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第282話

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「儂らも歳じゃから、あの愚か者の気持ちも分からんでもない」
「そうだね。当たり前の事だけど、若い頃に比べて身体は思う様に動かなってきているし、体力も大分落ちて自分が衰えたという実感がある。若返る事が出来るのならと、ふとした時に思う事は幾度かあるよ」
「ローザ様はそう言いますけど、まだまだ元気で現役ですし、下手したら一族の若い人よりも動いてますよ。私たちから見ると、全然衰えている様には見えません。同年代の方たちと比べても飛びぬけて若々しいですから」
「……ありがとうね。そう言ってくれて嬉しいよ」

 この一連の反応が、教皇の衝撃的な情報を伝えた直後のジャック爺たちの反応だった。若い世代のカトリーヌは、イザベラたちと同じく呆れの感情が強く、馬鹿な事をしたなといった様子を見せた。そしてジャック爺とローザさんの反応なのだが、イザベラたちの様な呆れでも、カノッサ公爵夫妻やラインハルト王弟殿下、レギアス殿下たちの様な強い怒りでもなかった。
 ジャック爺とローザさんの反応は簡単に言えば、永遠を願った教皇に対する共感だった。しかし、共感してしまうのも無理はない。ジャック爺とローザさんが言っていた様に、永遠を願い暗き闇と取引した教皇と同じく、この世界における高齢者と分類される年齢まで長く生きているからだ。老人と呼ばれる世代に自分たちもいる事から、教皇の老いに関する気持ちや悩みが分かってしまうのだろう。
 だがジャック爺とローザさんは、教皇とは違う道を選んだ。自身の老いと折り合いをつけて受け入れ、若い世代に自分たちの知識や経験を伝える役割を買って出て、世界に生きた証を残すという選択をした。だからこそ、永遠を望んだ教皇に共感しつつも、暗き闇と取引した事に憐憫れんびんの情を感じているんだろうな。

「あの暗き闇との取引じゃぞ?ロクな結末にならんのは目に見えておる」
「そうじゃな。このまま教皇が暗き闇との取引内容を達成したとしても、暗き闇によって永遠の命という願いが叶えられる事はないじゃろう。上手く利用されて、駒として使えなくなるまで使い潰されて終わりじゃな」
「まあ、取引自体暗き闇の方が圧倒的に優位ですからね。誰かと取引や契約をする時には、その内容をしっかりと確認しておかないと、利用されるだけ利用されるのが世の常ですから」
「流石は現役高位冒険者、世の中というものをよく知っておるの」

 カトリーヌさんは高位冒険者となるまでに、いも甘いも経験してきたと俺たちは聞かされた。その中で特に口酸っぱく言っていたのが、依頼を受ける時にしっかりと内容を確認する事だった。どれだけ簡単だと思った依頼でも、自分が納得するまで詳細に内容を聞いて確認しておかないと、後で難癖を付けられる事もあるから注意しないといけないと。

「教皇は自分の欲に負け、冷静な判断力を失い、何の確認もせずに暗き闇と取引を行った。証拠を残さぬ為に取り交わした証書もないだろうし、そもそもの話からして、暗き闇相手に証書が有効であるかも分らぬしな」
「暗き闇に切り捨てられて死のうとも、儂らに倒されて命尽きようとも、教皇がどの様な結末を迎えたとしても自業自得としか言えん。最期さいごを迎えた時に誰かを恨むのならば、取引内容についてよく確認もせず、永遠の命という分相応な欲を求めた自分を恨んで欲しいの」
「逆恨みだけはごめんですね」
「ははは、そうじゃのう」
「確かにの。カトリーヌの言う通りじゃ」

 精神的に不安定になるのを危惧していたジャック爺とローザさんの二人が、一番穏やかな様子で終わることが出来たので、俺とアモル神もホッと一安心する。

『暗き闇が教皇に接触したという事は、確実に大きな動きがあるはずです』
『もしかしたら、暗き闇が封印されている場所が、その大きな動きで分かるかもしれませんね』
『ええ。私もその可能性は高いと思います。気を引き締めて事にのぞみましょう』
『了解です』
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