。だが現実は違う。切断力を強化された氷の刀身は、漆黒の猪の‟力”を易々と突破し、その首に刀身がめり込んでいく。漆黒の猪は、ここで慌てた様に‟力”の強度を高めたが、最早手遅れだ。
「本当に、これで終いだ」
「ブモォオオ―――――」
漆黒の猪は断末魔を上げながら、その命の灯を散らす。氷の刀身の切っ先は完全に下を向いており、その刀身には、漆黒の猪の血がベッタリと付いている。その氷の刀身の切っ先から、血が一滴、ポタリと地面に落ちる。その瞬間、漆黒の猪の首がゆっくりと地に落ちていく。
「…………自分の力を過信すれば、何時か俺もこうなるか」
漆黒の猪の最後を振り返り、自らに対して、改めて自戒の念を込める。周囲の気配を探り、小さな蛇以外の気配を感じなかった事から、ゆっくりと深呼吸を繰り返しながら、再び意識を切り替える。
「凍夜、よくやった」
そんな俺に、紗雪さんが微笑みながら、労いの言葉をかけてくれた。
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