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【7】澪のバレンタインデー

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 運ばれてきたシャンパンは、淡いブルーの光が反射して、まるで夜景の一部のように綺麗で、2人は静かにグラスを合わせ乾杯をした。

「澪さん、この前と感じが違いますね?」
「そうですか? この前はちょっと飲み過ぎたみたいです。 お酒を飲むと変わるね。ってよく言われるんです 笑」
「そうなんですか? ほろ酔いの澪さん可愛かったですよ 笑」

 (素面で言われると恥ずかしい……)

 ひと品目のサラダが運ばれてきた。赤、緑、黄の色とりどりの野菜は、窓から見える夜景のように綺麗に盛り付けられている。

 尾崎がサラダを取り分けてくれて、澪は手を合わせて「いただきます」と小さな声で言った。

「んっ! このサラダ美味しいです~!」
 口の中でシャキシャキと音がして新鮮なことがわかる。

 尾崎は澪のペースに合わせるようにシャンパンを飲み終わると、

「ワインは赤と白どちらが好きですか?」
「どっちも飲みます。でもオマール海老のローストなら白がいいかなぁ?」
「では、白にしましょう」

 尾崎が店員にワインリストをお願いして白ワインをボトルで注文した。店員は手際良く、ワインクーラーを用意するとボトルのエチケットを尾崎の方に見せて目の前で開栓してくれた。

 最初の一杯を澪に勧め、続いて尾崎のグラスにも注いでもらうと、店員は店の奥に消えた。

 尾崎がグラスを置くと、

「会社は淀屋橋でしたよね? 番組のロケでよく行くんですよ」
「へぇー、どんなロケが多いんですか?」
「飲食店が多いですが、タレントさんと一緒にお勧めのお店に行ったりもします」
「では、美味しいお店や素敵なお店たくさん知ってるんですね!」
「そうですね。お勧めのお店一緒に行きましょう!」
「ありがとうございます! 楽しみです」

 雰囲気も和んできたところで、澪は鞄を手に取ると、用意してきたチョコレートを取り出した。

「はい。これ、どうぞ!」
「何ですか?」
「バレンタインデーなので……」
「えっ! チョコですか? ありがとうございます!」
「あと、これも」
「えっ⁉︎  2つあるんですか? 開けていいですか?」
「はい、どうぞ。気に入ってもらえたらいいんですが……」
「嬉しいです。なんだろ? おっ! 名刺入れじゃないですか。いい色ですね。ありがとうございます! さっそく明日から使わせてもらいますね」

 何を買ったらいいか悩んだが、喜んでくれた顔を見て澪はホッとした。

 前菜に続いてパンが運ばれてきた。テーブルに並んだ焼きたてのフォカッチャを澪はちぎって口へ入れる前に香りを楽しんだ。

「このフォカッチャいい香りがしますね」
「そうなんです。オリーブオイルとハーブの風味がしっかりしてるでしょ?」
「うん。私、パンが好きでいろんなフォカッチャ食べましたがこんないい香りがするの初めてです」
「よかったー」

 尾崎が嬉しそうに笑った。

「尾崎さんもパン好きなんですか?」
「はい。パン好きですよ。番組でパンの特集をした時はテンション上がりました! 笑」
「いーな! 仕事でいろんな美味しいもの食べられてー」
「いやいや、いいことばかりじゃないですよ! 若い時は、ロケの下見でバンジージャンプをさせられたり本当に泣きそうでした」

 前菜の次はパスタが並んだ。2人の会話は途切れる事なく楽しい時間が過ぎていく。

 パスタを食べ終わった尾崎が、いよいよお待たせとばかりに、

「次はいよいよお勧めのオマール海老のローストですよ!」

 オマール海老がくるまでの間、尾崎が話題を変えた。

「どんなタイプの男性が好きですか?」
「んー……。ひと言で言うと、男らしくて優しい人ですね。仕事も一生懸命で、周りにもちゃんと気遣いが出来る方が理想です。もちろん、一緒にお酒が飲めることは絶対条件ですけど 笑」
「そうなんですね。 僕、仕事に一生懸命ですよ! お酒も飲みますしね」
「あはは、私の理想ですね 笑」
「私の仕事は基本同じことの繰り返しですが、尾崎さんはいろんな仕事でたくさんの人を楽しませたり感動させたりすることができるのは素晴らしい仕事ですね」
「そうですね、会社は視聴率ばかり気にして現場は大変だけど、やりがあいのある仕事です」

(視聴率かぁ、みんな数字に追いかけられるんだなぁ…)

 その時、オマール海老が運ばれてくるのが見えた。
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