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第79話

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 王や王妃たち王族やカルフォン公爵が、魔境と言う場所の恐ろしさを理解した同時刻、もう一つの公爵家の者たちも魔境の恐ろしさを理解させられていた。
 その舞台となるのは、マルグリット嬢の生家となる、ベルナール公爵家の王都屋敷。そしてつい先日、マルグリット嬢の誕生日パーティを行った大広間にて、満身創痍の魔法使いたちからの報告を受けていた。
 その報告の様子は、王族やカルフォン公爵たちが、帰還した者たちから受けていた報告の光景を繰り返しているかの様だった。

「まさか、向かわせた戦力が三分の一にまで減って帰ってくるとはな。彼らは、我が領から選び抜かれたエリートだったのだぞ。魔境とは、そこまでの場所だとでもいうのか?」
「イヴァン様、まずは亡くなった者たちの遺族に…………」
「ああ、分かっている。彼らの家族には、十分な金を渡しておくように。後で色々と騒がれたりでもして、他家の者たちに揚げ足を取られたくはないからな」
「承りました。では、至急その様に取り計らいます。それからもう一つ、亡くなりはしなかったものの、肉体を欠損した者や精神が不安定になった者たちについてはどうなさいますか?」
「その者たちは、ベイルトン辺境伯家にて保護されているのだろう?」
「はい、その様に聞いております」
「こちらから人と馬車をやって、その者たちも我が領へと連れ帰れ。肉体の治療や、精神の治療に関しても我が領で行う。私からも一筆認《したた》めるから、それを持たせてやれ」
「承りました」
「それと、スザンヌとローラを私の部屋へと呼んでくれ。下手に隠し立てして後で癇癪を起されるよりも、私の口から直接伝えて現状を把握してもらう。色々とやる事が多いが、どれも迅速に頼むぞ」
「はい、お任せください」

 去り行く執事の背を見送った後に、ベルナール公爵は深くゆっくりとため息を吐く。そして椅子に深く沈み込みながら、今後の事について色々と思考を巡らせていく。

(我が家がこの有様であるのなら、王族やカルフォン側の戦力も大きな痛手を負ったはずだ。ここまで大きな損害を三勢力共に受けたのなら、派閥の貴族や御用商人を含めて、何処かが抜け駆けする事は出来ないだろう。…………いや、カノッサがまだ残っているか。カノッサや、その派閥の貴族たちがどう動くのか気になるな)
「マルグリットから聞き出すか?あいつはカノッサの娘と仲が良い。……だが、あいつが俺たちに素直に話すと思えんな。我が家の派閥の貴族や御用商人、それからカルフォンを上手く動かして、カノッサの動きを探ってみるか」

 我ながら妙案を思いついたとばかりに、ベルナール公爵はニヤリと笑みを浮かべる。その笑みを浮かべる姿からは、魔境への認識の甘さや見通しの甘さによって、戦力の三分の一を失った事を反省する様子が感じられない。
 やはり親子というだけあって、こういった所はローラととてもそっくりであるベルナール公爵。そして、この反省をしないという事が娘に受け継がれてしまった事が、どれだけ自分たちの首を絞めていく事になるのかを、全くもって理解していないのだった。
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