誰もシナリオを知らない、乙女ゲームの世界

第334話

「クソが!!」

　いくらグリフォンと融合して魔人となったとはいえ、自慢の羽が自身に襲い掛かってくる事は脅威である様で、思考停止していた頭と体を動かし、緑の小さな竜巻を消し去り焦った様に回避しようとする。しかし、弾丸の如き速度で跳ね返ってくる無数の羽、自分の攻撃がそのまま帰ってくるとは予想外だった様で、思考停止していた分僅わずかに反応が遅れる。
　その僅かな反応の遅れは、弾丸の如き速度で迫る無数の羽や、目まぐるしく戦況が変わる高レベルの戦闘においては、致命的なまでの遅れとなる。グリフォンと融合した男は回避という選択をしたが、その致命的な反応の遅れによって、跳ね返ってきた無数の羽を完全に回避する事は出来ない。

「仕方ない!!」

　グリフォンと融合した男は、跳ね返ってきた無数の羽を回避する事を諦め、自身の翼に濃密で膨大な魔力を纏わせて、その翼で自身を包み込むかの様に前方にもっていき、盾代わりにして防ごうとする。膨大で濃密な魔力は翼全体だけでなく、羽一枚一枚にも纏わせる事で防御力をさらに上げ、自慢の羽であっても容易に貫けない盾へと翼を硬化させている。
　だが、ジャック爺たちが無数の羽に何もせずに、そのままそっくり跳ね返すだけで終わらせる訳がない。無数の羽をミスリルで包んで威力を殺した時、魔力伝導率が非常に良いミスリルを通して無数の羽の魔力を逆算して支配し、そこにジャック爺たちの魔力をさらに上乗せして強化した。
　なので、今グリフォンと融合した男に迫っている無数の羽の威力は、グリフォンと融合した男の想定よりも遥かに高い。魔力制御の甘い部分があれば、盾代わりにしている翼を貫通し、魔人となった肉体に深く突き刺さるだろう。

（魔人の回復力から考えて、致命傷に至るかまでは分からない。だが貫通した羽の数が多い程、再生するまでに時間がかかるくらいの傷にはなるはずだ）

　羽一つ一つの大きさは、グリフォンの羽である事からそこそこに大きい。獣人の様な姿をしているとはいえ、もしそれらの羽が全て突き刺さったとしたならば、グリフォンと融合した男にとっても痛手となるのは間違いない。いくら再生能力が高いといえど、傷の数が多く深い程に、再生能力が分散して速度が遅くなるからな。

「グッ!!ガッ!!……ガハァ!!」

　ジャック爺たちが跳ね返した無数の羽が、魔力制御の甘い部分を簡単に貫いていき、グリフォンと融合した男の身体に深く突き刺さっていく。完全に翼の盾で防げると思っていたのか、グリフォンと融合した男は痛みと混乱が混ざった状態となる。
　そうなると、さらに魔力操作・制御が甘く緩くなっていく。そこに、時間差で放たれた強化された羽たちが襲い掛かっていく。そして、魔力による硬化が弱くなった翼の盾を次々に貫いていき、グリフォンと融合した男の身体全体に深く突き刺さっていく。
　腕・脚・腹・胸と至る所に羽が突き刺さり、グリフォンと融合した男の身体は蜂の巣状態となっている。ここまで幾つもの傷が出来ていれば、グリフォンの再生能力といえど、全ての傷を再生させるのに相応の時間が掛かる。ここが攻め時かと頭の片隅で考えた時、グリフォンと融合した男の全身から猛烈な風が吹き荒れ、暗き闇の魔力が勢いよく溢れ出してくる。
　吹き荒れる猛烈な風によって、全身に深く突き刺さっていた全ての羽が吹き飛び、溢れ出した暗き闇の魔力によって、無数の羽で深く突き刺した傷が再生していく。それこそ、無数の羽に深く突き刺された事すらもなかったかの様に。

（そう甘くはないか）
「跳ね返してきたのは予想外だった。……だがこの程度で、偉大なる主様に認められた俺がくたばる訳ないだろう!!」