上 下
232 / 348

第232話

しおりを挟む
 アイオリス王国王都には、古き時代から残っている広い森がある。その森は古の勇者が愛した森であり、自らの死後においても子や孫、さらには末裔たちにも手を入れる事を禁じた遺言ゆいごんを残した場所。王族たちは古の勇者の遺言を今も守り続けており、その姿は古の勇者が生きていた頃から変わっていない。そして、古の勇者が愛したその森こそが、俺たちが聖獣に会うために向かう目的地だったのだ。
 この古き森には、ある特殊な魔法が森の主たる聖獣によってかけられている。その特殊な魔法とは、古の勇者の血を引く直系の王族たちや、傍系ぼうけいである公爵家の者などが望まなければ、古き森の中に立ち入る事が出来ないというものだ。この特殊な魔法の事は、聖獣の存在を隠すために古の勇者が森にかけた事になっており、聖獣が古き森に存在している事を知る者は、王族の中にも公爵家の中にもいなかった。アモル神からも、関係者以外には絶対にこの情報を開示しない様にと、神としての厳重げんじゅう警告けいこくをされた。

「ここが……鎮守ちんじゅの森」
「イザベラもマルグリットも、この森に来るのは初めてなの?」
「ええ、初めてです。私たちだけでなく、お父様やお母様たちの世代や、お爺様たちの世代の方々も来た事がないかたが大半だと思います」
「鎮守の森に関しては、王族や公爵家にとって神聖不可侵しんせいふかしんの場所だという認識が強く、余程の事がない限りは近づく事もありません」
『森の主である聖獣が放つ魔力や威圧を受けて、無意識にこの森に近づかない様にしていたのでしょう』
「なる程」
『今は分霊とはいえ神々の一柱である私がいる事や、ケルノスの気配や魔力を感じさせているウォルターさんがいるので、この森の主であるアセナも多少力を弱めてくれています』
「力を弱めてくれているという事は、そのアセナ様は、俺たちの事を一応歓迎してくれていると考えていいんですかね?」
『今は、ウォルターさんたちを見極めようとしている段階の様です。なので、いきなり攻撃を仕掛けてくる事はないとだけは言えます』
「分かりました。じゃあ皆、行きましょうか」

 この古き森は、ケルノス様と出会った時と同じ様に、普段は普通の森と変わらないといった感じだ。ただケルノス様の時と違うのは、森に入ってから直ぐに感じ始めた、常に誰かに見られているという感覚。その視線は俺たちを静か見守りつつ、この森に害をす存在なのかを冷静に観察している。

「アモル様、どうすればいいんでしょうか?」
「このまま森の中心に向かって進みましょう。感じられる魔力から、アセナは森の中心にいる様です。恐らくは、そこで私たちが来るのを待っているんでしょう」
「了解です」

 アモル神のアドバイスに従い、俺たちは森を傷つけない様に気を付けつつ、静かに森の中心へと足を進めていく。この古き森には、主であるアセナ様以外にも生物がいる様で、時折アセナ様以外の視線も感じる事がある。アセナ様以外の生物が森にいる点などは、ケルノス様が主となっている森と同じ様だ。
 特にアクシデントやハプニングが起こる事もなく、俺たちは樹齢じゅれい数百年もある様な一本の木を中心とした、大きく開けた場所に辿り着いた。どうやらここが、この森の中心となる場所の様だ。そして樹齢数百年もある様な一本の木のそばには、木にう様にそべっている、全身真っ白な体毛に青空のような色のたてがみを持つ、一匹の巨大なおおかみがそこにいた。

『ようこそ、私の森に。アモル神にその愛し子たち、そしてあの堅物かたぶつのケルノスが認めし強き剣士よ。この森の主たる私が、お前たちの来訪らいほう歓迎かんげいしよう』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。 勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。 ――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。 ――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。 これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。 ######## この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

女神に嫌われた俺に与えられたスキルは《逃げる》だった。

もる
ファンタジー
目覚めるとそこは地球とは違う世界だった。 怒る女神にブサイク認定され地上に落とされる俺はこの先生きのこることができるのか? 初投稿でのんびり書きます。 ※23年6月20日追記 本作品、及び当作者の作品の名称(モンスター及び生き物名、都市名、異世界人名など作者が作った名称)を盗用したり真似たりするのはやめてください。

処理中です...