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【最終章】管鮑之交
①
しおりを挟む7月になると甲子園大会の予選も本格的に始まり夏本番突入という感じがしてきた。
「今日も暑いなぁ! 外に出るだけで倒れてしまうわ。で、今日の商談の説明は最初任せたで」
運転する東村に言うと、はい、頑張りますと、和希の方を向いて返事した。おいおい、事故するから前向いて運転してくれ! その時、通過しようとした交差点に人が倒れているのが目に入ってきた。
「東村、ちょっと止めてくれ」
交差点を越えたところで車を停車させて、助手席から飛び降りると倒れている人に向かって走った。東村もハザードランプを点灯させ和希に続いた。倒れているのはお婆さんだった。大丈夫ですか? と声を掛けたが意識がもうろうとしている。症状から熱中症のようだ。この暑さだから仕方ない。
「東村、交差点の向こうの日陰に運ぶぞ。運んだら救急車に電話や」
2人でお婆さんの腰から手を回してゆっくり抱き起こすと歩いて交差点を渡った。あと少しで交差点を渡りきるところで信号が変わった。大きなエンジン音がする方を見ると大きなトラックがこっちに向かって走ってくる。運転手は携帯を見ながら運転していて前を見ていない。
▪️*▪️*▪️*▪️*▪️*▪️*
会社の事務所の前の大通りでは立ち並ぶ木々のセミが泣きだして暑さをさらに演出していた。
「夏だね~ 夏真っ盛りになる前に今夜ビアガーデンでも行かない?」
「うん! いいね~!」
澪の提案に二つ返事で返した。
和希にも声を掛けようと営業部の方を見たが席に居ない。予定管理システムで和希の予定を確認すると外出してるようだ。今夜の予定は空白になっているから何も入っていないようなので帰ってきたら和希に声掛けとくね。と由唯に言うと澪は仕事に戻った。
それにしても今日は忙しい。早く片付けてしまわないと飲みのスタートに出遅れるなとギアを入れた時、営業部の方でざわついてるのが目に入ってきた。携帯を片手に本部長の中沢の横で何かを説明している者がいる。周りの課員のみんながそれを見ていた。由唯も異変に気付いて営業部の方へ歩いていった。
「どうしたんですか?」
近くにいた営業部の横川に聞くと、東村と和希が事故にあったらしいと言った。トラックが突っ込んできて、和希が救急車で運ばれたらしい。詳細は不明だが、軽症だった東村からの電話では、和希がトラックに両足を挟まれ身動きができなくなっていて頭からかなりの流血があるらしいことはわかった。それを聞いた由唯は血の気が引いた。澪に振り向くと心配そうにこちらを見ている。すぐに側に駆けより聞いた話を伝えた。
そのまま続報がないまま時間が過ぎていき、事故現場は梅田近辺で近くの総合病院に運ばれたことしかわからない。どうなっているのか考えるが今は心配することしか出来ない。連絡が取れないと思いつつも和希の携帯にメールをうつ。しかし、やっぱり夜になっても既読にならない。会えないだろうと思ったがじっとしているよりはマシだと思い由唯と澪は運ばれたと聞いた病院に向かった。
ナースステーションで和希の容態を聞いてみるが、個人情報は教えられませんと言われた。澪の頬に涙が流れる。それを見た由唯は、大丈夫やから泣いたらあかん。と言う由唯の頬にも大粒の涙が伝った。
「本宮さんと阪上さん?」
暗くなった廊下から由唯と澪を呼ぶ声がした。声のする方を見ると本部長の中沢だった。
「本部長……」
「神楽が心配できてくれたの?」
「……はい」
中沢の話では、トラックに挟まれ右足を骨折して、頭を何針も縫ったので自由には動けないとのこと。事故直後から意識がなかったが、先ほど意識は回復したらしく、今夜は様子をみて明日普通病棟に移るらしい。今夜は会うことは出来ないが明日なら会えるだろうと言うことだった。
明日出直すことになり、由唯と澪と中沢は病院を出た。中沢がご飯でも食べて帰るかと言ってくれた。もっと和希の詳しい容態も聞きたかったので3人で近くの定食屋に入ることにした。
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