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第330話

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 魔力感知や気配を探りながら階段を降りた結果判明したのは、この階層で待ち構えている敵に関しては前者のパターン、つまりはギャグ寄りの四天王の立ち位置なのかもしれないという事だ。
 階段を降りている最中に仕掛けられる事もなく、降りきった直後に奇襲を仕掛けられる事もなかった。ミスリルゴーレムと融合した男と同じく、この階層で待ち構えていた敵も、俺たちの事を見下し舐めているという事は間違いないな。まあ、それならそれで敵の油断や隙を突いて攻撃しやすいから、俺たちにとってしてみれば良い事だ。

「どうやら、最初の男を倒した事を何とも思っておらんようじゃな」
「寧ろ、私ら如きに負ける様な弱者とか思っていそうじゃ」
「暗き闇に従っている連中、皆してプライドが高そうでしたからね。ローザ様の言う通り、仲間の事を本当にそう思っていそうですね」

 ローザさんやカトリーヌの言葉に、イザベラたちも同意する様に頷いている。確かに、教会の入り口からここまで戦ってきた奴ら全員、プライドの高い奴しかいなかったからな。暗き闇を信仰する者同士ではあっても、基本的には他人や潜在的な敵という意識であり、一度でも誰かに負けた者や失敗した者は見下しているんだろうな。
 そんな事を思っていると、ミスリルゴーレムと融合した男と同じ様に、奥の方から男の声が聞こえてくる。ミスリルゴーレムと融合した男は、年齢が三十代くらいと思わせる声であったが、今聞こえてきた声は二十代くらいかと思わせる若い声であった。

「あいつ、本当に失敗したんだ。老いぼれ二人に、若い女が一人。それに残りがガキばっかりなのに負けるなんて、本当に使いないおっさんだったな」

 失望・嫌悪・嘲笑ちょうしょうといった感情で、ミスリルゴーレムと融合した男に向けて若い声の男が言う。そこには暗き闇を信仰する仲間としての感情はなく、目障りな奴が消えてくれたという喜びの感情しか感じられない。

「まあ、いいか。あいつの尻拭いは死んでも嫌だが、状況が状況だからな。ここで俺が、お前らを殺す。偉大なる主様の下には行かせない」

 そう言って奥から姿を見せたのは、グリフォンであった。
 グリフォンとは、獅子の胴体にわしの頭部と翼を生やしている、極めて獰猛どうもうな肉食の魔物だ。獅子の非常に高い膂力りょりょくと、鷲の優れた視力と飛行能力を兼ね備えている、高ランクの魔物の中でも上位に位置する戦闘能力を有している。
 そんな高ランクの魔物であるグリフォンが、獣の様な四足歩行での移動ではなく、人間の様に二足歩行をしてこちらに近づいてきている。というよりも、グリフォンが人型に変化している様に見える。ケンタウロスの様な半人半獣の姿ではなく、獣の姿でありながら人間の骨格や関節を有する、獣人と呼ばれる存在に酷似こくじした姿に。

(魔人である事は間違いないが、まさか獣系統の魔物と融合すると、獣人そっくりの姿になるとはな)

 この世界にも、エルフやドワーフ、獣人といった人間以外の種族も存在している。アイオリス王国は人間が多く住んでいる国家なので、エルフやドワーフに獣人といった他種族を見る事はほどんどない。
 そしてエルフなどの他種族には、それぞれ生まれ持った強みがある。その中でも獣人は、獣の力を身に宿す事から身体能力が非常に高く、身体が頑丈で感覚が鋭い事で有名だ。そんな獣人に酷似している姿となった、グリフォンと融合した男が魔人となった事で強化された部分が、獣人と同じではないとは断言できない。

(特に厄介なのが、ミスリルゴーレムにはなかった優れた飛行能力だな)
「俺は上にいた弱者とは違う。人間を超えた圧倒的なこの力でもって、お前たちの心を折って絶望へと叩き落す」
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