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第46章(春雄)小鳥

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 加奈と別れて駅に戻り、春雄は煙草を吸った。それからしばらく駅の周りを歩いた後、家に帰ろうと小さな山の斜面に走る道を歩いていた。


太陽はその高さを少しずつ失い、夕暮れが近づいている。春雄の右側眼下には畑が広がり、さらにその向こうには丘があった。


 変わらないな。まあ、数年で変わるような場所でもないのだけれど。変わったといえば。


 春雄は丘の上にある高校の校舎を見やった。春雄のいる場所からはそれなりに距離があったけれど、高い建物がない上に空気が澄んでいて、その特徴的な西棟の形がはっきりと見えた。


 我らが母校が今や廃校だ。より正確に言えば近くの高校と統合されたらしいが。

 当たり前に存在し続けるものなどない。それは、俺や葵の命もそうなのだろう。


 電磁波事故が起きてから3ヶ月が過ぎた。こんなことがなければ、死ぬことについて考えることなどなかった。いや、考えるどころか、俺は実際に死んでいくのだろうけれど。


 葵を探して、もし仮に見つけたとして、俺はどうする。俺に何ができる。

 そもそも何が俺をここまで動かすのか。それはもちろん『あの目』に俺が取り憑かれているから。そしてあの手紙を読んだから。


 俺はこの世から消える。葵も消える。そのうち敦志達もいなくなる。だがあの事故がなかったとしても、数十年後にはいずれにしろ皆消えて無くなる。さして変わりない。それだけのことなのだ。

 死ぬのは怖いことではない。俺という存在は元々無かった。20年前に俺がこの世に現れて、そうして俺は消えていく。俺が生きていても、何の生産性もない。まあ、多少パチンコ業界の経済を回したかもしれないが。


 そもそも人間社会に貢献している人間に、本当に価値があるのか、そんなことだってわかりはしない。人類が地球を破壊するのなら、地球にとっては人類など害のある種でしかない。結局、人は自分の為に生きているだけ。それなら俺は。



 その時。


 春雄は突然に何かを感じた。


 なんだ。この感覚。前にもどこかで。


 そして春雄の頭の中に声が響いた。



『助けて』



 春雄は立ち止まって高校をじっと見つめた。


 あそこだ。葵はあの校舎の中にいる。どうしてそれがわかるのかわからない。けれどもそう確信できる。

 家に戻って自転車を取りに行くか。いや、ここからなら走った方が。

 死ぬだの生きるだの、さらにはその価値がどうのだの、そんなことは関係ない。俺は葵のところへ行きたいから行くのだ。いや、行くしかない、ただそれだけだ。


 春雄は走り出した。

 風が春雄の背中を押す。小鳥が2羽、春雄の近くを飛んでいた。


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