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第193話

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 最初の騒めきとは違う意味の騒めきが起こる中、意識を失い戦闘続行不可能となって敗れたアルベルト殿下は、担架に乗せられて闘技場から去っていった。その様子を、陛下は椅子から立ち上がって立ち尽くし、王妃や王族たちは座り込んだまま呆然ぼうぜんと見つめ続けていた。可愛がっている息子が敗北したショックで、陛下は力なく椅子に座り込み、それを王妃が優しく慰めている。陛下はショックが大きすぎたのか、心なしか一気に老け込んだように見えてしまう。
 そんな騒めいている闘技場内で、ジャック爺やイザベラ嬢たちは、俺の勝利に喜んでくれている。イザベラ嬢たちは俺に向けて手を振ってくれるので、皆に向かって手を振り返して応える。

(まずは一勝。次が誰が出てくるかは分からないが、俺のやる事は変わらない)

 未だ落ち着かない闘技場内を半ば無視する形で、審判を務める男性が次の決闘へと進めていく。確かに、この騒めきが収まるまで待っていると、相当な時間がかかる事は間違いないからな。俺は特に異議を申し立てる事もなく、審判を務める男性の進行に従って、決闘前に立っていた位置に戻って相手を待つ。
 そして暫く間待った後に現れたのは、アイオリス王国の貴族の頂点である公爵家の一つ、カルフォン公爵家の次期当主であるマルク・カルフォンだ。事前に聞いている情報では、運動神経抜群で成績優秀な文武両道の才人であるとの事。魔法の腕前も相当に優秀で、剣や槍を使った近接戦闘もこなせるという話だが、実際の所どうなのかは戦って見ないと分からない。
 そんなマルク殿が身に纏っているのは、アルベルト殿下が身に纏っていたものの色違いで、エメラルドにプラチナブロンドのラインが入った軍服風の服だ。こちらも要所を守る部分にはミスリルが使われ、両脚に履いている革のブーツには、高位ランクの魔物の皮が使われている。アルベルト殿下たちは、全員でお揃いの防具を新調した様だ。マルク殿はアルベルト殿下と全く同じ構えを取り、真剣な表情と雰囲気で集中している。

「マルク様、準備は宜しいですか?」
「……うん、大丈夫だよ」
「ウォルター殿は、…………聞くまではありませんね」
「ええ、準備は出来ています」
「それでは、第二戦――――始め!!」

 開始の宣言と共に、マルク殿は一気に後方へと下がって距離を取る。そして、自身の左右と頭上に三つの緑の魔法陣を展開し、膨大な魔力を込めて発動する。発動した魔法陣から圧縮された風の槍を生み出され、高速で回転しながら一気に加速して放たれ、風の渦を巻きながら一斉に迫ってくる。さらに、木剣の剣身に風の属性魔法を纏わせて、木剣を振るって風の刃を時間差で放ってくる。
 時間差で二種類の魔法が迫ってくるが、まずは三本の風の槍の方を対処する。左手に魔力を集めて、大きな天狗てんぐ羽団扇はうちわを生み出し、三本の風の槍に向かって思い切り左薙ぎに振るう。高速で振るわれた羽団扇は、迫りくる三本の風の槍全てとぶつかり合い、拮抗する事なく三本の風の槍を一瞬で掻き消す。そのまま流れる様に羽団扇を振り上げて、二段階目の攻撃である風の刃に向かって叩きつける。叩きつけられた風の刃は、風の槍と同じ様に綺麗サッパリ掻き消される。

(そっちが槍なら、こっちも槍でお返しだ)

 左手に持つ天狗の羽団扇の形を変えながら、膨大な魔力をさらに込めて強化し、その姿を巨大で武骨な槍へと変える。それは正しく、バリスタから放たれる極太な槍だ。正し、相手であるマルク殿を殺さない様に、巨大で武骨な槍の穂先は完全に潰してある。左腕を上に掲げながら右脚を一歩前に踏み込み力を溜め、腰を回転させながら上半身を捻り、巨大で武骨な槍を思いっきり投擲とうてきする。
 巨大で武骨な槍は空気を切り裂きながら進み、マルク殿へと向かって飛んでいく。だが余りの速さにマルク殿の対応が遅れ、魔力障壁を展開するだけで精一杯となり、そのまま巨大で武骨な槍を真正面から魔力障壁で防御してしまう。魔力障壁は膨大な魔力が込められており、数十秒間は拮抗状態を維持していたが、徐々に魔力障壁にひびが入っていく。そして、その罅が魔力障壁全体に広がった時、遂に限界を迎えた魔力障壁が砕け散る。巨大で武骨な槍は、勢いがおとろえる事なくそのまま突き進み、マルク殿の身体へと思い切り突き刺さる。

「グァッ――――!?」
(完全に直撃した)

 だが、それでも巨大で武骨な槍の勢いは一切衰えず、マルク殿の身体を浮かしながら闘技場の壁へと直進する。マルク殿は痛みにもだえながら抜け出そうとするが、空気抵抗によって身体が上手く動かせず、抜け出す事が出来ないままに壁へと激突する。その瞬間、闘技場にかけられている保護の魔法が発動し、直撃による衝撃を大幅に緩和する。そして、巨大で武骨な槍が消え去り、壁に直撃したマルク殿がズルズルと地面へと滑り落ちていく。
 俺はマルク殿が起き上がって反撃してくる事を想定し、警戒状態を解かぬままに距離を取った状態でいる。だが、何時まで経ってもマルク殿が反撃してくる事もなく、その身体に流れる魔力が高まっていく様子もない。それを見た審判を務める男性が一旦決闘を止め、壁に寄りかかっている状態となっているマルク殿に近づいていき、声を掛けながら項垂うなだれている様な形となっている顔を覗き込む。暫くした後、審判を務める男性が俺の方を向いて首を横に振る。その仕草は、決闘の第二試合の終わりを告げるものだった。

「え?…………これで終わり?」
「この決闘、勝者――――ウォルター・ベイルトン!!」

 余りにも呆気ない第二試合の終了に、今度は俺がその場に立ち尽くしてしまう。気絶したマルク殿が担架で運ばれていき、その姿が闘技場から見えなくなるまで、その場から動く事が出来ずに立ち尽くしたままだった。
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