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「……被害者の友人にお話を聞こうと思います」
リストに記載されていた名前は、岡田由美由美。新婦友人とだけ記載されている。他に目立つような記載は備考欄にはない。
「いいね、行こうか」
ぱちんと軽く手を鳴らして恭介はスキップでもするかのように部屋を出て行った。
再び披露宴会場に向かい、千夏は岡田由美由美を探す。何度か部屋の中を回ってようやく岡田由美由美を見つけた。彼女は所在なさげに、窓に一番近い席の端にぽつんと一人で座っていた。俯いているせいか、肩に届くくらいの艶やかな黒い髪で横顔が分からない。千夏が近づくと、岡田由美由美はゆっくりと顔を上げた。杉村と同じく状況を掴めていない顔だった。
千夏は岡田由美由美と目線を合わせるために少しだけ屈んだ。
「捜査を担当している刑事の青木と申します。亡くなった吉田さんのお話をお伺いしたいのですが」
「……どうして」
声が小さすぎて続きが聞こえない。
「隣の控室でお話をお伺いしたいので、ご移動をお願いできますか」
「どうして、亜美が死ななきゃいけなかったんですかっ」
弾かれたようなに立ち上がり、叫びに似た声で岡田由美が言った。辺りが一瞬だけ静まり返り、誰も彼もが千夏たちを見ている。
いたたまれない空気の中、千夏は移動を促すように、岡田由美の肩に触れようとするとその手が強く払われた。
「どうしてなんですかっ」
これまで我慢していたのかもしれない。岡田由美は両手で顔を覆って泣き崩れてしまった。
友人の結婚式に来て、友人が殺害される。
想像もしていなかったのが、目の前で起きてしまったことの絶望感。それをずっと我慢していたのかもしれない。他に友人が少しでもいればお互い慰め合いながらならば、こんな状態になることもないはずだろう。
どう対処して良いかわからずいると、いつの間にか隣に立っていた恭介が岡田由美の肩にそっと手を乗せる。
「お辛いかもしれませんが、どうか我々にご協力いただけませんか」
顔が良いと言うのはこういう時に存外役立つのかもしれない。少しだけうるんだ目で見つめていた岡田由美は小さく頷いてから、恭介に導かれるように披露宴会場の中を歩いて行く。千夏も二人について歩いていると、誰かの視線を感じた。視線を感じる方を見ると、茶色に染めたショートヘアに目がぱっちりとした二重の女性がこちらを見ていた。
千夏が彼女を見ると、居心地悪そうな顔をしてそっぽを向いた。あの人は。
「千夏くん、行くよ」
恭介に呼ばれて、千夏が目線を戻した後、再び彼女を見ようとしたが彼女は既に他の参列者に紛れてすぐには見つからなくなってしまった。
諦めて千夏は恭介と岡田由美のもとに小走りで向かった。
「どうしたんだい、立ち止ったりして」
不思議そうに恭介は首をかしげていた。変わらぬ穏やかな表情に、今いるところさえもわからなくさせる彼の雰囲気に、千夏は少しだけ背中に冷たい汗が流れた気がした。
「……ちょっと気になっただけです」
リストに記載されていた名前は、岡田由美由美。新婦友人とだけ記載されている。他に目立つような記載は備考欄にはない。
「いいね、行こうか」
ぱちんと軽く手を鳴らして恭介はスキップでもするかのように部屋を出て行った。
再び披露宴会場に向かい、千夏は岡田由美由美を探す。何度か部屋の中を回ってようやく岡田由美由美を見つけた。彼女は所在なさげに、窓に一番近い席の端にぽつんと一人で座っていた。俯いているせいか、肩に届くくらいの艶やかな黒い髪で横顔が分からない。千夏が近づくと、岡田由美由美はゆっくりと顔を上げた。杉村と同じく状況を掴めていない顔だった。
千夏は岡田由美由美と目線を合わせるために少しだけ屈んだ。
「捜査を担当している刑事の青木と申します。亡くなった吉田さんのお話をお伺いしたいのですが」
「……どうして」
声が小さすぎて続きが聞こえない。
「隣の控室でお話をお伺いしたいので、ご移動をお願いできますか」
「どうして、亜美が死ななきゃいけなかったんですかっ」
弾かれたようなに立ち上がり、叫びに似た声で岡田由美が言った。辺りが一瞬だけ静まり返り、誰も彼もが千夏たちを見ている。
いたたまれない空気の中、千夏は移動を促すように、岡田由美の肩に触れようとするとその手が強く払われた。
「どうしてなんですかっ」
これまで我慢していたのかもしれない。岡田由美は両手で顔を覆って泣き崩れてしまった。
友人の結婚式に来て、友人が殺害される。
想像もしていなかったのが、目の前で起きてしまったことの絶望感。それをずっと我慢していたのかもしれない。他に友人が少しでもいればお互い慰め合いながらならば、こんな状態になることもないはずだろう。
どう対処して良いかわからずいると、いつの間にか隣に立っていた恭介が岡田由美の肩にそっと手を乗せる。
「お辛いかもしれませんが、どうか我々にご協力いただけませんか」
顔が良いと言うのはこういう時に存外役立つのかもしれない。少しだけうるんだ目で見つめていた岡田由美は小さく頷いてから、恭介に導かれるように披露宴会場の中を歩いて行く。千夏も二人について歩いていると、誰かの視線を感じた。視線を感じる方を見ると、茶色に染めたショートヘアに目がぱっちりとした二重の女性がこちらを見ていた。
千夏が彼女を見ると、居心地悪そうな顔をしてそっぽを向いた。あの人は。
「千夏くん、行くよ」
恭介に呼ばれて、千夏が目線を戻した後、再び彼女を見ようとしたが彼女は既に他の参列者に紛れてすぐには見つからなくなってしまった。
諦めて千夏は恭介と岡田由美のもとに小走りで向かった。
「どうしたんだい、立ち止ったりして」
不思議そうに恭介は首をかしげていた。変わらぬ穏やかな表情に、今いるところさえもわからなくさせる彼の雰囲気に、千夏は少しだけ背中に冷たい汗が流れた気がした。
「……ちょっと気になっただけです」
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