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第284話

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 影の方たちがアモル教に潜入し、色々と情報を集めてくれている中、俺たちは聖獣であるアセナ様を訪ねて古き森へと来ていた。今回判明した教皇に関する衝撃的な情報を、アセナ様にも伝えて共有する為だ。
 勇者や聖女ジャンヌたちとの戦いから、暗き闇は聖獣たちの事を正しく脅威として認識し、アモル神たち神々同様に最大限の警戒をしている。そんな警戒対象になっているアセナ様と、暗き闇に関する最新の情報を共有しておくのは最優先事項であり、絶対におこたってはいけないものだ。

『なる程。愚か者によって、この森が踏みにじられる可能性があるという事か』
「はい。アセナ様を含めた聖獣を危険視している暗き闇ならば、その手を使ってくる可能性は高いです」
「この国の貴族たちの中には、元からこの森の事をよく思っていない者たちもいます。その者たちの心を利用して、この森を踏み荒らそうとするでしょう」

 教皇がアルベルト殿下に何かを仕掛けた事から、王族たちを利用して古き森をよく思わない貴族たちを使い、アセナ様がいる古き森に手を出す事も考えられる。そうなった時、アセナ様は躊躇ためらう事なく力を揮って退けるのは分かっている。        
 だが、情報がないままに奇襲きしゅうされるのと、情報がある状態で待ち構えるのとでは大きく違う。暗き闇が奇襲の際に何かを仕掛けてくる可能性、使い捨ての者たちに何か魔法をかけていたり、魔道具の様な物を持たせている可能性もある。
 奇襲を仕掛けてくるという事を事前に知り、暗き闇が重ねて仕掛けてくる事も想定の内にあるのならば、アセナ様にとっての弱い群れとの戦いであったとしても、一切の油断をせず隙を見せる事は絶対にない。聖獣であるアセナ様が一切の油断も隙もないのならば、暗き闇の思惑通りに進む事はないだろう。

「他の聖獣の方たちの様子はどうですか?暗き闇から何か仕掛けられていませんか?」
『この森から近い場所にある、各々が守護している仲間たちの所に、一・二回程少なくない人間が立ち入ってきたらしい。人間たちは武装していたが、仲間たちに襲い掛かる事はせずに、特に何かする事なく守護している所から退いたそうだ』
「目的としては、聖獣が守護している場所と、聖獣そのものの調査といった所でしょうか」
『恐らくはな。ただ、守護していた場所を荒らされた仲間もいた様で、その怒りをしずめるのに苦労したぞ。あのまま怒りを鎮められなかったら、荒らした愚か者たちを地の果てまで追いかけて、誰が見ていようとも構わずに始末していただろうな』
「アセナ様、後で守護している場所を荒らされた聖獣様が、どんな聖獣なのか教えてください。俺たちからも何かしら友好の品を用意して、ご挨拶あいさつうかがいたいと思っているので」
『ああ、構わんよ。私の方で仲間たちの機嫌を確認して、機嫌が良かったら仲間の元に連れて行こう。それでいいか?』
「はい、構いません」

 アセナ様とそんな約束を交わした時、アセナ様の傍に魔力が濃密な魔力が集中し、空間の一部が大きく歪み始めた。俺たちはその空間の歪みを、驚きと困惑と共にジッと見つめ続ける。この現象はアセナ様にとって何時もの事なのか、大して気にする様子もなく、最初に出会った時と同じく地面に寝そべったままだ。
 そんな突然現れた空間の歪みから、驚くべき事に大きな鹿の左足が出てきた。そのまま流れる様に右足、顔や角といった頭部、胴体から両足といったものが空間の歪みから現れた。空間の歪みが消え去り、そこには何事もなかったかの様に元の空間に戻っている。
 空間の歪みから現れたのは、生物としての圧倒的な格と魔力を放つ見覚えのある一頭の鹿。その鹿は俺と視線が合うと、こちらにゆっくりと近づいてきた。

『久しいな、ウォルター』

 空間の歪みから姿を現したのは、ナタリーの故郷にある森で出会った、森の主であり守護者の聖獣であるケルノス様だった。
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