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第85話

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「クララお嬢さんの質問の答えるなら、踏み入れた事があるじゃな。お嬢さん方が、魔境の事をどのくらい知識として知っておるのか分からんが、あそこは本当に地獄の様な場所じゃ。ほんの一瞬でも気を抜けば、死神が儂の命を、魂を刈り取りにくるじゃよ。
「「「「「…………」」」」」

 ジャック爺が、超一流の魔法使いとして真剣に語るその姿と内容に、アンナ公爵夫人やイザベラ嬢たち四人は気圧されている。それ程までに、ジャック爺の雰囲気が変わり過ぎている。
 先程までは好々爺の様な朗らかなお爺ちゃんだったのに、今は鋭利な剣の様に冷たい魔法使いになっているからな。付き合いの長い俺ならばまだしも、今日出会ったばかりのイザベラ嬢たちからすれば、突然過ぎてビックリしただろうな。

「ジャック爺、余りの変わり様に皆驚いてるよ」
「おっと、いかんいかん。アンナ夫人も、お嬢さん方もすまんかったの」
「い、いえ。少し驚いただけですから」
「王国最高の魔法使いである賢者様であっても、生き残るのに必死な場所なのですか。では、そんな魔境で生き延びてきたウォルターさんは…………」
「昔から知っていて、可愛がっている子供である事を抜きにしても、ウォルターは化物であると断言出来る。これは、賢者の称号に誓ってもよい。まあ、魔物との戦闘経験が豊富すぎる代わりに、対人戦闘の方が少しばかり経験不足じゃがの」
「賢者の称号に誓う程…………。我が娘ながら、男を見る目があるわね」

 アンナ公爵夫人が何かを言っていた様だが、声が小さくて聞き取れなかった。何を言っていたのか気になったので、俺はアンナ公爵夫人に聞こうとするが、その前にジャック爺が口を開いた。タイミングをいっした俺は、その事についてアンナ公爵夫人に聞くのを諦めた。

「あの地獄の様な魔境を、自分の庭であるかの様に歩けるのは、ベイルトン辺境伯領に何人もおらんの。それどころか、アイオリス王国全体で見ても、両手の数もおらんのではないかの」
「その中に、ウォルターさんが含まれているんですよね?」

 マルグリット嬢の問いかけに、再び好々爺の様なお爺ちゃんに戻ったジャック爺が、頷いて答える。

「ウォルターは、小さい頃から魔境で自らを鍛えておっての。儂と初めて会った時には、既に魔境で魔物を狩っておった。それも、たった一人で」
「「「「「一人で!?」」」」」
「驚きじゃろ?魔境に子供が潜っておった事もそうじゃが、一人で魔物を狩っておったのだからの。それも、月に一体といった成果ではなく、日に少なくとも一体という成果でじゃぞ。浅い層であると言えども、子供が魔境の魔物を狩るという事は、ベイルトン辺境伯領に住む者からすれば偉業であると言ってもよい」
「つまりウォルターさんは、ベイルトン辺境伯領のみならず、アイオリス王国全土を見渡しても類を見ない、最強格の剣士であるという事ですか」

 そう呟くアンナ公爵夫人の両目が、一瞬キラリと眩く光ったように見えた。見間違いかと思い目を擦り、もう一度アンナ公爵夫人を見る。すると今度は、肉食獣が獲物を見つけたかの様な視線で、確実に俺を直視していた。そしてアンナ公爵夫人は、俺に向かってニコリと微笑んだ。
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