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【8】由唯のプライベート
①
しおりを挟むバレンタインデーの日、改札で頑張ってねと澪に小さくガッツポーズを送ると、由唯は電車でゴルフレッスンのため京橋に向かった。
若い頃はゴルフのラウンドにも時々行っていたが、ここ数年は年に数回練習に行くくらいだった。最近は女子のゴルフブームもあってテレビを見る機会が増えた。しかも最近は20歳前後の選手が活躍するようになって、可愛くてスタイルもいい。見ていて楽しくなる。そんなブームにも触発された時に小沢からゴルフに誘われ和希と3人でラウンドに行くことになった。
何年かぶりのラウンドが決まると練習にも力が入る。週末になると和希を誘って練習にいったが、イメージ通りにボールが当たらない。たかだか110ヤード先のネットにボールが届かないのだ。
若い時は、ドライバーは160ヤードは飛んでいたのにネットの手前にポトリと落ち続けるから焦る。もっと飛ばそうと力が入るからさらにボールに当たらなくなる。焦るばかりで首をひねる連続。見かねた和希が何ヵ所か修正ポイントを教えてくれたおかげで何とかネットに届くようにはなったが、こんな調子でラウンドに行って大丈夫か不安になった。
それからラウンドまで2回練習に行ったが不安解消にまで至らない……。そんな不安のなかラウンド当日を迎えたのだった。
昨夜は22時にベッドに入ったが緊張でなかなか眠れない。何回寝返りしたかわからないが、2時頃に漸く眠りについた。
《ピピピピピ》
6時のアラームが再び緊張のスタートの合図だ。
(朝かぁ。あー緊張するなぁー)
頭をスッキリさせるためにシャワーを浴び、出かける準備をしていると和希からメールの着信。
〈もうすぐ着くよー〉
〈了解〉
メールの返信をして忘れ物がないかもう一度確認をしてから待ち合わせ場所のコンビニに向かった。和希は既に到着していて、由唯を見つけるとタバコを吸っていた右手を上げた。
「ごめーん! 待った?」
「おはよー、大丈夫やで。じゃ行こうかー」
車にバッグを積んで助手席に座ると、昨夜から緊張して寝れなかったことを和希に話した。
「昨日から緊張が止まらんわー。どうしよう?」
「あははは、身内のゴルフやねんから緊張せんでいいやろー 笑」
和希はいつも明るい由唯が緊張するってほんまか? と思ったが、コンビニで買ってきたおにぎりを食べる手が小刻みに揺れているのをみて、意外な一面を見たなと思った。
車の中では時間が経つにつれ、笑顔が出てきていつもの由唯に戻ったように見えた。
高速道路を降りると、渋滞もなく順調に車は走っていく。カーナビの画面を見て「予定通りの到着時間やな」と和希の声で由唯もカーナビを見た。
「ゴルフ場まであと10分? あぁーまた緊張してきたー」
ゴルフ場でゴルフウエアに着替えると、和希はパター練習場に向かった。遅れて由唯もパター練習場に歩いてきた。
この時は、すっかり緊張はなくなったのかと思ったが、ティーグランドに立つと顔が緊張してるのがわかった。
久々のラウンドは、緊張と練習不足からスコアの方は136と言う結果だった。和希と小沢は久々にしては上出来だと言ってくれたが、昔はアベレージ115でプレーしていた由唯は納得出来なかった。
(あかーん。もっと練習しないと……)
綺麗なスイングで目標110を切るぞ!
と密かに誓った。和希の指導ではこれ以上は上手くならないだろうなぁと思い、京橋の駅ビルに新しくできたゴルフスクールに入会を決心した。
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