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第13章(春雄)違和感

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 雨が降り出しそうな雲空の下、春雄と敦志は酷く長い行列に並んでいた。それは大学内に急遽設置された診断所の行列だった。


 敦志が耐えきれないといったように口を開いた。

「進みが遅いよ。まだ20人も診断できてないんじゃないかね。勘弁してよ、ここは夢と魔法の国かな?」

「そうだな。しかも俺達より後ろには何人いるのかわからないくらいだ。これじゃ日が暮れる」

 そう春雄は空を見上げながら答えた。


 診断所が設置されたのは文学部棟、通称4号館の横だった。ここには以前からプレハブ小屋が10棟あり、学園祭などのイベントや教科書販売などで利用されていた。

 そして今は10棟のプレハブ小屋のすぐ近くに、急遽設置されたであろう巨大なテントがあった。骨組みだけ作り、白い布状のもので中が見えないようになっていた。


 敦志が言う。

「あのテントの中で検査して、プレハブ小屋でそれぞれ診断を受ける、っていう感じか。妖精さん達、待っとれよ」


 春雄は驚いていた。敦志が普段と同じようにわけのわからないことを言っている。つまりは調子が戻っているのだ。

 カフェで会った時、案の定敦志は慌てふためいていた。その後2時間近く別行動していたとはいえ、まさか普段通りの敦志に戻るとは思っていなかった。

 慌てて混乱する敦志をどう落ち着かせようかと考えていたのだが、杞憂だったようだ。



 春雄はプレハブ小屋から出てきた人をぼんやりと見やりながら言った。

「それにしてもな。そんな急遽作った診断所とやらで一体何が……、おい、吐いたぞ」


 プレハブ小屋から出てきた男の学生が、ふらふらと歩いた後、地面にかがみこんで嘔吐したのだ。

 その様子を見た行列に並んでいる人々はどよめいた。ひっ、とすぐ後ろの女の子が声を漏らす。嘔吐した学生に、知り合いであろう別の学生が駆け寄った。



 10秒程経った後、敦志がかすれた声で言った。
「二日酔い、なわけないよね、診断を受けてショックだった、ってこと、かな」


 今まで気にしていなかったが、よくよく見てみると診断を受け終わった人達の多くは暗い表情をしている。中にはけろっとしている人や、友達と笑っている人もいるのだが。

 どうやらこの診断所は2週間ほど設置されているようだ。こんなに並ぶのなら明日や明後日でもいいか、と考えていたけれど、さすがにそうもいかないな。



 しばらく待ち、ようやく春雄は巨大な白いテントの中へと入った。敦志は春雄の次であったから、まだ外で待っていた。

 外からはわからなかったが、テントの中は医療機器や多くのモニター、何に使うのか想像もできない機器達で溢れている。地面そのままではない、しっかりとした床も作られていた。


「次の方、こちらで仰向けに寝転がってください。脳波検査と頭部MRI検査を同時に行います」

 白衣を着た女性が春雄に言った。


 看護師さんだろうか。どことなく違和感がある。うまく言えないが、彼女の雰囲気は看護師のそれとはどこか違う。彼女の声は女性にしては低く、鋭く、そして深い、そんな響きを持っている。


 彼女は続けて言った。
「服はそのままで結構です。靴だけ脱いで下さい」

「わかりました」

 春雄は指示されたところに横たわった。


 こういう類の検査を受けたことはないのだが、こんなものなのだろうか。

 確かに頭上にMRIの大きな機器があるけれど、特に体は拘束されないし、脳波検査とも言っていたのにそれらしき器具もつけていない。


「始めます。リラックスしてそのままで。けれど多少動いても構いません。落ち着いて、目を閉じてなるべく楽にしていて下さい」

 彼女はそう言い、検査機器に手をかけた。


「お願いします」

 春雄は目を閉じて言った。
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