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第66話

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 マルグリット嬢の美しさに目を奪われていた貴族たちやその夫人たちだったが、マルグリット嬢が一人で階段を降りてきた事や、隣にいるはずの婚約者のアルベルト殿下の姿が見えない事に気付く。するとその口元が歪み、嘲笑が浮かび上がってくる。

(この反応は予想通りだな。しかしこれが奴らの、マルグリット嬢への普段の態度という訳か。傍から見ていると、とても醜悪なものだな。それに気付いている者は…………いないだろうな)

 正直な所、同じ男として、アルベルト殿下にはほんの僅か期待していた。貴族と王族で立場の差はあれど、義務と権利ノブレス・オブリージュに関してはどちらも同じだ。義務を果たさなければ、その権利を享受する資格はない。
 だからこそ王族という国で最も強大にして、多大な恩恵を与えてくれている権利を享受しているのだから、マルグリット嬢を嫌っていたとしても、婚約者としての最低限の義務を果たさなければいけなかった。義務を果たさぬままに何かの権利を主張しようなど、余りにも質が悪すぎる。

「皆さま、今日は私の誕生日パーティーに来てくださり、どうもありがとうございます。短い時間ではありますが、どうぞ楽しんでいってください」

 マルグリット嬢が、主催者であるベルナール公爵家を代表して、この場にいる貴族たちや夫人たちに軽く一礼する。しかしそんなマルグリット嬢を見る目は、貴族たちも夫人たちも冷ややかで見下したものばかりだ。マルグリット嬢はそれらに一切構う事無く、イザベラ嬢やクララ嬢の元へと真っ直ぐに歩いていく。
 大広間が少しざわついている。それも当然か。本日の主役であるベルナール公爵家の長女が一番最初に向かった先が、別の派閥のトップであるカノッサ公爵家のご令嬢の所だからな。通常ならば、ベルナール公爵家の派閥を支えている各貴族の元へと向かい、今後ともよろしくといった挨拶を交わす所だからな。

「イザベラ様、クララさん、今日はお越しくださってありがとうございます」
「こちらこそ、この様な場に招待してくださり感謝いたします。お誕生日、おめでとうございます」
「マルグリット様、誕生日おめでとうございます。これ、私たち二人からの贈り物です」

 イザベラ嬢がそう言って、マルグリット嬢に小さな四角形の箱を差し出す。そしてマルグリット嬢は、イザベラ嬢に差し出された箱を受け取り嬉しそうに微笑む。その微笑みを見て、イザベラ嬢やクララ嬢も微笑んで返す。この光景を見せられた貴族たちや夫人たちは、アンナ公爵夫人やイザベラ嬢たちの思惑通りに、三人の仲の良さというものがどの程度のものなのかを認識させられた。

「今開けてみても?」
「ええ、いいわよ」

 マルグリット嬢は、ワクワクした様子で箱の蓋を持ち上げる。そして中にあった物を見て、歓喜の声を上げる。その喜びはとても大きく、マルグリット嬢が心から嬉しさを感じている事を、様子を伺っていた者たちすらも驚く程だ。

「百合の花の髪飾りに、百合の花の刺繍ししゅうが施されたハンカチです」
「マルグリット嬢の心象しんしょうから、百合の花を選んでみたわ」
「…………とっても嬉しいです。どちらも大切にしますね」

 二人の友達からの贈り物に感極まり、咲いた花のような華やかな笑顔を浮かべる。その笑顔を見たイザベラ嬢たちも、喜んでくれた事に安堵と嬉しさを見せている。
 周囲の貴族たちや夫人たち、ローラたちなどの家族も蚊帳の外で、三人だけで誕生日パーティーを楽しむ空間が出来上がっている。彼ら彼女らの存在は、マルグリット嬢からしてみればいないも同然となっている。まあ最初から祝う気もない連中、普段から自分の事を見下してくる奴らなど、マルグリット嬢からしてみればどうでもいい存在か。

(さて、マルグリット嬢への援護射撃の為にも、俺も行動に移るとしましょうか)
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