「人生の折り返しに乾杯」 ～アラフィフ男女の理想的な関係～

【16】新たなる道に向かって

③

　駅前のロータリーでタクシーを捕まえて天満へ移動した。カラオケ店に入ると和希は飲み物を注文する前からマイクを握りしめ歌いに歌いまくった。和希の熱唱ぶりを見て由唯と澪は、あきれ顔で笑うしかなかった。由唯が《メロディ》を歌うと和希は「しみるー」と言って泣いた。澪が《家に帰ろう》を歌った時は「家に帰るの嫌だ嫌だ」と叫んだ……。

　とても48歳とは思えない子供のような駄々っ子ぶりに面倒くさいおっさんやなー と思う反面憎めないなと思う由唯と澪だった。

　ワンマンショーの和希も2時を過ぎるとさすがに歌い疲れてきたようでマイクをテーブルの上に置いた。待ってました！　とばかりに由唯と澪の昭和懐メロ大会が始まり、その間和希はボーッとモニターを眺め、泣いたりニヤけたりを繰り返した。

　澪と由唯も歌い疲れて眠くなってきたので「そろそろ帰ろうか？」と、腕時計を見ると4時30分。もう少し待てば電車の始発が動き出すがタクシーで帰ることにした。

　3人は大通りでタクシーを捕まえると降りる順番で乗り込んだ。
澪が助手席、和希が後部席の奥で手前に由唯。

　最初に一番家が近い澪が降りて再びタクシーが走り出すと、由唯がもう一度和希に念を押す。

「和希、ちゃんと奥さんと話してくるんやで」
「わかってる」
「ほんまやで？」
「そんなに何回も言わんでもちゃんと話してくるから」
「和希、口ばっかりのところあるから」
「大丈夫。ちゃんと話してくるから」

　由唯がふと前を見ると、運転手とバックミラー越しに目が合った。

（あれ？　私たち不倫してるって思われてる？　奥さんに別れ話をしてこいって言ってると思われてる？）

　由唯は運転手にどう思われてもいいと思いながらも、一応不倫じゃないよアピールをした。

「安易に奥さんと別れたらダメだよ。ちゃんと話してやり直すねんで。また、私と澪が話聞いてあげるからね」
「しつこいよ。わかったから」

　由唯はマンションに着くとタクシーから降りる際に「またねー。ちゃんと奥さんと話するんやで」ともう一度和希に言って見送った。