誰もシナリオを知らない、乙女ゲームの世界

Greis

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第317話

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「ガァアアアア――――!!」

 オーガがオーガたる所以の、身も心も凍えさせる様な凶暴で凶悪な咆哮を上げる。空気がビリビリと震え、周囲の木々や地面、教会の建物もその咆哮で大きく揺れている。自身の咆哮の調子の良さが分かったのか、粗暴な男から肉体の主導権を奪い取ったらしきオーガは、ニタリと顔を歪めて満足そうにわらう。

『どうやら、肉体の主導権をあの男からオーガが奪ったようですね』
『やはり、アモル様もそう思いますか?』
『ええ。明らかにあの男と雰囲気が違い過ぎますから。あの雰囲気は、人には出せない魔性に満ちています』

 アモル神がそこまでハッキリと断言するという事は、俺の予想通り粗暴な男の身体の主導権を、オーガが粗暴な男から奪い取ったのだ。どうやってやったのかとか、意識や存在が残っていたのかとか色々と疑問はあるが、現実として目の前で起こっている事が全てだ。
 恐らくだが、魔人という新たな種の根幹部分を為す魔物と人間の融合という部分が、この主導権を奪い取るという現象を引き起こしたのだろう。魔物の魔石と人体の融合、これが起きた時に何らかの影響で魔物の意識がよみがえり、虎視眈々と粗暴な男から身体を奪える機会を狙っていたのだろう。

「グァアアアア――――!!」

 オーガは再び咆哮し、僅かに膝を曲げて腰を落としたと思ったら、次の瞬間にはその姿を掻き消した。
 魔力感知の範囲内に反応あり。魔力の反応があった位置は、前後左右ではなく上空。オーガは、一瞬で姿を掻き消して一気に空へと跳び、上空から奇襲する事を選択した。上空に跳び上がったオーガは、クルリと身体を縦に一回転させて上下反転、空間を蹴って加速して頭から一気に急降下。そして、標的である俺に近づいてきた時に再び身体を縦に一回転させ、その勢いのままかかと落としを振り下ろしてくる。

「ガッ!!」
(正確に、最小限の動きでもって頭部を狙った一撃。大雑把で力任せなオーガに出来る芸当じゃない。融合した影響から、あの男の、人間の知能がオーガにもあるのか)

 そんな風にオーガの動きを観察しながら、振り下ろされた踵落としを避ける。俺に避けられたオーガの踵落としは、そのまま地面へと目にも止まらぬ速さで叩きつけられる。踵落としの一撃の威力は凄まじく、地面に大きくひびが入り、次の瞬間には爆発した様に地面が深く陥没かんぼつし、漆黒の炎の超高温によってガラス化する。
 俺は踵落としを振り下ろし終わった後の、オーガの一瞬の間を狙って一気に距離を詰め、目にも止まらぬ速さでロングソードを振るい、その太い首を切り落としにいく。しかし一瞬の間を狙い、尚且つ一閃の一振りであるにも関わらず、野生の直感というべきもので察知された。迫りくるロングソードの刃に対して、一瞬で背中を大きく反らして体勢を変え、ギリギリではあるが一閃の一振りを完璧に避けられた。

(それなら――――)

 一閃の一振りを避けられたのなら、次は二連撃で狙いにいく。それでもダメならば、三連撃・四連撃と数を重ねていくまでだ。

「――――!!」
「――ガァ!!――――グォ!!」
「――フッ!!」
「――――ゴァ!!」

 二連撃・三連撃・四連撃と重ねていくが、それら全てを野生の直感でギリギリで避けられた。とはいえオーガも無傷とはいかず、二連撃目から身体に傷を負っている。三連撃目や四連撃目に至っては、先程の一振りによる大きくて深い傷とまではいかないものの、それなりに血を流すレベルの傷を負わせた。
 だが、それらの傷も再生能力で直ぐさま再生されてしまう。自身の状態をオーガも把握出来ている様で、傷を受けて血を流していても、精神状態が安定して余裕を保っている。やはり人間の知能を持ち合わせている事から、短気で激高して単調になったりせず、冷静に周囲や俺という敵を観察している。

(オーガが身体の主導権を奪っても、肉体の強度が変わった訳じゃない。少々厄介だが、問題は全くないな)
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