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第290話

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 ローラ嬢の自慢という名の雑音は、建国祭が近づけば近づく程に大きくなり、魔法学院外にもその情報が広まっていった。声高々にローザ嬢が自慢をしていたからというのもあるが、取り巻きの貴族令嬢たちや派閥に属している生徒たちが、ローラ嬢の素晴らしさを広める為にもと魔法学院外に広めてしまったのだ。
 まだアモル教から大々的な宣伝せんでんがないのに、関係者以外極秘の扱いになっているであろう今回の情報を、安易に第三者に広めてもいいのだろうか。まあ、アモル教のトップである教皇がローラ嬢と手を組んでいるのだから、寧ろ逆手に取って最大限利用するくらいは考えるか。それくらいしたたかでないと、一国の国教である宗教のトップは務まらないのだろう。
 俺たちとしても、ただ黙って傍観している訳にはいかない。カノッサ公爵家と親しい司教さんたちに連絡を取り、建国祭当日のローラ嬢の動き、回復魔法による治療についての情報を収集した。そして情報収集した結果分かったのは、事前にローラ嬢が回復魔法をかける相手が決められており、その中に一人も市井の人がいなかったという事だ。

「ローラ・ベルナールは、偽りとはいえ聖女であるという自覚はないのか?」

 収集した情報が記された書類の束を読み終えたローザさんが、呆れた様にそう言ってため息を吐く。その反応はローザさんだけでなく、カノッサ公爵夫妻やジャック爺も同じ反応をしているし、イザベラたちやカトリーヌさんもそうだ。
 権威による身分差のあるこの世界において、持つ者たちが優遇されてしまうのは理解する。それでも、回復魔法をかける対象に市井の者が一人もいないというのは、アモル教が掲げる博愛はくあいの教義に反している。さらに言えば、その回復魔法をかけるのが偽りとはいえ聖女であるというのも問題だ。
 聖女ジャンヌは、患者かんじゃに対して個人的な好き嫌いの感情はあったものの、それでも治療が必要だと判断した者には惜しみなく回復魔法を使用して、患者を助けたとアモル神から聞いている。この事はアモル教の記録にも残っているので、教皇と上層部の連中も知っているはずだ。
 知っている教皇や上層部たちが、回復魔法をかけて癒すのを王侯貴族だけとした事は、聖女ジャンヌの回復魔法使いとしての行いを否定するものであり、その聖女ジャンヌを選んだアモル神をも否定するものとなる。それはアモル教としては、絶対にしてはいけない事。教皇と上層部たちは、本当に愚かな選択をしたものだ。

「まあ、ある意味よかったのかもしれんの。暗き闇がローラ・ベルナールに授けた力が、戦う力のない者たちに向けられずに済むんじゃから」
「確かにそうだね。王都の人々には悪いけど、暗き闇の力に変な影響を受けるくらいなら、初めから除外されている方が何もなくていいよ」
「申し訳ないですけど、今年は諦めてもらうしかありませんね」
「その代わりに、何かあれば選ばれた者たちが引き受けてくれるわよ。どうせ選ばれた連中は、教皇や上層部の息のかかった連中か、回復魔法をかける事で引き込む連中でしょうしね」
「日々逞しく生きておる者たちが犠牲になる可能性があるのなら、欲深く愚かな連中に犠牲になってもらうのがいいの。この国を守る者たちの中に、守るべき国を脅かす愚か者は一人としていらんわ」
「ローザの言う通りじゃの。愚か者は愚か者同士、滅ぶときは共に連れ立って滅んで欲しいものじゃ」
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