上 下
141 / 348

第141話

しおりを挟む
 レギアス殿下の勝利に、観客たちは大いに沸き上がる。その盛り上がりは、白熱した魔法戦闘を見れた事と、今年の魔法競技大会の優勝の瞬間を見た事が相まって、数日間の中で最も大きな盛り上がりとなっている。……だがそんな楽しいにぎわいの中に、突然強烈な悪意と殺意が混ざり込む。

「ウォルター!!」
「分かってる!!」
「賢者様?ウォルターさん?一体、どうされ…………」
「闘技場にいる観客たちやお嬢さんたちは、儂が守護の魔法を使って守る!!」
「了解!!」
「誰を狙っておるのか分からん!!しかし、今この瞬間を狙ってきたという事は……」
「間違いなく、あの二人のどちらかの可能性が高い!!」
「ウォルター。……最悪の場合、自分の命を優先するんじゃぞ」
「分かってる」

 俺はジャック爺にそう答え、観客席のガラス張りの窓をロングソードで切り抜いて穴を開け、そこから一気に加速して両殿下の元に移動する。それと同時に、強烈な悪意と殺意がさらに強まり、闘技場の空に巨大な魔法陣が展開される。底なしの暗闇の様な漆黒の魔法陣。感じられる魔力も禍々しく、肌をチクチクと刺す様に冷たい。
 空に現れた巨大な魔法陣に気付いた観客たちが、何だ何だと騒めき始める。王城勤めの魔法使いたちが陛下の周りを囲み、巨大な魔法陣に対して警戒する。だが警戒するだけで、魔力障壁を展開する事も、ジャック爺の様に守護の魔法を使う訳でもない。そして陛下も王族たちも、巨大な魔法陣に呆気にとられてその場から動かない。

(せめて魔力障壁くらい展開しろ!!あの大きさの魔法陣から放たれる魔法だぞ!!どう考えても…………きた!!)

 俺が両殿下の近くに到着したと同時に、巨大な魔法陣が禍々しく輝き魔法を放つ。放たれたのは、二筋ふたすじの漆黒のいかずち。どちらも膨大な魔力が込められており、ほんの少しかすめただけも、その部分が消し炭になる事は間違いない。
 そんな二筋の漆黒の雷は、レギアス殿下とアルベルト殿下、闘技場内にいる両殿下に向かって降り注ぐ。まだまだ余力のあるレギアス殿下は、自分で魔力障壁を展開して防ごうとする。だがアルベルト殿下には、そこまでの余裕はなさそうだ。物語でよく書かれる王族や上位貴族の後継者争い、暗殺などといった後ろ暗い事は、アルベルト殿下には無縁のものだった様だ。確実に自分を殺しにくるという初めての状況に、身体が完全に固まってしまっている。

(レギアス殿下の実力ならあの雷は対処出来る。なら…………)

 漆黒の雷から助けるべきは、アルベルト殿下の方だ。俺は再び加速し、アルベルト殿下の傍に移動する。身体強化の魔法を発動して身体能力を上昇させ、ロングソードの剣身に魔力を纏わせて強化し、上段からの振り下ろしの一撃で迎撃する。

「――――ハッ!!」

 身体強化によって強化された視力で動きを捉え、雷速で降り注いできた漆黒の雷を一振りで切り裂く。しかし切り裂かれたはずの漆黒の雷は消えず、切り裂かれた部分が繋がって元に戻り、意思があるかの様に方向転換して、再びアルベルト殿下に向かってくる。
 次は、切り裂くのではなく受け流す。ロングソードの剣身に纏わせる魔力量を増やし、漆黒の雷に向けて左薙ぎに一振りする。ロングソードの剣身に纏わせた魔力と漆黒の雷の魔力が反発し合い、漆黒の雷は軌道を変えて右方向へと飛んでいく。だが、直ぐさま方向転換してこちらへと戻ってくる。
 切り裂く事も受け流しも意味はなし。それなら、漆黒の雷を構成する魔力そのものを切るしかない。魔力感知を最大まで高め、漆黒の雷に意識を集中させる。そして、迫りくる漆黒の雷に対して袈裟切りを振るい、漆黒の雷を構成する魔力そのものを切り裂く。
 漆黒の雷そのものを切っても、直ぐに魔力同士が繋がり合って元に戻る。だが漆黒の雷を構成している魔力そのものを切り裂けば、元に戻る事もなければ、魔法そのものを維持する事が出来ない。魔法を構成する魔力そのものを切り裂かれ、漆黒の雷はスーッと消え去っていく。

「この平和ボケした国にも、それなりにやれる奴がいた様だ」
「……チッ、どうせまぐれだよ。それにあの程度の剣士なんざ、今まで何人も殺してきた。こいつも、俺たちの邪魔するなら同じ様に殺すだけだ」

 上空から人の声が聞こえてきた。声の聞こえた方を向くと、黒いフードで顔を隠し、黒い宗教服を身に纏う二人の人が浮かんでいた。二人から感じられる魔力は、上空に現れた巨大な魔法陣と同じ魔力だ。禍々しく、肌をチクチクと刺してくる冷たい魔力。まず間違いなく、この二人が漆黒の雷を放った魔法使いだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。 勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。 ――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。 ――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。 これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。 ######## この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

女神に嫌われた俺に与えられたスキルは《逃げる》だった。

もる
ファンタジー
目覚めるとそこは地球とは違う世界だった。 怒る女神にブサイク認定され地上に落とされる俺はこの先生きのこることができるのか? 初投稿でのんびり書きます。 ※23年6月20日追記 本作品、及び当作者の作品の名称(モンスター及び生き物名、都市名、異世界人名など作者が作った名称)を盗用したり真似たりするのはやめてください。

処理中です...